ネオ・ノベル「真・樵の泉」


 時代も場所も分かりませんが、あるところにふたりの樵(きこり)が住んでいました。
 デューシーの方は欲がなく自分に正直で、一方ブリトーの方は野心家でいつか大金持ちになってやると考えていました。
 今日もデューシーとブリトーのふたりは山に登って木を切っています。ヘイホー、ヘイホーとふたりのかけ声が山に響き渡ります。
 「今日も頑張って木を切らなくちゃな。家では母ちゃんと息子が腹を空かして待ってるからな」
 デューシーが木に斧を入れながらブリトーに言いました。
 「そうさな。樵だったら一生懸命に木を切らなくちゃ、生活なんかしちゃいられねえ」
 ブリトーは彼に答えながら、気合たっぷりに木に斧を入れます。
 メキメキメキメキ……ドスン!
 数十年間、この地に威風堂々その姿を誇示し続けて来た大木も、樵たちの手によって切り倒されていくのでした。
 「デューシー、俺はな……」
 ブリトーは切り倒した大木をまきの大きさに切り分けながら話し始めました。デューシーも彼の作業を手伝いながらその話に耳をかたむけます。
 「俺はな、こんな田舎で樵なんかして一生を終わらせるつもりはさらさらねえ。いつか大金を手にして町に豪華な宮殿を建てて暮らすんだ。町にいる大商人のマッキントッシュのようにな」
 「へえー」
 驚いた顔をしてデューシーは言いました。そして、彼は斧を動かしていた手を止めるとブリトーに反論するのでした。
 「俺は、苦しいけれど今のままの生活の方がいいな。たとえ大金持ちになったとしても、俺には何が満足なんだかよく分からねえし、何をしたらいいのかも分からねえ」
 「分かってねえなあ。ぜいたくして暮らせるんだぞ。毎日毎日木を切ってまきを売りにいかなくていいんだぜ。それがイヤだなんて、おまえどうかしてないか?」
 結局、今日の仕事は全然はかどりませんでした。それもそのはず、ふたりとも仕事をそっちのけで自分の意見を主張して一歩もゆずらなかったからでした。


