ネオ・ノベル「我輩は猫ではない」


 我輩は猫ではない。
 では、何者かというと、実は、我輩も知らないのだ。
 それは置いておいて、見てくれよ、君。この黒い光沢の羽。美しいだろう? さらに頭の触覚は、我輩が最も気に入っているのだ。
 なのに、サトルとかいう者は我輩を見ると驚いて何やら変な臭いの霧を吹きかけ、マチコとかいう者は巨大な棒なんかで我輩を潰そうとする……。
 我輩は何もしていないのにだよ、君。この悲しさが分かるかい?
 あ、そうそう。この前なんて、旨そうな匂いがするからそれにつられて行ってみれば、仲間が沢山、変な箱の中で身動きがとれなくなっていたんだよ。その箱には、なんとかホイホイと書いてあったなあ。我輩は驚いて逃げ帰ったよ。一体あれは何だったんだろう?
 多分、あのサトルとかいう奴の仕業だね。もう頭来ちゃって、妻に頼んであいつの靴の中に卵を産ませてやったよ。あいつの驚いて泣き叫んだ顔をあんたにみせたかったなあ。
 えっ? 妻? いやあ、お蔭様でうまくいってるよ。この間、浮気がバレちゃって寄りを戻すのに苦労したんだよ。せっせせっせと食べ物を毎日運んで、やっと許してもらったんでさあ。
 あっ、もうこんな時間だ。子供たちが待っているんで、もう戻らないと。じゃあ、達者でな。あと、あんたの兄貴によろしくな。また縁があったら会おうや。ピョンピョン、バタバタバタ……。




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