10万HIT有難うございます★

 

91.ベクトル(喧嘩するユヴォ)

 

「なんでいっつもそんなに荒っぽいやり方ばっかり

提案するんだよ!?」

「お前のやり方な生ぬるいんだ!!!

 叶えたいものがあるなら

 時には 非情にならなければいけないことだって・・・」

あ〜ぁ、また始まった・・・と回りの大人たちは思った。

どうせまたしばらくは喧々囂々のはなしあいが。続くだろう。

そして政治的な話から飛躍して、グレタの養育の問題とか、

最近の互いの素行への不満まで、話が尽きることはない訳で。

「さて・・・わたくしたちは、一時休憩ということで。」

「そうだな、メイドに茶の準備をさせよう。」

「グウェンダル、お茶は俺が。

 なぁに、ヴォルフラムが昨日のおかずで嫌いなやつを

 こっそり皿の端に寄せて返した話になるくらいまでは、

 俺たちも休んでいていいだろう。それに・・・」  

あの二人はどんな罵詈雑言並べ立て、

数刻は腹を立ててそっぽを向いていても、

結局、同じほうを向いてるんだ。

 

 

********************************

2008/5/13

 方向性は同じな二人。

 

92.ヨーグルト

「嬉しいです。」

朝餉の給仕をしてくれていた古参のメイドが、

突然そんな一言を言ってきた。

「・・・どうしたんだ、突然。」

「いえ、閣下は朝が弱いので今まで朝餉を積極的には

 お取りにならなかったでしょう?」

「あぁ・・・確かに、お茶だけの日も多かったか?」

「お茶だけでもお飲みになればいいほう、でしたよ。」

くすくすと笑うメイド。

バツが悪くて俯けば、ぼくの手の中に見えた器には、

白く滑らかなヨーグルト。

朝一番に食べるヨーグルト。

爽やかな口当たりと酸味が

眠っていた体を目覚めさせてくれるんだと、

そう、ユーリが言ったから。

「朝ごはんは一日の活力、なんだ。」

 

 

***************************************

2008/5/20

ユーリに似てきて、健康優良児化三男。

 

93.美貌(のろけユヴォ)

 

「なぁ、ヴォルフ。」

「なんだ?」

「瞬きしてみて。」

「はぁ?」

眼前数十センチのところで笑う黒曜石の瞳に、

片眉を上げていぶかしむぼくの顔が映った。

「そういう顔も好きだけど、瞬きしてよ。」

わけの分からないユーリの願いを叶えるか叶えまいか悩んでいるうちに、

ぼくの瞳は空気に晒され、意識をせずに潤いを求めてぱちりと閉じられた。

「あ!」

嬉しそうなユーリの声に、瞼を開くのを一瞬躊躇う。

だが、何故こんなことをさせたがるのかという事に興味を引かれ、

ため息をつきながら目を開けると、

そこには予想通り嬉しそうな顔のユーリがいた。

「で?」

「ん?」

「何故こんなことをさせたがるのか話しを聞こうか?」

「ん?あぁ!」

ユーリは凄い発見をしたかのように胸を張ってこう答える。

「お前が瞬きするとさ、まつげに光が散ってすっげー綺麗なんだよ。

 だから今それが見たかっただけ。」

 

 

***********************************************

2008/5/26

大好きな構図。

 

94.粉雪(三男と娘)

 

わたしとヴォルフラムは、お城の庭で手を繋いで立っていた。

ヴォルフラムはさっきから何にも喋らずに空を見上げ、

舞い落ちる雪を見つめている。

 

 

「なにがみえるの?」

「・・・とてもきれいなものだ。グレタ、お前にも見えているだろう?」

「みえてるよ〜、みえてるけど。」

「では、それをしっかり心に刻んでおくんだ。」

ヴォルフラムはゆっくりと腰を下ろして、私を見る。

ヴォルフラムの緑色の瞳に私の顔が映る。

「そうすれば・・・ここに今は居ないユーリにもみせてあげられるだろう。

お前の瞳を通して見える、美しく素晴らしい物が。」

 

 

****************************************

2006/6/17

親子の肖像。

グレタの成長も、三男の瞳を通して、

ユーリが見ることも多いのでしょうね。

 

95.賽は投げられた(三男と娘)

「ヴォルフはね、いつ、ユーリを好きになったの?」

可愛い娘が、その日のくつろぎの時間の話題に決めたのは、

そんな一言だった。

「出会ってすぐに求婚したのはユーリのほうで・・・」

「でも!」

頬をぷくりと膨らませ、唇まで尖らせて、

グレタはこう反論した。

「でもユーリ言ってたもん。求婚してすぐはヴォルフは凄く怒ってたって。

 でも目覚めたら・・・凄くやさしくなったって・・・」

そういわれて頭をひねった。

確かに出会いは最悪だった。

美香蘭の効果も手伝って、ユーリの母上に侮蔑の言葉を投げ、

それがきっかけで怒ったユーリに、頬を打たれた。

それがすべての始まりだった。

「いつ、すきになったの?うえさまになったユーリをみたから?」

これは愛娘にいい格好をしようとした、ユーリの誤算だ。

可哀想な事に、普段のユーリは優しくてへなちょこ、

上様はちょっと怖いけどかっこいいものだと、

グレタの中の認識としてすりこまれてしまったらしい。

まぁ確かに、普段のユーリは優柔不断で、優しくて、へなちょこだ。

だけどその実、危機に瀕すると、その頑固さや決断力には

さすがのぼくも驚くほどなのだが。

「・・・そう、問われると、正直、わからないな。」

「わからないの?わからないのに、すきなの?」

問いかけながら両手を伸ばして、抱き上げてくれと求める娘を、

ごく自然に膝の上に抱き上げて、その柔らかい頬に頬を当てた。

「あぁ。分からない。だけど、グレタ。

例えば花の蕾が気づかぬうちに、

毎日ゆっくりと開いていつしか咲き誇ったり、

 空の雲がいつの間にか流れているように、

 ぼくはいつのまにか、ユーリのことが、

大好きで、大好きで、たまらなくなってたんだ。」

ユーリの側にいて、一つユーリに触れるたびに、一つ呼吸をするたびに、

一つ話をするたびに、一つ喧嘩をするたびに、ひとつづつ好きになってた。

だから、きっと。

「いつ、恋に落ちたのか、なんて分からないけど。

でも、これからも、今以上に、好きになる。それだけは、分かるんだ。」

 