数日後


 デューシーはいつものように木を切りに山へとやって来ました。今日は相棒のブリトーは来ていません。彼は町へまきを売りに行っているのです。
 「さあ、今日も頑張るか」
 デューシーは手ごろな木が生えている場所を探して歩き回りました。しばらくして、その木を見つけると斧を入れはじめました。
 「ヘイホー、ヘイホー」
 いつものように樵のかけ声が山中にこだまします。相棒がいないのでかけ声を入れても仕方がないような気がしたデューシーではありましたが、まあ習慣だからとひとり納得してかけ声を入れながら木を切るのでした。
 「よし、あと一息だな」
 木に最後の一撃を叩きつけようと、デューシーは斧を振り上げました。
 しかし、どうしたことでしょう! 斧は彼の手を離れると、どこかへ飛んでいってしまったのです!
 「しまったぁ! つい力が入ってしまった」
 失敗、失敗とデューシーは自分の頭をかきながら、斧が飛んで行った方向へと歩いていきました。しかし、斧はどこを探しても見つかりません。
 「あれ? あれだけ重い斧だから、大して飛んではいないと思うんだが……」
 デューシーは予備の斧を持ってはいたのですが、どうしてもあきらめきれません。斧は何度も何度も使い込んでいて、彼が愛着を感じている物なのでした。
 「よし、もう一度探すか……」
 再び斧を探し回るデューシー。しばらくの間、森を歩き回っていた彼は驚くべき光景を目にしました。
 そこでは、見たことのない赤、白、青、紫に黄色の美しい花々が咲き乱れていました。蝶が舞い、鳥は美しいメロディを奏で、そして中央にある泉には太陽が木々の陰翳(いんえい)を投げかけます。それらが織りなす幻想的な雰囲気が彼を魅了し、彼にはここが楽園のように思われてなりませんでした。
 「ああ、ここは楽園に違いない、きっとそうだ」
 斧を探すのも忘れ、ぼーっと立ち尽くすデューシー。時が過ぎるのも忘れそうでした。
 その時です。水面に波紋が現われたかと思うと、一人の美しい女性が現われました。
 「おお、何という美しい女性だ。あれは話に聞く妖精に違いない。いや、女神様だ」
 デューシーがそう思ったのも無理のないことでしょう。彼女は宝石で色とりどりに飾り立てられた服を着ていました。顔はどこにいる人間の女性よりも美しく、肌は雪のように真っ白です。そして、何よりも不思議なのは彼女が水面に浮いていることと、手に三本の斧を持っていることでした。そのうちの一本は見覚えのある、そう、デューシーの斧でした。
 「ああ、女神様……」
 デューシーに女神様と呼ばれた女性は、ゆっくりと口を開くと話し始めました。その声の音色といったらどんな楽器もかなわない、デューシーにはそう思えました。
 「私の泉にようこそ。ところで、あなたが落とされたのはこの金の斧ですか?」
 女神様は彼に質問しました。
 「いいえ」
 「では、この銀の斧ですか?」
 デューシーの答えを聞いて、女神様は再び彼に質問しました。
 「いいえ、めっそうもねえ」
 「ということは、この鉄の斧ですか?」
 デューシーは女神様がこの質問をするのを待っていましたとばかりに「そうです!」と答えると、
 「そうです! 俺が落としたのは金でも銀でもない、サビの浮いたただの鉄の斧だ。けれども、この斧には色々な俺の思いが染みついているんだ!」
 彼は自信たっぷりにそう言いました。
 「そうですね。貴方はとても正直な方です」
 女神様はデューシーに鉄の斧を返すと、さらに続けました。
 「貴方のような正直な方には会ったことがありません。その正直のごほうびとして、この金と銀の斧もさし上げましょう」
 「で……でも」
 「どうか、私からの感謝の印として受け取って下さい」
 「そう言うんなら……じゃあ」
 女神様の言葉に、ついにデューシーは折れて金と銀の斧を受け取りました。彼が礼を言おうと顔を上げると、もうそこには女神様の姿はありませんでした。それどころか、彼は見覚えのある切りかけの大木の前に立っているのでした……。


 その日の夕方、仕事を終えて帰ってきたデューシーは家の前で相棒のブリトーとはちあわせしました。
 「おう、遅かったな」
 ブリトーが声をかけました。
 「いや、不思議な体験をしちまってな」
 デューシーは答えると、金と銀の斧を取り出しました。それを見たとたん、ブリトーの目の色が変わりました。
 「お、おい! その斧、一体どこで手に入れたんだ?!」
 ブリトーがあまりにも熱心に問い詰めるので、彼は「落ちついてくれ」と一言はさんだあとに、自分の体験した不思議な泉と女神様の話を始めるのでした。
 「実は……」


次の日


 ブリトーは山のなかを歩き回っていました。彼の目的はひとつ、デューシーの言う不思議な女神様に会うことです。彼が背中に背負った袋には何本かの鉄の斧と数枚の金貨が入っていました。デューシーの話が嘘でなければ、彼はこれで大金持ちになれるはずです。はやる気持ちを必死におさえながら、ブリトーは泉を探しました。
 しばらくして、目指す泉が見つかりました。
 「これがデューシーの言っていた泉か……美しい」
 ブリトーは、感嘆の声をあげずにはいられませんでした。その美しさは他に例えるものが見つからないぐらいで、この世の人間ならば誰もが驚かずにはいられないでしょう。
 ブリトーは背負い袋ごと泉に投げ込み、そして待ちました。しばらくすると、彼の期待通りに女神様が見たこともないほどの莫大な量の財宝を抱えて現われました。
 「樵よ。貴方が落とされたのは、このはちきれんばかりの財宝と金の斧が詰まった背負い袋ですか? それとも、沢山の金貨と銀の斧が入った背負い袋ですか? はたまた、数枚の金貨と鉄の斧が入った背負い袋ですか?」
 女神様の持っている莫大な量の財宝に目がくらんでいたブリトーではありましたが、気持ちを落ちつかせるとハッキリとこう言いました。
 「女神様、俺が落としたのは数枚の金貨と鉄の斧が入った背負い袋でございます」
 その答えに女神様はニッコリ微笑むと、こう言いました。
 「正直のご褒美に貴方に全てさしあげましょう」
 「あ、ありがとうございますッ!」


