95.賽は投げられた(三男と娘)
「ヴォルフはね、いつ、ユーリを好きになったの?」
可愛い娘が、その日のくつろぎの時間の話題に決めたのは、
そんな一言だった。
「出会ってすぐに求婚したのはユーリのほうで・・・」
「でも!」
頬をぷくりと膨らませ、唇まで尖らせて、
グレタはこう反論した。
「でもユーリ言ってたもん。求婚してすぐはヴォルフは凄く怒ってたって。
でも目覚めたら・・・凄くやさしくなったって・・・」
そういわれて頭をひねった。
確かに出会いは最悪だった。
美香蘭の効果も手伝って、ユーリの母上に侮蔑の言葉を投げ、
それがきっかけで怒ったユーリに、頬を打たれた。
それがすべての始まりだった。
「いつ、すきになったの?うえさまになったユーリをみたから?」
これは愛娘にいい格好をしようとした、ユーリの誤算だ。
可哀想な事に、普段のユーリは優しくてへなちょこ、
上様はちょっと怖いけどかっこいいものだと、
グレタの中の認識としてすりこまれてしまったらしい。
まぁ確かに、普段のユーリは優柔不断で、優しくて、へなちょこだ。
だけどその実、危機に瀕すると、その頑固さや決断力には
さすがのぼくも驚くほどなのだが。
「・・・そう、問われると、正直、わからないな。」
「わからないの?わからないのに、すきなの?」
問いかけながら両手を伸ばして、抱き上げてくれと求める娘を、
ごく自然に膝の上に抱き上げて、その柔らかい頬に頬を当てた。
「あぁ。分からない。だけど、グレタ。
例えば花の蕾が気づかぬうちに、
毎日ゆっくりと開いていつしか咲き誇ったり、
空の雲がいつの間にか流れているように、
ぼくはいつのまにか、ユーリのことが、
大好きで、大好きで、たまらなくなってたんだ。」
ユーリの側にいて、一つユーリに触れるたびに、一つ呼吸をするたびに、
一つ話をするたびに、一つ喧嘩をするたびに、ひとつづつ好きになってた。
だから、きっと。
「いつ、恋に落ちたのか、なんて分からないけど。
でも、これからも、今以上に、好きになる。それだけは、分かるんだ。」
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2008/7/1
ユーリの居ぬ間の、のろけ話。
グレタと三男の良くある風景。
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