チークタイムは二人のために  

 

 >3

「それでは、魔王陛下よりじきじきにお言葉があります!」

所謂、開会のお言葉!?

予期してはいたけれど、実際それを前にすると緊張してしまう。

「我らが陛下の、ありがた〜いお言葉です!!・・・そこ!私語は慎みなさいっ、私語は!!」

ギュンターのよく響く声に、ただでさえテンパっている頭が更に沸騰しそうだった。

「あ〜・・え〜・・あ〜・・ほ、ほ、ほ、本日はお日柄も良く〜・・・」

途端にあたりに溢れ出すクスクスという忍び笑いと、背後から上がった盛大な溜息に更に焦りは加速する。

「え〜・・今日は、えっと、皆さんにですねぇ、お知らせしたいことって言うか、

まぁ、何でもアリって感じのパーティではあるんですけども〜・・・」

あれだけ練習したのに、結局しどろもどろだ。

「と、とりあえず、皆さん楽しんでいってください!!!」

魔王万歳!!ユーリ陛下万歳!!と物凄い歓声が上がった。

うわ〜・・・本当に凄いパーティになりそうだな。

なんとか??なっていないかもしれないスピーチを終えた俺に、

司会進行を勤めるギュンターがまたまた酷なことを強制した。

「それでは舞踏会を始める前に、陛下にダンスを披露していただきましょう!!」

「えーっっ!!無理!!無理だってっ!!」

声を顰めて、必死に訴えるおれをギュンターは酷く驚いた顔をして見つめ、

『でもコンラートに手ほどきを受けたのでは?』とそっと耳元に囁いた。

「いや、習ったのは習ったけどさぁ〜・・」

ベアトリスと踊って以来、まともに踊った記憶なんてない。

その上あれから練習してないし、こんな大勢の人の前で踊るのなんて・・と断ろうとした時、

俺の右手に小さくて温かなものが乗った感触がした。

「?!グレタ?」

「ねぇ!ユーリ、踊ろうっ!!!」

可愛らしい淑女が朱茶の瞳でおれを見ている。

可愛い娘からダンスの申し込みを受けるなんて、こんな嬉しい事があるだろうか!!

いや、ない!!

本当なら謹んでお断り申し上げたいところだが、

ここは、ダンスが苦手だとか言っている場合じゃないなと覚悟を決める。

「よし!!踊ろう、グレタっ!!」

「あ、陛下・・」

グレタの手をとって立ち上がった俺を、一瞬コンラッドが呼び止めようとしたが、

『どうかした?』と視線で訴える俺に少し笑って『いえ、なんでも。』と同じく視線で返事をした。

なんだろう?

少し気に掛かったけれど、可愛い娘に手を引かれていたので結局は聞けずじまい。

 

 

2005/5/14


.