 デューシーは仕事には出かけずに、じっくりとなにごとか考え事をしていました。
 今、彼の目の前には金の斧と銀の斧があります。
 「本当にタダでこんな物をもらってしまっていいのだろうか?」
 デューシーの頭の中に昨日の出来事が蘇って来ました。泉にいた美しい女神様……。女神様は俺に二本の斧をくれた。様々な光景が彼の頭の中をかけ巡ります。
 「よし!」
 デューシーはとある決心をすると、金銀二つの斧を持って家を飛び出すのでした。


 「やっぱり斧は受け取れないから返す、と……?」
 怪訝(けげん)そうな表情を浮かべて、女神様はデューシーに尋ねました。
 「ええ」
 きっぱりとデューシーは答えました。
 「せっかくの女神様からの御好意、本当に嬉しいです。けれども、タダでこのような物をもらうわけにはいかねえ。金の斧と銀の斧。二本の斧の価値はホントに凄いと思う。多分、これさえあれば俺は仕事などせずに楽して暮らせるだろうな。けれども、俺は考えたんです。そうした場合、俺が汗水流して働いてきた日々は一体どうなってしまうんだろうか、と。難しいことは良く分かんないけど、人間は苦労せずに楽ばっかりしているとダメになってしまうと思う。喜びはそれなりの苦しみのあとに得ることが一番いいのではないかと思うんだ。
 だから、俺は苦労して働きたいと思う。思いっきり苦労して、苦労した分だけ報われる……そんな人生を送ってみたいんです」
 女神様はデューシーの熱弁の後、彼の瞳をじーっと見つめました。女神様と自分の目が合ったとき、彼は自分の心が女神様に見透かされていると思いました。しかし、自分の心にやましい所は何一つない、彼はそう自信を持って待ちました。
 しばらくして、女神様は言いました。
 「分かりました。確かに貴方の考えにも一理あります。それに、貴方には立派な信念があるようですね。苦労した分だけ報われる人生、ですか……。とはいえ、世の中の人間の大部分はそうは考えていないことを良く覚えておくのですよ」
 「はい。肝に銘じておきます」
 女神様は二本の斧を受け取ると、姿を消しました。
 後に残ったのは静寂……。


半年後


 デューシーは、いつものように山へ行く準備をしていました。
 「ブリトー、一体どこで何をしてるんだろう?」
 ふと、彼は半年前に突然行方不明になった、相棒のブリトーのことを思い出しました。もちろん、ブリトーが女神様から莫大な量の財宝をもらったことを彼は知りません。知っていれば、あるいは……。
 「さて、そろそろ行くかな」
 と、デューシーが出掛けようとしたとき、突然の来客が彼を家に引き止めました。
 「デューシー様ですね?」
 男はこう尋ねてきました。男はデューシーが着ているものよりもずっと高価な服を着ていて、物腰にはどこか気品が感じられました。そんな人がどうしてこんな所へ? デューシーはそう思わずにはいられませんでした。
 「ああ。デューシーは俺だけど……」
 男は彼をデューシーだと確認すると、笑顔を浮かべて言いました。
 「私はブリトー様の従者でグロスといいます。今日は主人からの使いで来ました。主人が貴方を招待するとおっしゃっています」
 ブリトーが?! 一体全体どうなっちゃってんだ?


