魅惑の果実
血盟城に届けられる、季節の果実。
中でもおれは、この桃に似た果物が大好きだ。
見た目も味も桃にそっくりなそれは、相違を見つけるのが難しいくらいで、
部屋に用意されると部屋中に甘く瑞々しい香りが充満する。
その夜も風呂から上がったおれの部屋に、それは山積みで置かれていた。
「こんなに大量に置くのはギュンターの仕業。」
そういいつつも嬉しいおれは果物を一つ手に取った。
同時に部屋の戸が空いて、今日は夕食後も仕事だったヴォルフラムが入ってきた。
「・・・部屋が凄い匂いだな。」
「お!ヴォルフ、おかえり。仕事ごくろーさん!」
「今日は本当に疲れた。まさかあそこであんなに書類の不備が出るとはな・・・」
軍服の上着を脱ぎ、インナーの襟を緩めてヴォルフは溜息をついた。
「大変だったなぁ。ほら、風呂行く前に一休みしたら?」
食べようと手に取った果物を一つヴォルフに放り投げる。
上手くキャッチしたヴォルフは、ちらりとおれを見やると『ありがとう』と呟いた。
おれはもう一つ桃を手にとるとパジャマのズボンで軽く表面を擦った。
桃は柔らかいから強く握ると鬱血したような赤茶けた痣みたいになる。
その辺は一緒だがこちらの桃は皮に、柔らかいが実は刺さるととっても痛い棘もないし、
皮ごと食べられるから、不器用なおれは特に剥かずに食べるのだが・・・元王子のヴォルフは違う。
「お前、また丸齧りするのか?」
「なんで?だって皮食べられるし、剥くの面倒だもん。」
「齧るのが悪いとは言わないが・・・せっかくナイフがあるんだし、皮くらい剥け!」
ヴォルフはツカツカと歩み寄ると、果物籠からナイフを取って、
そっと切り目を入れ、薄皮を剥ぐ。
そしてナイフで一口大に削ぎ落としながら、それを口に運ぶ。
「こうすれば別段手間ではないだろうが。」
「お前みたいに上手く出来ないの!ナイフに集中するとこう、手元に力が入って、
果物が潰れかけちゃうんだよ。」
「出来ないからやらない、を続けていたって、一生出来るようにはならないぞ!」
そう言ってナイフを渡すヴォルフから、それももっともな意見だなとナイフを受け取る。
だけど結果は・・・。
「うわわっっ!!潰れた!ヤバイ!汁が絨毯に落ちるっっ!!」
「お前が力を入れすぎるからだ!!」
絨毯を汚してしまうのはまずいと思って、ナイフを机に置き、咄嗟に二人でバルコニーに走った。
「あ〜・・・ボタボタ垂れてる。勿体ねぇ。」
手の中で無残に潰れた果実を、庶民の勿体無い思考で一口齧る。
「くそっ・・・やられた・・・」
「あっ!?ヴォルフ、お前の桃まで??!」
天使の容貌に似つかわしくない暴言を吐くヴォルフを見ると、彼は両手を上げて、渋い顔をしている。
騒動の間にどうやらヴォルフは握っていた桃を潰してしまったらしい。
白いインナーの袖は、手の平から零れた果汁でしとどに濡れている。
捨てるわけにもいかず、渋い顔をしながらヴォルフは手の中の果実を齧る。
「全く・・ユーリがへなちょこなばっかりに、ぼくまでこんな目に・・・。」
「うわ〜・・・すげーベタベタ。え?何?おれのせい??」
「当たり前だろうが!お前が果物の皮も満足に剥けないからこんな事になったんだぞ?!」
「あ〜の〜なぁ〜?」
プリプリ怒るヴォルフに、かちーんときた。
だから、最初から出来ないから丸齧りにするって言ったのにおまえがわざわざ剥かせたんだろーがっ!と、
文句を言おうとしたのだけれど。
怒りのマシンガントークは発射前に、消えてしまった。
目の前で繰り広げられている光景に、息を呑んだ、と言ってもいい。
