ネオ・ノベル「来ない……」


 来ない……。
 僕は時計を見た。
 午後〇時十五分。
 十五分かぁ……。
 僕は溜め息をひとつついた。
 僕は友達を待っている。待ち合わせた時間は、午後〇時ちょうど。
 友達は、待ち合わせ時間通りに来たためしがない。そんな奴だ。
 まあ、それでもまだ十五分だ。
 隣では、僕よりちょっと年下に見える女の子が誰かを待っている。
 彼氏でも待っているんだろうか。
 他にも待ち合わせをしている人がたくさんいる。
 みんな、どんな気持ちで人を待っているんだろうか。

 来ない……。
 僕は、もう一度時計を見た。
 午後〇時三十分。
 三十分。
 ちょっと遅いんじゃないのか。
 僕はイライラし始めた。
 三十分も遅れるなんて、ちょっと待ってくれよ。
 すかさず僕は懐の携帯電話を取り出すと、彼の電話番号をダイアルする。
 数回の呼び出し音ののち、
 「おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていない為かかりません」
 聞こえてきたのは、つれない自動応答メッセージだった。
 おいおい、何やってるんだよ。
 僕はひとりでツッコミを入れた。
 むなしかった。
 隣にいる女の子は、あたりをうろうろし始めていた。
 彼氏はまだ来ていないようだ。
 あの娘だって待っているんだしな……。
 みんな、どんな気持ちで人を待っているんだろうか。

 来ない……。
 僕は時計を見た。これで三回目。
 午後〇時五十分。
 五……五十分。
 さすがに、僕も我慢には限界がある事を認めざるを得なかった。
 ケッ、あんな奴と待ち合わせなんかするんじゃなかったぜ!
 後悔先に立たずである。
 そのうえ、隣では……。
 「ごめん、待った?」
 二枚目タレント風の、ちょっとイカした男が女の子の目の前に現れた。
 「ううん、いま来たばかりよ」
 首を振る女の子。
 よく言うよ。五十分も待っていたくせに……。
 心のなかで皮肉を言う僕。
 やっぱりむなしかった。
 どうするか……待つか……。
 ただ待っているのも悔しかったから、本屋にでも行って待つことにしよう。
 僕は、足早に本屋へと向かった。
 みんな、どんな気持ちで人を待っているんだろうか。

 「おいおい、何やってるんだよ。もう1時半だぜ。待ちくたびれちまったよ」
 友達は僕の顔を見るなり、いけしゃあしゃあとそう言ってのけた。
 そう。僕が本屋で時間をつぶして戻って来たら、いたのだ。彼が。
 そのうえ、自分は午後〇時から待っていたと言いたげな口ぶり。
 反射的に僕は、こう叫んでいた。
 「遅れて来たお前がいうな! 待っていたのは俺だ!」
 やっぱりむなしかった。




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