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広いホールの真ん中で、可愛いグレタと二人で踊る。
周りのお客皆に見つめられて、緊張がどんどん増していく。
このままでは雰囲気に飲まれそうだと思い、とにかく違うことを考えようとする。
前にカヴァルケードのぴっかりくんが言っていたっけ?
3の倍数の春に初めての夜会に出ると情熱的な恋をする、とか。
目の前でニコニコしながら踊る、俺の小さなお姫様の年を何故かひー、ふー、みーで数えながら、
良かった3の倍数じゃない、とほくそえんだ。
というか、情熱的な恋どころか思考は更に進み、可愛いこの子を嫁になんぞやれるものかと
急に泣きたい気分になる。
「ユーリ、どうしたの??」
おっと、いけない。周りの雰囲気じゃなくて今度は思考に呑まれちまいそうになったぜぃ。
「ん?大丈夫だよ〜。」
「ユーリ、上手だね!!」
「本当か??それは嬉しいねぇ。」
じゃんじゃん♪と切れのよい終止のリズムで曲が終わると周りからは盛大な拍手が送られた。
嬉しそうに俺の手を引きながら歩くグレタと玉座に向かって歩く。
俺はというと、実は緊張のためにもう膝がガクガク大笑いしていて、今にも座り込んでしまいそうな感じ。
けれどとにかく玉座に座るまではすっ転んで恥をかく様な事がないように必死に歩いていた。
だって、自分の為に開いてもらったパーティの初っ端で失敗なんてしたくないだろ?
ただでさえおれって、へなちょこ魔王だったりするわけだから。
なので、さりげなく娘を支えにして震える足を誤魔化した。
ところが玉座に近づいた時、グレタがひょいっと俺の手を離し、ヴォルフに向かって駆け出していった。
あぁぁぁ〜グレタっっ!!そんな殺生なっっ!!!
「ヴォルフ!ヴォルフ!!見てた??グレタのダンス、上手だった??」
飛びついてきたグレタを腰を落として、ぎゅっ!と抱きしめながら優しくヴォルフラムが返事をする。
「あぁ、見ていた。このぼくが見惚れる程、素晴らしかったぞ!」
「ほんと?ほんとに??」
「あぁ、本当だ。」
・・・なんかこの二人もすっかり親子、って感じだなぁ。
めちゃくちゃ優しい笑顔のヴォルフに、緊張が一気に抜けた気がした。
かわいいなぁ〜・・ヴォルフは。
見た目の問題だけじゃない、と思うんだけど。
彼は軍人で剣の腕など俺が到底叶うわけも無いのに、
何故か守ってやりたい気分になるのはなぜだろう。
そんで、そうやってかっこつけたい反面、彼にはしっかり甘えてしまってる、おれ。
彼には掛け値なしに、信頼を寄せているし、愛情も、愛着も在る。
その証拠に、どんなにカッコ悪い姿も晒せるし、反対に受け止めてやれる自信もある。
・・・って思ってるんなら、早く伝えなきゃな〜。
本気でへなちょこだよ、おれは。
最悪の初眞魔国来訪から始まったこれまでの出来事を妙に感慨深く思いながら、二人にゆっくり歩み寄る。
「おっと!」
ほっとしたらもとより誤魔化しながら進んできた膝から力が抜けて思わず足を引っ掛け、
近くにいたヴォルフに倒れ掛かりそうになる。
「あっぶない・・」
寸でのところで何とかバランスを保ち、倒れることは免れたものの、
手はしっかりヴォルフの手を掴んでいた。
「ユーリ!?」
手を掴まれたヴォルフは、常の彼では考えられないような表情をしていた。
跪いた俺が掴んでいない方の片手はまだグレタの肩に乗せた格好で、
顔は耳まで真っ赤、瞳はこれ以上ないほど見開かれている。
どうしたんだ?おれのへなちょこは今に始まったことではないはずなのに。
「ヴォルフ・・?」
「な、なんだ!?何か、ぼくにっ!用があるのか?!」
頬を赤らめて、何故か慌てて目を逸らすヴォルフにちょっとビックリ。
なんだなんだ??この反応は?
「あ・・えっと、ごめん。倒れちゃって・・・。」
「え・・・。あぁ、そうか・・・」
今度は急にしょんぼりする。・・・なぜだ?!
後ろではギュンターが「それでは、舞踏会の開催です!」と高らかに宣言する声が響いた。
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