 デューシーは自分の目を疑いました。彼の目の前には巨大な宮殿が立っていました。大商人のマッキントッシュの宮殿とは比べ物にならないほどの大きさです。従者のグロスが言うには、この宮殿全てがブリトーの物だというのですからなおさらです。
 デューシーには信じられませんでした。半年前に彼が話していた通りの光景が目の前にあるということを。
 「さあ、主人がお待ちです。こちらにどうぞ」
 「は……はぁ」
 言われるままに、デューシーは宮殿へと入って行きました。
 宮殿の中もこれまた豪華でした。石像や噴水、そして全ての装飾に至るまで、本当に言葉では表すことができないくらい。デューシーはただ、ただ見とれるだけでした。
 宮殿のいちばん奥にブリトーがいました。彼は豪華な椅子に腰掛け、かたわらにいる女たちと楽しそうに話していました。
 「御主人様、デューシー様をお連れしました」
 「おお、来たか」
 ブリトーは、デューシーの姿を確認すると言いました。
 「おお、デューシー来たか。まぁ、こっちに来いよ」
 「……」
 「おい、デューシー」
 「……」
 「おい、デューシー!」
 「…………」
 「デューシー!!! 」
 「ん? ああ……」
 四度目のブリトーの呼びかけで、やっと反応したデューシー。それだけ、彼の驚きが大きかったことが言えるでしょう。しばらく腕組みをして考え事をしていた彼でしたが、思い立ったかのように顔を上げると言いました。
 「なあ、ブリトー。これだけのモノをどうやって手に入れたんだ?」
 「ああ、それはな……」
 ブリトーは、泉で女神様にもらった莫大な財宝でこの宮殿を建てたということを話し始めました。話が進むにつれて、デューシーの顔が曇っていきます。
 「ふぅーん」
 話が一通り終わる頃には、デューシーは冷めた視線をブリトーに向けるようになっていました。
 「なあ、聞くけど、君は今の生活で本当に幸せかい?」
 「ああ」
 確信に満ちた口調で答えるブリトー。
 「こういう風に満ち足りた生活を俺はしたかったんだ。苦労して木を切る必要もねえ。毎日を面白おかしく過ごせる。本当に毎日が楽しくてたまんねえよ」
 「……」
 デューシーは言葉を失っていました。あの時に女神様が言った言葉の真意が良く分かるような気がしました。
 「あっ、そうかい。俺とお前じゃ、住む世界が違うってことだな」
 デューシーはブリトーに背中を向けました。そして、一歩一歩、歩き始めます。
 「お、おい?! デューシー。どこへ行くんだよ」
 ブリトーの呼び止める声を背に、デューシーは宮殿を後にするのでした。


 「……」
 デューシーが去ってしまい、宮殿内には白けた空気が流れていました。従者のグロスや女性たちは彼のことをじっと見守るしかありませんでした。
 「デューシーの奴! せっかくの俺の好意を……」
 ブリトーはデューシーに対する怒りを爆発させました。しかし、一瞬の後には、その怒りの感情は別なものに変化していました。
 ブリトーは、自分の身体の中にすきま風が吹いているような錯覚を覚え始めました。頭の中は、今までに考えたことのない複雑な気持ちで一杯になっていました。今までの幸せって一体何だったのだろう? ……今までには想像もつかなかったことです。
 デューシーの言葉がじわじわと効果をあらわして来たのです。思い上がっていたブリトーに対して効果はてきめんでした。
 「デューシー! 待ってくれ!!」
 ブリトーは、デューシーを追って宮殿を飛び出すのでした。


 「デューシー!!」
 背後からの大声にデューシーは振り向くと、そこには息を切らして走り寄ってくるブリトーの姿がありました。
 「どうした? ブリトー」
 怪訝そうな表情を浮かべ、デューシーは尋ねました。
 「すまん……デューシー」
 「すまんとは、一体どういうことだい? しょせんは、お前と俺の住む世界が違っただけのことじゃないか。君が悪いわけじゃない」
 首を振るデューシーにブリトーは言いました。
 「なあ、そんな冷たいことを言わないでくれよ」
 「だから何なんだよ! 俺には俺の求めるものがあり、お前にはお前の求めるものがあるってことじゃないのか? お前の場合は、毎日を面白おかしく過ごすことであり、俺の場合は、苦労のあとに幸せをつかみたいという違いなだけだ。別にお前が悪いわけじゃない……。せいぜい幸せになってくれよ」
 もちろん、このデューシーの言葉にはたっぷりと皮肉が込められていました。人間は誰だって楽して生きていきたいと考えているはずです。その程度に違いはあるにせよ。彼は「自分とブリトーの住む世界が違う」と言うことで、その考え方の違いをハッキリさせようとしたのです。一度でも楽することを覚えてしまった人間に対して……。
 デューシーはブリトーを残して一人歩き出し始めました。
 「デューシー、俺は戻ってくる! 戻ってくるぞ!!」
 ブリトーの叫びがこだましていました……。


