するとぱらぱらとホールの中央に人が集まってくる。
舞踏会などの始まりにしては、些か淋しい感じの人数だ。
眞魔国流の舞踏会っていつもこんなもん?と聞こうとヴォルフラムを見ると
なんだか妙にそわそわしている。
本当に卿のヴォルフはなんだかおかしい。
「なぁ、ヴォルフ?舞踏会って・・・」
「おど、おど、踊りがっ!なんだってっ?!」
何故か噛みまくりながら、さっきから繋いでいた手をきつく握り締めてくる。
痛い痛いって!そんなに力いっぱい手を握らないでくれっっ!
ヴォルフの尋常じゃない反応は気になったけど取り合えず、
コケかけてヴォルフに寄りかかった格好のままではと格好がつかないなと立ち上がりかけて、
またおぼつかない足取りでよろめいた。
その様子に、ヴォルフラムはほんの一瞬心底悲しそうな顔をした。
でもそれは本当に一瞬でおれも見間違えだったかもしれないとその時は思った。
だって次の瞬間には小さく溜息を落として苦笑しながらヴォルフは俺を抱え上げて、
そっと王座に座らせてくれたから。
「ユーリ、危ないから無理をするな。ほら・・・」
「ごめん、ヴォルフ。でも、マジ助かったよ!いや〜・・こんなに大勢の人前で踊るのなんて、
初めてだから無茶苦茶緊張して、足なんかほら、ガクガク〜・・・」
「ぼくも初めての夜会ではそうだった。気にするな。」
「そっか。」
優しい言葉とは裏腹に、優れない表情のヴォルフラムに、
さっきから感じている違和感を口にしようとした俺の間に割って入ってきたのは、可愛い愛娘。
「ヴォルフ!グレタと踊って!!!」
「グレタ・・・」
「ねぇ!早くしないと、音楽始まっちゃうよぅ!!」
ヴォルフにとってもグレタは可愛い娘で、
大概の事は・・というか、見方によってはおれより甘い気がする位、
グレタを大事にしているしのに。
「グレタ、すまない。ぼくは・・・」
「さっきユーリと踊ったでしょ?でもグレタのお父様はヴォルフもだもん!ヴォルフとも踊りたいよ!」
ヴォルフラムの腕を引っ張りながら、グレタが一生懸命叫んでいる。
それを困惑気味に見つめながら、諮詢しているヴォルフにおれは何気なく声を掛けた。
「なんでだよ、ヴォルフ?可愛い娘の頼みだぞ?」
踊ってやればいいのにと、何とはなしに口にした俺を振り返ったヴォルフの瞳は酷く悲しげに見えた。
「え?!・・・ヴォルフ??」
呼びかけた俺を無視して、グレタに視線を戻したヴォルフラムは優しい声音で答える。
「・・・わかった。グレタ、踊ろう?」
「やったー!!」
嬉しそうに飛び跳ねて、『はやくはやく!』と急かすグレタをそっと止めて、
ヴォルフラムは静かにこう言った。
「でも、この曲ではだめだ。」
「どーして??」
「この曲は・・・『特別』だから。」
そういうともう一度、俺を振り返った。
今度は今にも泣き出しそうな、沈んだ瞳を向けて。
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