濡れた袖を捲くり上げながら、まだ指の間を零れてくる果汁を、そっと舐め取るヴォルフの赤い舌。
綺麗な額に不似合いな眉間の皺や、果物を齧るたびに寄せられる柔らかそうな唇。
本人は無自覚だろうが、それはおれの欲望に火をつけるのに十分すぎるほどの威力がある。
おれは自然と、ごくりと小さく生唾を飲む。
『騒動のせいでお気に入りの果物は食べられなかった。
だから、もう一個のお気に入りの果実を、食べてもいいはず、だ。』
一度欲望の熱に目覚めたおれを、止めるすべなど無く。
自分の中の何かが獣に近い部分に切り替わった。
「・・・言っとくけど、おれ、本当は皮剥き上手いんだぞ?」
「はっ?!この状況下で何を言っている?」
完全に不機嫌モードなヴォルフににやりと笑って宣戦布告。
「そんなに言うなら、剥いて見せてやるから。」
持っていた果実はバルコニーに放って、ヴォルフの襟を掴み、多少強引に口付ける。
「ぷ・・ぁはっ!こら、ユー・・んんっ、リ・・ん・・」
いきなりの事にどうにか口づけから逃れようとするヴォルフをバルコニーの手すりに押し付けて、
更に酸素を奪うように口内まで蹂躙し、片手でヴォルフの服のボタンを解いてゆく。
「はぁっ・・いきなり、何を・・・」
「剥いて見せろって言うからしてるんだろ?」
完全に肌蹴た服の隙間から、見え隠れしている胸の突起がまたおれを誘う。
誘われるままに突起を摘み、爪を立てて刺激すると、ヴォルフはぴくりと身を震わせる。
「んっっ・・っ!ぼ、ぼくは果物の話をっ、んんっ、して、るんだ、ぞっ!?」
「おれもそうだよ、果物の話してる。ヴォルフって言う名前の、魅惑の果実の話をね。」
そういって片方はまだ指先で弄びながら、もう片方は口に含んで、舌先で転がしたり、
吸い上げてみたり、ちょっと歯をたててみたりすると、そのたびにヴォルフは小さくその身を跳ね上げる。
「んっ、はっ・・あっ!下品なっ、っあ、例えを、するっ、なっ・・・っっ、んっ!!」
「美味しそうに見えるんだから仕方ないじゃん?」
「しかもっ、こんっな、ところでっ・・――っ!!」
必死におれの頭を自分から引き剥がそうと無駄な足掻きをするヴォルフ。
そんな風に身を捩る姿すらおれを煽っていると気付いてないんだろうなぁ。
「ん〜、こっちの果実は随分熟れてきてるみたいだから、食べごろかな?」
「ひゃぁっっ・・っ!!」
先ほどまで胸の突起を弄んでいた手をゆっくり下に下ろし、ヴォルフのものを布越しにゆるゆると撫ぜてやる。
火照った体には緩すぎる快感にヴォルフの腰は快感を求め、無意識に揺らめく。
「足りないの?」
「んんっ・・ぁ、ばかっ!!」
おれの意地悪な言葉に口では反抗しても、体はずっと正直で。
その証拠に先ほどまで引き剥がそうとしていたおれの頭を、今は抱え込むようにして縋りついているのだから。
器用にベルトを外し、張り詰めたものを開放してやると、ふるふると身を震わせ、熱い吐息を吐いた。
「ほら、もう熟れすぎちゃって、蜜が零れてる・・・。」
「_______ぁっ、う、くっ・・!」
天に向かってそそり立つそれを、きつく握ると、くちゅっと湿った音が響き、
それがまた俺とヴォルフの体を熱くする。
おれに縋るヴォルフの腕を解くと、バルコニーの手すりをつかませて、両腕でしっかり腰を固定する。
蕩けた視線で見下ろしてくるヴォルフを上目使いで観察しながら、
おれは蜜をこぼし続けヴォルフのそれをゆっくりと舐めあげた。
「ひっ、ぁあっ・・っっ、あぅ!」
「甘いよ、ほら。めちゃくちゃ、甘い。」
「あぁっ・・あ、ふっ・・ぅ・・・」
