魚介類の毒

食べて中毒する魚介類です。

 

フグ毒(テトロドトキシン)

日本人の全てが,フグ肝が有毒であることを知っているにもかかわらず、美味(?)であるためか事故は後を絶たない。1955〜60年は毎年死者100人以上であったが、近年は年間1桁台。それでも毎年のように死者がでており、新聞に話題を提供している。

[特徴]
毒性は、臓器・季節などによって異なるが、卵巣と肝臓の毒性が強い。
種によって、皮や精巣にも毒性あり。フグ毒は水に不溶で熱に比較的安定。

[中毒症状]
1.食後、20分〜3時間で口唇、舌端にシビレ発生。頭痛、腹痛、腕痛を伴うことも。
2.千鳥足状態になり、嘔吐も。
3.運動機能が低下、知覚麻痺、言語障害、呼吸麻痺。
4.血圧の著しい低下、チアノーゼ、呑み込み不能、反射反応消失、意識混濁。
5.意識不明、呼吸停止。
6.心停止。

[対応]
特効薬なし。応急措置として、強制的に嘔吐させる。胃洗浄。

[毒化機構]
・網いけすで養殖すると、毒性は全く認められない。
・養殖でも、湾を仕切ってフグが自由に低棲生物を食べることができるなら毒化する。
・無毒の養殖フグにフグ毒を混ぜた餌を与えると毒化する。
・他の魚に死なない程度のフグ毒を混ぜた餌を与えても、毒化しない。
以上により、
フグはフグ毒を有する餌を選択的に摂取し、食物連鎖によってフグ毒を蓄積する。
フグはフグ毒に強い抵抗力がある。 食物連鎖の根元にいるのは、TTX産生海洋細菌といわれている。

[フグ毒を検出したその他の生物]
イモリ
(カリフォルニア産),ツムギハゼ(南西諸島),Atelopus属のカエル(中米コスタリカ、パナマ)、ヒョウモンダコ(オーストラリア産:ダイバーが咬まれて死亡する例あり。咬む際に唾液腺からフグ毒を注入),バイの中腸腺(巻貝:1957年、新潟県で死亡例あり),ボウシュウボラの中腸腺(静岡などで中毒例あり),エラコ(宮崎県),スベスベマンジュウガニ(腸内にTTX産生酸性の細菌)、カブトガニの卵巣(タイ)

麻痺性貝毒(PSP:Paralytic shellfish poison)

北海道で生産量の多い養殖ホタテが毎年夏頃になると毒化して漁業者を悩ませている。また、広島のカキも毒化し、その範囲は日本全土に広がっている。毒成分はサキシトシンであり、その毒力はフグ毒に匹敵する。

[中毒症状]
食後30分で口唇、舌、顔面のシビレ、手足にも広がる。軽症の場合、24〜48時間で回復。
重症の場合:運動障害、頭痛、嘔吐、言語障害、流涎。マヒが進行し、呼吸困難で死亡。

[対応]
治療薬なし。対症療法として、胃洗浄、人工呼吸。

[毒化機構]
二枚貝が有毒プランクトン(渦鞭毛藻Alexandrium属)を摂取、中腸腺に蓄積。

[毒化貝]
二枚貝のホタテガイ,ムラサキイガイ,アカザラ,アサリ,ヒラオウギ,マガキなどで1948〜1989年に4名死亡。
1994年、巻き貝のスペイン産トコブシでも毒化例あり。

下痢性貝毒(DSP:Diarrhetic shellfish poison)

PSPと同様に北海道では毎年のようにホタテガイが毒化する。
毒力はフグ毒の1/16。程度。1976年、宮城県でムラサキイガイ喫食による集団食中毒事件

[中毒症状]
激しい下痢が主症状で、吐き気、嘔吐、腹痛を伴うことも。死亡例なし。

[毒化機構]
二枚貝が有毒プランクトン(渦鞭毛藻Dinophysis属)を摂取、中腸腺に蓄積。
ムラサキイガイ,ホタテガイ,コマタガイなどで毒化。

高含量脂質(グリセリド、ワックス)

垂直移動の激しい、深海の魚を食べての中毒。中毒症状は下痢、腹痛。

アブラボウズ
 肉は美味であるが、グリセリドの含有が高く、多量に食べると肛門から油がしみ出 るそうだ。
アブラソコムツ、バラムツ
ワックスの含量が高い。食品衛生法で販売が禁止されている。中毒事例7件死者0。他にワックスを含むものとして、ボラの卵(高価なので少量しか食べられない。)マッコウクジラ(洗剤や化粧品原料。今は獲れない?)