一ヵ月後


 「ヘイホー、ヘイホー」
 デューシーは今日も木を切っています。あいかわらず生活は楽になりませんが、デューシーはそれなりに充実した日々を送っていました。三ヵ月前に生まれた息子の存在です。息子の成長が彼に生きる活力と働く力とを与えていました。息子のためならどんな苦労をしてもいい、彼はそう思っていました。
 メキメキメキメキ……ドスン!
 木がまた一本、樵の手によって切り倒されました。
 「さてと……」
 デューシーは木をまきの大きさに切り分けようとして腰かけました。
 そこに、横から斧が差し出されました。
 「これは俺に任せてくれよ」
 ブリトーでした。あの半年前のブリトーでした。彼はかつてのような立派な服は着ておらず、どこにでもあるようなごくごく普通の服を着ていました。そして、右手には彼の愛用していた鉄の斧が握られていました。
 「ブリトー、どうしてここに? 宮殿は一体どうしたんだ?!」
 ブリトーは木を切り分けながら、何気なく答えました。
 「宮殿なら処分しちまった。財宝もあの通り、女神様に返すことにした」
 デューシーがブリトーの指差す方向を見てみると、山と積まれた財宝が載せられた荷車が置かれていました。それにしてもすごい量です。デューシーはその財宝の量に改めて驚かずにはいられませんでした。
 「よく決心がついたな……」
 デューシーは驚きを隠せませんでした。宮殿に行った時に会ったブリトーとはまるで別人のようです。「楽して暮らす」と自信たっぷりに語ったブリトーはどこへ行ってしまったのでしょうか? たまらず、デューシーはブリトーに尋ねてみました。
 「金に囲まれての生活は実に素晴らしかったよ。樵をしていたあの頃が馬鹿みたいに思えてきたぐらいだ。金持ちはこんなにも楽して暮らせるのかと毎日思ったほどだよ。しかし、お前のあの一言が俺の中の何かを変えた。こんなことをしていていいのかと思うようになっていたんだ。気づくと、俺はあの斧を握っていた。俺のしていたことが全て否定された気持ちになった。俺はその時決心したんだよ、元の樵に戻ろうとな」
 「なるほどな……。やっぱり、幸せは自分の手でつかむものなのかな?」
 人間というものは不思議なものだとデューシーは思いました。
 「なあ、デューシー」
 「何だ?」
 「女神様に財宝を返すのを手伝ってくれないか」


 デューシーとブリトーの二人は、例の泉の前に来ていました。その美しさはあいかわら ず二人を魅了して止みません。しばらくの間、二人は立ち尽くしていました。
 「さてと……」
 ブリトーが言いました。
 「財宝を返すことにしようか」
 デューシーがブリトーの後に続いて言うと、二人は財宝の入った荷車ごと泉のなかに沈めるのでした。
 「これで全てが元通りだな」
 「ああ」
 デューシーの言葉に深くうなずくブリトー。しばらくの間、彼は泉をじっと見つめていましたが、決心がついたのか顔を上げると、
 「夢をありがとう……」
 泉に向かって一言だけ言いました。
 「さあ、行こうか」
 ブリトーは泉に背を向けると、デューシーと一緒に泉を後にしようとしました。
 が……。
 突然、背後に何者かの気配を感じた二人。
 「……まさか!?」
 振り返ってみると、案の定、女神様が立っていました。言葉では表現できないほどの莫大な財宝を抱えて。
 女神様は言いました。
 「樵たちよ。貴方がたが落としたのは……」



ホームページへ戻る
ネオ・ノベルメインページへ戻る