先端の窪みに舌を這わせ刺激したり、そのままくわえ込んできつく吸い上げれば、嬌声も震えも大きくなる。
脱ぎ落とさせたズボンから現れた、白い膝頭が今にも崩れ落ちそうなのを見て取って、
むくりと起き上がってきたおれの意地悪心がヴォルフに囁かせた。
「ヴォルフ、ここ外なんだけど。」
「・・っ!?ふっ、く、ぅうっ・・・」
おれの言葉に咄嗟に口を塞ごうと手すりから手を離したヴォルフの体は、
震える膝では支えられずに、ずるりと崩れ落ち、おれの腕の中に。
ヴォルフをそのまま座らせると、荒い呼吸で眉根を寄せ、おれをねめつけた。
見られていることを意識しながら、おれはもったいぶって緩やかな動きを見せる。
「もしかしてヴォルフ、おれだけが果物食べてるの、気になるの?」
「・・・は?」
「欲しいなら欲しいって言えばいいのに〜。」
潤滑油代わりに床に転がった桃を手に取り、溢れる果汁を垂らす。
目を見開いているヴォルフに見せ付けるように、小さく潰した果肉を彼の秘部に押し込めた。
「んぁっ!?ユーリっ、なにをっっ・・!」
「ヴォルフ、果物おいしい?」
「んっ・・んっっ、やめ、てっ!」
果肉とともに押し込んだおれの指を、蜜口がきつく締め上げる。
その締め付けの僅かな隙をついて、一本、もう一本と指を増やしてゆく。
「おれの指、もう3本も食べちゃってるの、わかる?」
「ふっ、ぅう、あ、・・あ・・あぅっ!」
「ヴォルフのココは随分食いしん坊だな。」
「ひぁぁっ・・っ、んぁっ、あぁぁっっ!!」
声を押さえようと自らの拳を噛み締めていたヴォルフだったが、
中で縦横無尽に動くおれの指に翻弄され、耐えきれずに嬌声をあげ続ける。
吐き出すばかりの呼吸をなんとか取り戻そうと、ぱくぱくと開閉を繰り返す薄桃の唇と、
ヴォルフの逸らした白磁の喉が、月の光に淡く輝くのを見ながら、
おれは止められない激しい熱を自らの下腹部に感じていた。
『さて、遊びはこの辺にして・・・。』
蜜口を解すように動かしていた指を引き抜く。
「んんっ・・っ・・」
びくりと反応する体は無意識に引き抜かれる指を名残惜しそうに締め付けてくる。
「あれだけおれの指食べたのに、ヴォルフのココ、もっと欲しいみたい。めちゃくちゃヒクヒクしてるよ。」
「やぁ・・っ、ユ−リぃっっ!!」
完全に砕け落ちているヴォルフを無理やり立ち上がらせ、上半身を手すりにもたれさせる。
そして腰を掴み、秘部をおれの眼前に晒すような格好で捕らえた。
目の前で震える赤く熟れた秘部からこぷっと音を立てて、果汁が溢れた。
「仕方ないな。じゃぁ、ヴォルフにはコレ、あげるね?」
おれは熱く滾る雄を取り出し、ぬるりと蜜口に這わせた。
「ひぁっ!!」
「ヴォルフには分かるでしょ?これもほら、こんなに熟れて今にも弾けそうなんだ。」
背中から覆い被さり、耳元に囁きかける。
そしてガクガクと震える体をゆっくりと貫く。
「ひっ・・ぃっ・・あぁぁぁぁっっ!」
突き入れたおれの雄に、ヴォルフの内壁は絡みつき、波打つようにおれを煽る。
締め付けられた場所から脊髄を駆け抜けるような快感が走り、思わず突き上げる速さが上がる。
「あぁっ、あっ、ぁぁっ・・っっ・・あっ、あっ!!」
ヴォルフラムは突き上げる激しい衝撃に振り落とされないように、手すりに預けた上半身を必死に支え、
縋り付こうとするが、力の入らない体を支える事すらおぼつかない。
ただ喘ぎの狭間でおれを呼ぶ。
その声に顔を上げるとヴォルフラムは振り返り、もの言いたげな瞳でおれをみつめていた。
「ゆー・・りぃ、うぅ・・っ」
「なに?どうしかした?」