シガテラ毒

シガテラとは、熱帯及び亜熱帯海域における主にサンゴ礁の周辺に生息する。毒魚によって起こる死亡率の低い食中毒の総称。

[中毒例]
1949年以降、29件330名死者0
バラフェダイ7件、バラハタ7件、その他のハタ6件、オニ(ドク)カマス3件。
他にも毒性の高いドクウツボ、マダラハタ、サザナミハギなど。

[中毒症状]
消化器障害(下痢、嘔吐)
循環器障害(血圧降下、心拍数減少)
神経障害(知覚異常、縮瞳)
その他(脱力感、関節痛)

ビタミンAによる食中毒

イシナギ、サメ、マグロなどの肝臓には、多量のビタミンAが含まれ、摂取すると、ビタミンA過剰症を起こす。1960年厚生省通達で、イシナギ肝臓の食用禁止措置がとられた。

[中毒症状]
激しい頭痛、嘔吐、発熱、顔面の浮腫、特徴的な皮膚の剥離。

一般に魚は老齢になると肝臓中のビタミンAの蓄積量が増加するので、
他の魚でも注意が必要である。

テトラミン

北海道でツブと呼ばれている肉食性巻き貝のヒメエゾボラ,エゾボラモドキの唾液腺に局在、常在する。
道内では常識であり、中毒例はあまり聞かない。

[中毒症状]
食後30分で、頭痛、めまい、船酔い感、足のふらつき、眼のちらつき、吐き気など。
2〜3時間で回復。中毒は軽く、死亡例なし。

[予防」
外套膜をめくると、その下に1対のアズキ大の淡黄色のものがある。
これが唾液腺でこれを取り除いて食べる。

バイの毒

毒成分:neosurugatoxin,prosurugatoxin
中腸腺に局在。
1957年新潟県5名中3名死亡。

[中毒症状]
口渇、視力減退、瞳孔散大、言語障害。
重症の場合、激しい腹痛、嘔吐、下痢、四肢の痙攣、意識混濁。

[毒化機構]
バイの生息地周辺の泥土中の細菌とみられている。

アサリ毒(venerupin)

春先、特定の地域で毒化。
浜名湖で大規模食中毒。185名死亡。
1950年以降、同地産の毒化も中毒発生も見られない。

[中毒症状]
食後24〜28時間、悪寒、食欲不振、腹痛、倦怠感、悪心、嘔吐、便秘。
皮下出血斑が必ず見られる。
2〜3日後、口、歯茎、鼻などの粘膜に出血。口臭が特徴的。黄疸も見られる。
重症の場合、神経錯乱を起こし1週間以内に死亡。

[毒化機構]
原因は渦鞭毛藻説や酵素説があるが不明。
毒化する貝は、アサリ,カキ,カガミガイなど。中腸腺に蓄積。

神経性貝毒(NSP:neurotoxic shellfish poison)

毒成分:ブレベトキシンbrevetoxin
米フロリダで、渦鞭毛藻Gymnodinium breveの赤潮が頻繁に発生し、
それによって毒化したカキをヒトが食べて中毒した。
日本での例はない。

[中毒症状]
食後数時間して、飲物を飲んだときに口内にヒリヒリ感。
やがて顔、のど、身体全体に広がり、酔った状態になる。
瞳孔散大、運動失調、下痢。
2〜3日で回復。

ドウモイ酸(記憶喪失性貝毒)

1987年11〜12月、カナダ東岸でムラサキイガイによる中毒。
主症状は胃腸、神経症状。患者107名中4名死亡。12名が記憶喪失。
原因物質:ドウモイ酸(脳神経系における主要な伝達物質。興奮性アミノ酸)

