ネオ・ノベル「ヴェヴィー・ヴェヴィー」
その時、俺は目が見えなくなった。とてもダークで永遠に広がる世界に絶望を感じた。
「あらあら、ゴメンなさいね、悟ちゃん。洗濯物が落ちちゃったわ」
途端に、現世へと引き戻される。一瞬だが地獄のような体験はもううんざりだ。ここは釘を刺す意味でも……泣いてやる。
「泣かないの、ベロベロベロ……バア!」
彼女……どうやら自分のことを俺の母親だと思っているらしい……は俺を抱き上げると、奇妙な呪文とともに舌を出した。
義理で笑ってやる。
「まあ、良い子ねー。ごほうびよ」
Lucky!
至福の時だぜ。この時、俺はナイスなミルクをいただくのさ。
「ごめんなさいね。今日は粉ミルクなの」
Shock! それはないぜ。
けれども、彼女は強引に俺の口に哺乳瓶を押しつける。どうやら今日は悪夢の日みたいだ。苦しみながらも、なんとか俺はそれを飲み干した。
「今日は天気がいいから、お散歩しましょうね」
愛車のヴェヴィーカーに乗って出発だ。公園は俺たちの溜まり場だぜ。おっ、新入りかな? たっぷりと可愛がってやるぜ……。
「まあ、最近越してらしたんですか? いえ、こちらこそよろしくお願いしますわ、オホホホホホ……」
「満ちゃんも仲良くしてもらうのよ」
「小さい子は打ち解けるのが早いものなのよねー」
「ねー」
社交儀礼など、俺たちの世界には不要なのさ。さて、新しい舎弟もできたことだし……おっ、ヘイ彼女、決まってるねぇ。
「あら、あそこにいるの一丁目のさなえちゃんじゃない? もう歩けるのかしらー?」
Why? なぜ車に乗らねぇ?
もう足を洗ったのよ。あなたとはお別れね
そりゃないぜBaby! 一緒に保育園に行くって約束したじゃねぇか?
さようなら、悟
「たったひとりで、偉いわー。悟ちゃんも見習ってね。あら、泣いてるの?」
フン、男泣きでぇ。悪いか!
「まー、よしよし。早く家に帰っておしめを替えましょうねー」
明日は明日の風が吹く。止めてくんねぇ、おっ母さん。
平成の風が身にしみて、俺は身震いをするとあてもなくヴェヴィーカーを走らせていた……。
終
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