++蒼い時++

ライオンは「てつがく」が気に入っている。
かたつむりが、ライオンというのは獣の王で
哲学的な様子をしているものだと教えてくれたからだ。
きょうライオンは「てつがくてき」になろうと思った。
哲学というのは座り方から工夫した方がよいと思われるので、
尾を右にまるめて腹ばいに座り、
前肢(まえあし)を重ねてそろえた。
首をのばし、右斜め上をむいた。
尾のまるめ具合からして、その方がよい。
尾が右で顔が左をむいたら、でれりとしてしまう。
ライオンが顔をむけた先に、草原が続き木が一本はえていた。
ライオンは、その木の梢を見つめた。
梢の葉は風に吹かれてゆれた。
ライオンのたてがみも、ときどきゆれた。
(だれか来てくれるといいな。「なにしてるの?」と聞いたら
「てつがくしてるの」って答えるんだ)
ライオンは、横目で、
だれか来るのを見張りながらじっとしていたがだれもこなかった。
日が暮れた。ライオンは肩がこってお腹がすいた。
(てつがくは肩がこるな。お腹がすくと、てつがくはだめだな)
きょうは「てつがく」はおわりにして、
かたつむりのところへ行こうと思った。
「やあ、かたつむり。ぼくはきょう、てつがくだった」
「やあ、ライオン。それはよかった。で、どんなだった?」
「うん、こんなだった」
ライオンは、てつがくをやった時の様子をしてみせた。
さっきと同じように首をのばして右斜め上を見ると、
そこには夕焼けの空があった。
「ああ、なんていいのだろう。
ライオン、あんたの哲学は、とても美しくてとても立派」
「そう?・・・とても・・・何だって?もういちど云ってくれない?」
「うん、とても美しくて、とても立派」
「そう、ぼくのてつがくは、とても美しくてとても立派なの?
ありがとうかたつむり」
ライオンは肩こりもお腹すきもわすれて、
じっとてつがくになっていた。

(工藤直子/「てつがくのライオン」)

書名/蒼い時 著者/エドワード・ゴーリー 訳者/柴田元幸 初版/2002年11月 発行/河出書房新社
今回紹介するゴーリーは 肩こりもお腹すきもわすれて、じっとてつがくになる本。 黄昏のワケもなく涙しそうな想いを抱いたならば、 それはとても美しくて、とても立派なのです。 そう、例えば、こんな哲学はいかがですか。
英文で綴られている中に、突如日本語(ローマ字)が現れました。 センス 「Kampan'yo-isu no ryokin wa tokubetsu ni ikura desu ka? Kibun ga warui.」 文は日本語で書かれている上に、 挿絵は扇形の面に和風文様とまるで蒔絵のよう。 そして、この「蒼い時」の主人公2人が扇子を持っています。 いやぁ、センスがいいねぇ! 今や懐かしのジュリアナやってるよ!お立ち台!! ハハハハハ!
しかし、この「蒼い時」何が一番蒼くなった時かって こんな使い古しのネタしか思いつかなかった時に相違ない。 センスと扇子・・・。 ついでに、お立会いとお立ち台もかけてるんです。 ギャグの解説ほどワケもなく涙しそうな時もありません。