日本での中毒例はないが、ドウモイ酸を産生すると言われている赤潮は見られる。
南西諸島や鹿児島における紅藻類のハナヤナギはドウモイ酸を持つ。

アワビ中腸腺による光過敏症

[中毒症状]
アワビの中腸腺を摂取後、日光に照射されると発症。
顔面と四肢の灼痛。顔面套の腫れ、火傷状の水泡。

[有毒種]
メガイ、トコブシ、エゾアワビ
が原因となりうる。
有毒期間は春先2〜5月。その時の中腸腺の色は濃緑黒色。無毒は灰緑色または緑褐色。
餌の海藻のクロロフィルに由来すると思われる。

コイ毒

@コイ科魚類の胆のうに薬効があると信じ、中毒する。
[中毒症状]
腹痛、嘔吐、激しい下痢、黄疸、乏尿、浮腫。
中国では、フグに次ぐ死亡率。

A胆のうにかかわらず、コイあらい、コイこくで中毒。
[中毒症状]
嘔吐、めまい、歩行困難、言語障害、痙攣、麻痺などの神経障害。
発生地域は九州に限定。外国での例もない。原因不明。

アオブダイ中毒(パリトキシン)

アオブダイは時として、肝臓に強毒を持つ。
1953〜1995年にかけて、患者55名、死者5名。
長崎、高知、和歌山などで発生。

[中毒症状]
筋肉痛、呼吸麻痺、痙攣、重症は死亡。
患者の特徴として、ミオグロビン尿(黒褐色の尿)、血清GPT,GOT,LDHが異常に高い。

ナガズカ卵巣の毒

北海道が主産地、あまりなじみがない魚。
肉は主に練り製品として利用。
丸のままの販売はほとんどなく、釣りの外道として、時々見かける。
嘔吐、下痢、腹痛が主症状。

モズク中毒

多食すると中毒するらしい。
[中毒症状]
しびれ、全身のかゆみ、吐気、腹痛など

食糧難の時代、地域によって大量にたべるひとがおり それ故中毒者がでたのだろう。
原因不明。フグなどの有毒魚種が産み付けた卵という説もある。

オゴノリ中毒

刺身のツマに使われる海藻。日本での中毒例は3件。死者あり。

[特徴]
・新鮮な生のオゴノリを食べている。
・死の引き金は低血圧。
・死者は女性のみ。

生のオゴノリの酵素により、一緒に食べた食品からPGE2など生成。
その薬理作用から低血圧が引き起こされたと推定。
PGE2は分娩促進剤として用いられ、女性には微量に作用。
市販のオゴノリは石灰で処理されているので問題なし。

1996.8.24の新聞によると、
東北大でアプリシアトキシンという毒によるものと断定。
これは、単細胞藻類のラン藻が細胞内で生産する猛毒成分。
オゴノリに突き刺さるようにラン藻が付着していたらしい。


魚介類の毒2

刺したり咬んだりする危険な魚介類です。

■カツオノエボシ

非常に恐れられている暖海性のクラゲ。
日本近海にも生息。
成体では触手が30mに達するものも。

[症状]
刺されると激しい痛み。みみずばれ。
ひどいときは、頭痛、吐気、呼吸困難、脈拍変化、
最後にひきつけをおこし死亡。

Chironex fleckeri(クラゲ)

非常に危険。
南太平洋〜インド洋に分布。
英名で、box jellyfish or sea wasp
北オーストラリアでは多数の遊泳者が数分以内に死亡。

■カサゴ科

オニオコゼ、ヒメオコゼ、ハチ、ミノカサゴ、
特にダルマオコゼは刺されると、傷口から始まる極端な痛みが手足全体に広がる。
ひどいときは、全身衰弱、発汗、呼吸困難、けいれん、昏睡、2〜3週間以内に死亡。

■エイ(アカエイ科、トビエイ科)

尾部に鋭い1本の刺棘。攻撃的に使うことはほとんどない。
気づかずに踏んだ場合が多い。
激しい痛みが長時間続く。死亡するときもある。

■イモガイ科

沖縄、奄美大島に生息。
種類によって毒作用が異なる。
アンボイナガイ、シロアンボイナガイが特に危険。
吻から槍のような矢舌を突き刺し、魚や貝などのエサを麻痺させ補食。

[症状]
刺されると激しい痛み。嘔吐、めまい、流涙、流延、胸痛。
ひどいときは、呼吸・嚥下(飲み込み)・発声困難。
目のかすみ、運動失調、全身の痒み。
呼吸麻痺、死亡。