++犬食【食間編】++

D屋へ到着し、店内へ入るとそこはもう異国。
メニューから店員から客から
流れているTVまで全てがハングル語。
パスポート持たずに出入国を果たした密航者って
こんなにも心細い思いをしているのかもしれない。
とりあえず、日本語が併せ書いてあるメニューに目を通す。
「・・・。」
補身湯、ないんですけど・・・。

店員のおばちゃんにオーダー。豚バラセットを2人前。そして、 「補身湯、ありますか?」 「ハイ、1人前ね?」 2人いるのに、事実、豚バラセットは2人前頼んでいるのに 補身湯は1人前と聞いてくるあたり、よっぽど日本人は 犬が食えないと分かっているのだろう。 私たちも1人1人前食べるつもりは毛頭無かったけどサ。 おばちゃんは値踏みするように私らを見たよ。 “お前らにはムリだ。” そんな声が聞こえてきそう。
驚いたことに、キムチやナムルや小魚など お通しだけでも5〜6種類出てきた。 豚バラセットがやって来た。 肉がこれまたとんでもない厚切りで、 長さも結構あるので鋏でチョキチョキ切りながら食べたよ。 セットの野菜はサンチュと・・・もう1種はなんだろう? 紫蘇か大庭のような葉なんだけど、 柑橘系に近い爽やかな味がする。 ご飯を追加注文。 一般的な家庭にある炊飯ジャーで炊かれているはずなのに ビミョーに味が違う。(よく研いでいないだけかも・・・。)
そうこうしている内に、遂にやってきました補身湯・・・。 真っ黒な石鍋がぐつぐつ言って来た。 見ると、煮えたぎる真っ赤なスープに葱や韮のような 青々とした野菜が浮かんでいる。その上にはことさら 真っ赤な香辛料・・・。 スープを底からかき混ぜると、赤黒い肉が出てきた。 これが、犬だ。 それもとんでもなくデカイ肉塊だ。 箸で細かく分けようとすると、 筋張ってて切れません。 ここでも鋏を使ってチョキチョキ刻む。 いざ、一口目。 と思い、肉を口側まで持って来て その強烈な臭いに気付く。
犬の名誉のために言っておくが、 犬肉そのものの味は食えないことはなく、 それどころか「あれー?どっかで食ったことある味だなぁー?」て感じ。 案外、コンビニの唐揚げには犬の肉が本当に使われていて それで知ってる味なのかもなぁ。 でも、思い出せそうで思い出せないこの味。 そこで、牛豚鶏はもちろん、馬羊鯨猪鹿と言った今まで 私が食べたことのある肉の味を1つ1つ丁寧に思い出して 犬と比べてみる。その結果、行き着いたのが 鴨。 なのだが、どうだろう?鴨の味をもっとしつこくして ぎらぎらぬらぬらにした感じ。 問題なのは犬以外。 犬の臭みを消すためのスープと野菜と香辛料が 見事なまでの不協和音!! 草い切れのむっとした臭いに近い野菜の青臭さに、 何がどう入っているのか数種類の香辛料が放つ芳香、 それらが合わさったスープが放つ酸っぱ辛い臭いは、 慣性の法則に従って生ゴミ臭。 ・・・朝鮮の方々を始め、全ての補身湯を愛好する方々には とてつもなく済まなく思うが、このスープと野菜と 香辛料は私にはムリだ。
主たる犬肉ではなく、その周りに伸されるなんて とんだ伏兵に殺られたもんだよ。 肉にも例の酸っぱ辛い臭いが染み付いているもんだから 結局、殆ど残しちゃったよ・・・。 無念。 (2002/02/15)