チークタイムは二人のために
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お披露目、と広い意味で宴のタイトルをつけた訳だが、
実際は盛大なダンスパーティと大謁見大会・・・みたいなもの。
そんなに緊張する事は無いよ〜なんていう、名付け親の言葉を真に受けて、
俺は戴冠式のときのようにきっちりと正装して玉座に腰を掛けている・・・わけだが。
何この飾りつけっ!
何この規模のでかさはっっ!!!
皆さん想像に難くないとは思うが、始まる前から実は一悶着、あった。
初めての大掛かりの催しに、少々緊張気味な俺。
想像以上の規模に始まる前から滞りなく終わってくれることばかり願っていたら、
案の定愛しの婚約者様に叱られてしまった。
ヴォルフお得意の、このへなちょこめ!!の罵声に負けないように、おれも声を大にして、
慣れない事をする時って本当に怖いんだぞ!!と涙ながらに訴えたら、
おれには甘い王佐と保護者が間に入り、結局皆で後ろに控えていてくれるということで話は纏まった。
本当なら王佐以外は一緒に壇上にはあがらないらしいんだけど。
でも、皆が居てくれるなら怖くない・・・だろう、多分。
というわけで、現在後ろにはグウェン、コンラッド、ヴォルフラムが同じく正装で控えており、
ヴォルフラムの隣には可愛らしい薄桃色のドレスに身を包んだ俺の娘、グレタも居る。
ムラケンは眞王廟のほうで、役目があるらしく、こちらにはこられないらしい。
なんだかんだで大賢者っていうお仕事も大変なんだなぁ〜。
ツェリ様にも招待状を出したのだけど、白鳩便の返事によると顔は出したいけれど、
戻って来れるかわからないとのことだった。
「まったく・・・。ギュンターもコンラートもお前に甘すぎだっ!!」
まだまだ文句を言い足りないのか、腕組みをしながらぶつぶつ繰り返すヴォルフの横顔を、
玉座の影からそっとのぞき見る。
金の髪がさらさら揺れる間からは、柳眉に刻まれた不機嫌そうな皺が目に止まる。
(これは宴が終わったら、お説教かな?)
王様部屋の大きなベットにどかりと座って、腕組みしながら、
お説教に勤しむネグリジェ天使を思い浮かべて、思わず笑ってしまった。
思い返せば、おれとヴォルフ。
最初はお互いに分かり合えなくて、何度も喧嘩をしてきたおれたち。
男同士なのに「婚約者」だからと付きまとい、挙句人を「尻軽」の「へなちょこ」呼ばわり。
それが重く、嫌だった時もあったけれど、いまではもう、彼なしの生活を考えられない位だ。
一緒にいてあたり前。
こんな事を言うと恥ずかしいからずっと黙っているんだけど、
地球に帰ってしまっても、ヴォルフが隣にいる感覚が抜けなくて、
ことあるごとに「なぁ、ヴォルフ?」と呼びかけてしまって、
その度に気恥ずかしいような淋しいような、そんな気持ちになるんだ。
で、気恥ずかしい気持ちの大半が、ムラケンにからかわれてのことを抜かせば、
そういう時、おれはなんというか・・・凄くヴォルフに会いたい、って思ってて。
会って、話して、笑って、泣いて、怒って、触れて。
・・・そう、触れて。
仄かに暖かい、ヴォルフに触れたいって思うんだ。
まぁその度におれは、男同士とか言いつつもヴォルフのこと、
あ、あ、あ、あい、してる?なんて思うわけ。
でも、その言葉はまだ彼には言えずにいる。
決着と迫られた時にでも、いつかいってやろうと思わないわけではなかったけど、
なかなかチャンスに恵まれず・・・。
あれ??
そういえばいつの頃からか、ヴォルフは「決着」を高らかに謳う事をしなくなった。
だからといって関係が変わったりしてるわけじゃない。
今の今までおれは自分の思いを伝えてないわけだけど、彼はずっと側にいてくれてる。
常に行動を共にし、ご飯も、お風呂も、寝るのだって一緒。
おれの居心地のいい場所は、いつだってここにあるから、問題ないといえば問題ない。
・・・・・。
問題?
そういえば、今何しようとしてたんだっけ?
えぇ〜っと、ヴォルフが可愛くて、なのに眉間に皺が寄ってて、
なんでヴォルフが不機嫌かって言うと、おれがへなちょこだからで・・・。
・・・・。
そういえば今から宴が始まるんじゃん!?
今更ながらに、ちょっと動揺してしまいました。
とにかく落ち着こう、と、深呼吸をするおれの背中に酷く視線を感じて、
そろりと振り向くと、エメラルドグリーンの双眸がじっとおれを見つめている。
『大丈夫か?』
物言う瞳が、おれの背中を押してくれる。
「大丈夫。」
・・・王佐と名付け親ばっかりじゃなく、結局お前も甘いよな、実は。
少し落ち着いて壇上から見渡せばそこには、見覚えのある顔に、無い顔、
男に女に、人外の形態を取ったものなど色々だ。
皆、おれの国の、大切な国民。
守るべき、もの。
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