むっちーの

きのこ放談

道南近辺で採取された珍しいきのこについて

はじめに
 北海道,特に函館地方近辺はブラキストン線上にあるためか北方系・南方系の種々多様なキノコが生息している。さらに人工林(スギ林・竹林等)がおおいため,本来生息しないはずのキノコが時に発生し,新聞を振るわしたりすることもままあったりする。
 それでは,早速鑑定に持ち込まれた珍種・珍品のキノコを紹介したい。

オオイチョウタケ  キシメジ科
 平成7年に鑑定したキノコの中で,最も特筆すべきキノコであった。このキノコは主にスギ林に発生し,当地においてもスギが至る所に植林されておりいつ何時発生してもおかしくはなかったのであるが,筆者が鑑定を始めて数年終ぞみることができなかったいわば幻のキノコであった。
 最初持ち込まれたときはカヤタケの巨大化したキノコだろうと思ったが,専門書をよく調べてみるとどうやらオオイチョウタケらしいことがわかり,おそるおそるながらも試食してみることにした。ゴミを洗い落とした後食塩をさらっと振りかけアルミホイルに包んで焼いた単純な調理法である。
 なんと美味なることか!こればっかりは食してみないとわからないものである。あえて表現するなら,ヒラタケのこりこりした歯ごたえとホンシメジにも似た濃厚なる味とでもいうべきだろうか。
 よくよく専門書を読むと味のところに丸が三つついているではないか!たかだかキノコとバカにしていたものだが,これならば一流の料亭やレストランにも似た濃厚なる味とでもいうべきだろうか。
 ただ,この年以降発生したという話は聞かず,また鑑定依頼も来ず誠に残念である。

ニセクロハツ  ベニタケ科
 平成5年10月初旬に鑑定したキノコの中では最も珍しいキノコであった。専門書曰く「裂いてみると肉が赤変するが黒変はしない」となっているので,試しに裂いてみたところその通りとなった。ちなみに,食用であるクロハツは裂くと肉は赤変した後黒変する。
 キノコを持ってきた人に聞くと,自宅のサツキの木の下に発生したとのことであり, 数日して筆者がその方の家を通りかかったところ,確かにサツキが庭に植わっていたが,果たして専門書に書いてあったシイ,カシの木の類は一本も植わっていなかったのである。(関東以南のシイ・カシ林に発生するとのこと)もちろん,何故そのような場所にニセクロハツが発生したかわからない。キノコの発生メカニズムにはまだまだ計り知れぬ謎が多いことを感じさせる出来事であった。
 話は前後するが,鑑定に持ち込んだ方には猛毒キノコであることを伝え,再度発生しても試食せぬよう話をした。

シメジモドキ(ハルシメジ)  イッポンシメジ科
 平成8年頃だったと思うが,クサウラベニタケ様のキノコ鑑定依頼があった。本をひもとくとイッポンシメジ科のページにシメジモドキなる記述を見つけ,慎重に同定してみたところ間違いなかろうとのことで,これを試食してみることにした。実は筆者はどうしても食べることができず,変わりに同僚が試食したのであるが,すこぶる美味い,とのことであった。味はハタケシメジのようであり,歯触りはシャキシャキッという感じだそうである。食べなかったことを後悔したのが後の祭りであった。それ以来シメジモドキの鑑定依頼はない。

キヌガサタケ  スッポンタケ科
 以前新聞にキヌガサタケが発生したという記事が掲載されたことがある。それから数日経って,キヌガサタケの鑑定依頼があった。見ると,多少幼菌がツボから出ていてレース状の膜(菌網)も確認できた。
 新聞には松前か江差付近で発生したと記憶していたが,この場合もまさにそれであり確か竹林で見つけたという話だった。
 見た目には実に美しいキノコであるが非常に臭いのには閉口してしまった。というのもこの類のキノコのクレバ(基本体:腹菌類等特有の菌組織)は悪臭を放つものが多い。筆者は専門家ではないので詳しくはわからないが,おそらくハエなどの昆虫に胞子を運んでもらうためなのであろうか。
 ちなみに本来は熱帯性のキノコであるから,やはり北海道では希少価値のあるキノコであることは間違いないであろう。

チョレイマイタケ  タコウキン科
 最近はまれであるが,年1〜2回くらい鑑定依頼がきたキノコである。
 このキノコは地下に菌核をつくって,そこから発生する。ご多分に漏れずこのキノコも非常に珍しく希少価値が高いので,これを採った人は場所を秘密にするそうである。(漢方では猪苓といい利尿剤に用いる)
 筆者も初めてこのキノコを見たときはその見事な菌核の様子に思わず感動したものである。

タケリタケ  ヒポミケスキン科
 何ともはや言葉では言い表せぬほど見事?なキノコである。初めて鑑定に持ち込まれたとき,まさに本の通りのキノコそのものであった。今でも標本として保管してあるが,その珍妙な形は他の標本を圧倒してひときわ異彩を放っている。もっとも,正確にいうならばタケリタケとは,宿主のキノコに寄生したために奇形となったキノコにつけられた俗称だそうである。本体はその奇形キノコ上に張り付いている。珍しい形の割には比較的多く見つかり,キノコが持ち込まれると,あちこちで素っ頓狂な歓声?があがる。

ニシキタケ  ベニタケ科
 道南近辺では主にコナラ林などに生える。決して珍しいキノコとは言えないが筆者が今まで見たキノコの中でベスト5には入るのではないだろうか。それほど見事な美しさ,すなわち錦という名は決して大げさではないと言えると思う次第である。カサは橙黄色,柄は黄みを帯び雑木林の中にポツポツ発生する。しかしながら不思議と鑑定依頼が来ず,初めて鑑定したのは平成8年になってからであった。それ以来毎年見つかっているが,キノコとは思えぬほど美しいので目の保養になって大変結構なことだと思う。

シャカシメジ  キシメジ科
 平成9年頃,このキノコの株が持ち込まれた。本を調べてみると今や幻のキノコと言ってもいいシャカシメジであった。おそらくコナラ林で採取したのであろうが,持ち込んだ方がはっきり言わぬので,こちらもあえて聞かなかった。この手のキノコはホンシメジなどと同じ菌根性と言われているらしく,毎年同じ場所に発生するそうである。ただ,専門書を見るとクヌギの混じった混生林に発生するとなっており,その点がどうしても納得いかなかったのである。なぜなら,当地のみならずそもそも北海道にはクヌギの木は生えていないからである。にもかかわらずかかるキノコが発生するのは誠にもってキノコの生態の摩訶不思議としか言いようがないのであろうか。

シャグマアミガサタケ  ノボリリュウタケ科
 このキノコは春に発生するキノコで,春先に持ち込まれたことがある。日本人はその形の不気味さから殆ど食してみようとする者はいないが,ヨーロッパではしばしば中毒例があるそうである。有名な猛毒キノコであるが,学名にエスクレンタ(ラテン語で食用という意味らしい)とあるように十分煮沸して煮こぼせば立派な?食用キノコになるそうである。このキノコの標本もあるが,ヨーロッパの人々のようにはとても食欲など湧いてこないキノコである。

おわりに
 以上,思いつくままに鑑定依頼に持ち込まれた珍種・珍品のキノコをざっと挙げてきたが,まだまだたくさんの珍しいキノコが持ち込まれるであろう。それだけ菌類の世界が摩訶不思議なことの証明であり,出来うるならばその謎を本の少しでも解き明かすことができれば在野の素人鑑定家?としては非常に幸いであると考える。