「ぅう、こ、・・こわい・・・お願い。」
「こわい?なにが??」
熱に浮かされた声音に混じるすすり泣きは本能的なものなどでなく、
本気で何かに怯えているのが感じられた。
ヴォルフのはらはらと零れ落ちる涙を拭い、動きを止める。
言葉の意味を図りかねて、問い掛ければ・・・。
「ゆー、りの、かおが、み、みえな、いっ・・か、らっ!」
ヴォルフに言われて、彼の見ていたバルコニーの先を見つめると、そこにあるのは、静かな夜の暗闇だけ。
そして縋るものは冷たい手すりだけ。
いくら俺とヴォルフが想いを告げて、体を繋げる関係になって久しいとはいえ、
いきなりはじまったこの情事に、つき合わせてしまった形になっているのに、
労わる事もせずにちょっと可哀相な事をしてしまったと反省しながらも、
熱に浮かされたおれはそんなヴォルフを見て、ただもう脳内まで蕩けそうで。
『コイツ、本当に可愛いな。』
おれは慌ててパジャマを脱ぐと床に広げ、ヴォルフラムを抱えて座位になり、
繋がったまま彼の体を反転させて、潤む翠の瞳を見つめた。
「これで、だいじょーぶ?」
「・・んっ、!あっ、あっ、・・ぁあっ!」
おれの首に腕を回し、先ほどより更に深くなった繋がりに悶えながらも、
こくこくと頭を縦に振って肯定する可愛らしいヴォルフラム。
正直言ってさっきまでは欲望にただ忠実だった訳だけど、
こうやって二人向き合って、こんなに可愛い顔を見られておれも嬉しい。
「怖がらせてごめん。可愛い、ヴォルフ。おれの宝物。」
その言葉に、ヴォルフが目元を綻ばせた。
おれは腰の動きは止めずに深く口付けると、ヴォルフも深く口付けてくる。
「んんっ・・ゆぅりぃ・・っ!す、きっ!あふっ・・ぁあっ、すきっ!」
深く突き上げ、捻りこむように中を刺激してやれば、
ヴォルフラムのもっとも脆弱で敏感な部分に当り、その度一際大きな声をあげる。
「あぅっ、・・はぁっ、あっ、あっ、・・んぅっ・・!」
ヴォルフラムは泣いていた時とはうって変わって自らもおれの穿つリズムに合わせて、
激しく腰を揺らめかし、共に絶頂を迎えようと躍起になっている。
突き入れるたびに激しく締め上げられ、おれの目の前を白い閃光が焼く。
「はぁっ、あっ、あぅ、は、ぁっっ・・ゆぅ、りぃっっ!!」
「くっっ・・・ヴォルフっ!」
「あっっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・っ!!!!!」
果てると同時に、完全に意識を失ってしまったヴォルフを抱えて部屋に入れ、
身を清めてやりながら、ヴォルフの全身にちりばめられた鬱血にそっと触れた。
白磁の肌に残る赤黒い鬱血痕は、本当に桃を痛めた時に出来る痣に良く似ていて、
ヴォルフを『果物』と揶揄した自分のセンスに、改めてほくそえむ。
「でもまぁ、皿の上の果物は幾らでも分けてやるけど、これだけは、ね?」
ヴォルフは、甘い甘い魅惑の果実。
ほんの一口だって口をつければ、もう二度と手放せない。
だってほら、おれがその良い例だ。
笑い顔も、怒り顔も、泣き顔だって、おれの理性を狂わせる。
「こんなに美味いと、ほんと心配になるよ。」
甘い甘いその香りに誘われて、いろんな人がやってくるだろうけど。
ただの一口だって。
この甘い香りの一吸いだって。
「絶対誰にもあ〜げないっ♪」
だってこれは、おれだけの果実。
そしておれはもう一度、香り立つ熟れた果実の頬に、口づけを落とした。
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