夜ごと繋がれるその手を、離したくないといつも思うのに。
Web Of Night
この時間が来るのがどれだけ待ち遠しいか。
球のように終わりが見えない仮想世界の中、おれはたったひとつの存在を求めている。
どのくらい走っても彼の姿は見えない。
けれど確実に感じるぬくもりだけを標におれは走る。
今日も、そうして走り続けるのだ。
―*―*―*―*―*―
「ヴォルフ!」
金色の髪の毛が見えて、おれはすぐに声をかける。
なにか作業中だったのか、両手には沢山の荷物。
「ごめん、邪魔した?」
「いや、構わない。それよりどうしたんだ?」
足元に荷物を置くと、ヴォルフはおれの顔を覗き込んできた。
可愛い。
反則的に可愛い。
「いや、ヴォルフが見えたから。」
微笑む視界の隅に、荷物がしずかに消えていく様が映る。
「そうか、」
少し頬を紅くして、彼はしずみゆく荷物の、最後のひと欠けを蹴った。
白いだけの空間。
おれとヴォルフ以外に、なにもない。
まさに楽園だ。
遠くに響くざわめきを耳で受け止めて、おれたちはその場に並んで座っている。
ふたりだけの時間はとても限られていて、明日もこうしていられるか解らない。
いまだけを精一杯過ごすように、記憶に留められるように、おれたちは手を重ねる。
めのまえに大きく光る時刻が一分ごとに変わるたび、おれたちはその距離を少しずつ縮めていく。
囁くように会話を交わして、笑いあって、ときどき喧嘩をしてすぐに仲直り。
そんなひとときが、おれにとって最上の時間。
やがて時刻がかわって、遠くのざわめきが一層大きくなっていく。
おれたちも負けじと声を張り上げるけど、2時を過ぎた頃にはただゆっくりと時間の流れるままに任せていた。
肩に手を回して、ぴったりとくっつく。
体温なんてないけれど、ほのかに温かいのは、ヴォルフが「生きて」いるから。
言いたいことが尽きて無言になって、そっと視線が合えば、自然に唇も重なって。
幸せと、すぐにくるだろう淋しさに心をふるわせる。
なぁ、どうしておれたちは別々の存在なんだろう。
何度かそんなことを繰り返していると、ひそかに足音が聞こえてくる。
この声は、あいつだ。
「もう時間だよ。」
藍色の髪と、ヴォルフと同じ翡翠の瞳をする青年が呼びかける。
優しい声色なのに、それはおれにとって残酷な、天使のコール。
ヴォルフの手がぎゅ、とおれの服を掴むけれど、こればかりはどうしようもない。
「ごめんな、ヴォルフ。」
そっとその頬に、髪に、瞼に唇を落とす。
おれの意思は在るけれど、行動にはすごく限界があって。
それはこの青年も同じだというのに。
別れを惜しむおれたちを見つめる瞳は、どうしようもない淋しさを抱えて、それすらも受け入れた色だ。
ヴォルフラムと同じで、違う瞳。
いつか、おれたちもこんなにかなしい瞳をするようになるのだろうか。
「ユーリ。」
最後に、長いキスをして。
そっと、その手を離す。
ずっと繋がっていたいのに、そんなたったひとつも叶わない。
おれたちは、ただ、夜だけ繋がることが赦される、パーソナル・コンピューター。
終
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「何を書かせてもシリアス病」(造語)という病気にかかっていた真っ最中に執筆したものです。
解る人だけが解るネタがそこかしこで本当申し訳ありません…。
これを書いた当初は「遠くのざわめき」=某企画のチャットを定義してたんですけど、こんなに間が空いていきなりご覧になられた方は解らない、と思ったんですが。
平日でも2時すぎるとサバ軽くなってたりするんで、ネット世界のざわめき、という感じでもとれるかもと思いなおしませんでした。
続編も書きたいな、と思っていたんですが、「何を書かせても死にネタ病」に現在かかっているので、断念しました。
いつか書きたい……。
頭良 森<SHION> 2005*08*05(09*23/後書書き直し)
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2005/9/26
頭良さんに頂いたお話ですVv陛下視点で、うちのこが愛されているのが分かって幸せです〜Vvうふふ〜Vv
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