どんなにもがいても喚いても暴れても、事態は一向に改善の兆しを見せないので、
諦めた俺は、まずは自分のできることから始めようと思い立った。
まず、一番最初に出来ること・・・・腹ごしらえだ。
なにせ腹は減っては戦は出来ぬ、だ。
ブドウ糖をちゃんと摂取しなきゃ、考える頭すら働かないもんなと、
一言添えてから、俺は足元の葉っぱに噛り付いた。
そうでもしないと、人間としての大事な何かを失いそうな気がしたんでね。
ん〜・・でも食ってみると意外に美味いぞ、これ。
青虫の俺は、むしゃむしゃと食べ続ける。
虫になる前から食欲旺盛だった俺が、一枚目の葉っぱを食べ終えた頃、
何処からか調子っぱずれの音楽が聞こえてきた。
「ららら〜♪わたしの、陛下〜、漆黒のお召し物がぁ〜よく、に〜あ〜う〜♪」
・・・この声はギュンターか?
しかも歌詞を聞く限り、歌も自作のようだ。
う〜ん、残念だけど紅白出場は夢のまた夢、だろうな。
ん?歌のことはまぁいいとして、気付いてもらえたらもしかしたら、
青虫からもとの渋谷有利原宿不利に戻してもらえるかも?
「さてと、今日はこの辺一帯のお花の手入れを致しましょうね〜。」
『おお〜い!ギュン・・・・』
長い髪を束ね、頭にはしっかり麦藁帽子着用。
更には手には軍手、首にはタオル、挙句長靴の中にパンツの裾を入れ込んだ、
完全農作業ファッションで決めたギュンターに一瞬固まるが、
このチャンスを逃せば助けは来ないかもしれないと思い直して、立ち上がる。
『おぉ〜い!!!ギュンターっ!!!』
体を立ち上げ、ゆらゆらと揺すってアピールアピール!!!
「ふふんふ〜ん♪・・・おや、虫食い??」
俺の乗っている株の隣の株を扱っていたギュンターの動きが止まる。
「もしかしてこれはボボガボンドの幼虫の仕業でしょうか!?これはいけません!!」
ギュンターは何処からかトングとガラス瓶を取り出して、葉っぱをがさがさと探る。
『な、なに??その虫って危険なのか??』
現在虫になっている俺にとってもピンチなのだろうかと、
とにかく近くの葉っぱに身を隠してギュンターの様子を見守った。
「んーいませんねぇ。あれは結構な珍味なので陛下に食べさせて差し上げたかったのですが・・・。」
諦めきれないのか、まだごそごそやっている。
あ〜そう、珍味!!
危険な生き物というよりも、珍しい食べ物って事で必死に探してたのね。
なんだよ、身の危険感じて隠れたのに馬鹿みたいじゃん、俺。
っていうか、魔族の食生活って未だに掴めないんだよね〜。
皆綺麗な顔して、カエルや虫平気で食っちゃうんだもん。
・・・ん?まてよ?
もしかしたら俺、その珍味な幼虫になってるって可能性もある、んだよな??
そしたらなに?
もしかしたら俺に食べさせる為に、俺がメインディッシュになっちゃうかも?!
い、嫌だ〜〜〜〜!!!!絶対に見つかるもんかっ!!!
トングを片手に地面に這いつくばって虫取りに勤しむ王佐から、
軽いフットワークで何とか逃げ切った俺だった。
あぁ、尻軽万歳!!
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