二日目。

なんとかギュンターの魔の手から逃れて、命拾いした俺は、

葉っぱの上から血盟城を眺めた。

コンラッドが剣術の練習をしている。

あちらこちらで、剣と剣のぶつかり合う音が響く。

「甘い!!剣の太刀筋を良く見ろ!!!!」

「はい!!」

「体制を低くとれ!!弾かれるぞ!!!」

「はい!!!」

いつもの爽やかなコンラッドとは打って変わって、厳しい目をしている。

でも、そんなに怖くは無いんだよな〜。

やっぱ、どっか目の中の表情は優しい。

爽やかで、強くて、優しくて、何でも出来て、完璧すぎる、コンラッド。

あ〜・・・俺の魂を運んだ俺の名付け親だったら、こんなに変貌してしまった姿でも、

俺だって気付いてくれないかな〜?

それにコンラッドならそんなに食い意地は張っていない気がするし・・・。

これが、何でもござれの特殊諜報委員のヨザックとかだったら、

ムニエルどころか、俺はきっと『生き作り』か『踊り食い』の運命だ。

見つかっても喰われない分、ギュンターやヨザックに見つかるよりいいよな。

・・・と、いうわけで。

名付け親を信じて、二度目のアピールターイム!!!

『おお〜い!!コンラ・・・ぎゅぇっ!?』

ぐねぐねと青虫ダンスでアピールしていたら、そこに飛んできたのは鈍色に光る一本の剣。

俺の真横を掠めて、ざくっ!と音をたて、地面に突き刺さっている。

『こっ・・こえぇぇぇぇ!!!』

涙目で、剣を見つめると「あららぁ〜、派手にやってるねぇ。」と、聞き覚えのある軽い声が聞こえた。

『ヨ、ヨザック!?』

突き刺さった時より軽い音で剣を引き抜くと、ふと葉っぱの上に目をやったヨザックとの俺と目が合う。

『げぇえぇぇ!!見つかった!!』

本当なら喜んでいいことだろうけど、相手はヨザック・・・おれ、食われちゃう可能性大じゃねぇ?

さっきちゃっかり想像した『俺的見つかりたくないランキング1位』のグリエちゃんに、

まさかまさか、見つかるなんて!!!!!

ところがヨザックは、そのまま目を逸らして剣を走ってきた新兵にそっと渡す。

おぉ!?今は満腹だったのかな??とにもかくにもよかったよかった!

その後ろから俺の名づけ親の声が響く。

「ヨザ、帰ってきていたのか?」

「まぁ〜ね。また出かけなきゃならんが、一時休憩・・ってとこかな?」

「そうか。」

お互いの背中を預けて戦ってきた仲間同士の信頼、というか。

言葉少なでも、分かり合ってるような雰囲気。

なんか・・羨ましいな、って思う。

そりゃ、俺は命の駆け引きをするようなそんな危ない場所に入ったことも無いし、

出来たらそんな場所に行きたくはないし、

そんな場所なんか作りたくないって思ってる。

でも。

でも、いつか俺もそんな風に分かり合えるようになるのかな。

その・・・ヴォルフとかとさ。

ギュンターやコンラッドやグウェンダルたちには、う〜ん、なんだろうな?

後ろから見守ってもらってる、って感じが強いけど、

ヴォルフラムはなんかちょっと違うんだよな。

なんかさ、同じ目線でいられるって言うか。

もちろんあっちの方が、人生経験も軍人としての経験も何枚も上手だけれど、

俺の背中を守ってくれてるヴォルフの、その背中を俺が守ってやれたらって思うんだ。

でも今はまだ、俺がなかなかヴォルフラムの思考を読めなくて、

結局向こうに俺の動きを読まれてるって感じしかしないから、

俺ってまだまだだな〜って思う。

・・・本当に、へなちょこだな〜、俺って。

ちょっとアンニュイな気分になっていたら、上から降ってくる熱視線。

『あ、あれ?グリエちゃん!?』

あ、と思う間もなく俺はグリエちゃんの手の中に。

ど、どうした!?もう、食事TIMEなの?!

「おい、隊長。これ、懐かしいなぁ〜。」

「あぁ・・・そうだな。」

俺を見ながら嬉しそうなヨザックと裏腹に苦笑いのコンラッド。

なんだ〜?様子がおかしいぞ?

「もうそろそろ・・・これ、食えるんじゃない?」

そういうとヨザックは俺を軽く放って、コンラッドに投げてよこした。

卵をキャッチする時のように、ふわりと受け止めてくれたコンラッド。

思わず『さすが俺の名づけ親!!』と叫ぶ俺を、

無常にもそっと摘んで、じっと見つめるコンラッド。

『あ〜っっ!!コンラッド!!俺だよ、俺!ユーリだよ!!!』

「・・・くねくねしてる。」

「そりゃぁ、隊長。生きてるからなぁ。」

早く食えよとばかりに、ニヤニヤ見ているグリエが憎い!

そしてコンラッド!!

あんたまで乗せられて、大きく口を開けないように!!

・・・あ、奥歯に虫歯予備軍がある。早めの治療をお勧めするよ。

って、ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーうっ!!!!

俺は食われそうになってるんだってば!!

『たぁ〜〜〜〜〜〜すけてぇ!コンラッド〜!!!』

必死に叫ぶ俺の頭を半分くらいまで口に入れたものの、

コンラッドは気持ち悪そうに呟いた。

「・・・やっぱりダメだ。」

「はっはっはっ!!さすがにルッテンベルクの獅子でも、苦手なものがある、ってね。」

「仕方ないだろう。戦に出て、食えるものがなくて、空腹のあまり、

蛹になる寸前のこれを食べてしまったんだから。」

「しかも、そのせいで1週間も寝込んじまって・・・」

「いうな。思い出したら、また気分が悪く・・・」

そういうと、コンラッドは俺がもといた葉っぱの上に、そっと下ろしてくれた。

なに?俺が今なってる虫って、食べごろを逃すと危険なのか??

・・・ふっふっふっ、俺に触ると、腹を下すぜぃ!!・・・なーんてな。

とにかく、食われなくて良かったんだけど、コンラッドに通じなくて、酷く淋しい気分になった。

 

 

 

→ 

.