*************************************

2008/7/1

ユーリの居ぬ間の、のろけ話。

グレタと三男の良くある風景。

 

96.…(戸惑い陛下)

無言でぐしゃりと、書類を握りつぶして、

ヴォルフはくずかごに叩き込んだ。

荒く踏み鳴らされた足音が、

叩きつけるように閉ざされたドアの向こうに

薄く消えていってしまうのを聞き届けてから、

おれはくずかごの中に手を入れて、

堅く丸まった紙を取り出した。

「あと少しだけ・・・待って欲しかっただけなんだけどな。」

婚姻届。

言葉にして、形にしてしまうと、

この想いがまるで違うもののように感じてしまって。

「ヴォルフのこと、愛してるのは確かなのに。」

でも、それは本当に、この書類に書くことで形にして良いのかと。

「・・・ちゃんといえなくてごめん。」

きっとこの複雑な想いを君にきちんと伝えられたなら、

君ならきっとおれに答えをくれるのに。

「・・・・・」

もう一度、くしゃりと。

婚姻届を堅く丸めて、捨てた。

言えなかった言葉を、全部一緒に。

 

*********************************

2008/9/5

最初の一歩を踏み出す戸惑いって、

なんだか不思議な魅力があります。

 

97.うそ(戸惑い陛下)

 

仕事の合間、窓辺に立つと下から次兄とユーリが話す声が聞こえた。

「ヴォルフをさ、好きか嫌いかで言ったら、好き・・・だけど。」

そういってユーリは目を逸らした。

「でも、それが、恋、なのかって言われたらさ・・・。

 答えられないんだよ。」

俯いたその目の真剣さに、彼が決してぼくとの関係を、

軽く考えたり、茶化しているわけではないことは分かった。

「あ〜・・・でも、なんなんだろうなぁ〜・・・・。

 それでもさ、離れたくないとか、とられたくないとか、

 なんかそんな風に思っちゃうんだよね。」

わけわかんね〜・・と響くユーリの声と、呆れたようなため息。

下を見れば、物言いた気な次兄と目が合って、

ぼくはそっと目を逸らした。

 

結局、「本当の気持ち」なんて本人が一番分からないものなのかもしれない。

 

****************************

2008/9/21

うそ、とは少しずれているかもしれないけれど、

嘘をついているつもりはないけれど、

うまく気持ちを整理できない陛下の様子は、

はたの整理できている方からは、嘘にも近い物のような気がして。

 

98.肯定の言葉が欲しかっただけ(甘えんぼ陛下)

「なぁ〜・・・」

「何だユーリ。」

「今日、晴れてる?」

「は?」

「それか、雨?」

「ねぼけているのか?

目を開けて自分で確かめればいいじゃないか。」

ヴォルフの声に、おれはさらに布団を引き上げ、

頭まですっぽり被ってまた話しかける。

「なぁ〜・・・ヴォルフ〜・・・」

「だからなんなんだ!?」

「おれのこと、すき?」

「はぁ??!」

素っ頓狂な叫びが響いた後、

しばしの沈黙。

そして。

「・・・聞くな、愚問だ。」

振ってきた言葉の中に見えた、照れたような声が、

おれの心を溶かしていく。

 

*******************************
2008/10/13

甘えんぼ陛下。

 

 

99.お帰りなさい(甘系)

久しぶりに眞魔国に帰ってきたのに、

出迎えてくれた婚約者はおかえりといってくれなかった。

「なんでおかえりっていってくんないの?」

「ぼくは・・・おかえりと、いってもいいのか?」

「なんで??」

「おかえりというのはお前の帰る場所のことだろう。

それはあちらではなくこの国なのか?」

何があったのか、たまにこうしておれを試すような口振りを見せるヴォルフ。

「確かにあっちも大事だけど、おれが帰る場所はヴォルフの隣だよ。」

「・・・・そうか。」

「そうだよ。」

ほっ、と。

ヴォルフの肩から力が抜けたのが分かった。

「じゃぁ改めて。」

「うん、ちゃんといって。そうじゃなきゃ、帰ってきた気がしないだろ?」

子供のように拗ねた声を作って、大好きなヴォルフに向かって両腕を広げる。

その腕に飛び込むようにして、おれの天使が舞い降りる。

そうして鈴の音のような声で、こういった。

「おかえり!ユーリ!」

 

*********************:*****************

2008/11/

だーいすき!!

 

 

100.また逢いましょう(幸せな最期)

 

 

霞む瞳に映るのは、愛する我が国に新しく訪れた、

今日という日の、始まりの光。

その先に見えるのは、愛する娘と伴侶の顔。

可愛い娘も、今はもう、母となり、祖母となり。

それはもう、誰かの愛を求めて泣いていた幼子の面影はなく、

今は幸せを身に纏う、年相応の淑女になった。

そして伴侶は。

共に白髪の生えるまで、皺に思い出を刻むほど・・・とは、

生れ落ちた運命の差で、いかなかったけれど、

それでも陰になり日向になり、

時に長らく側を離れた日々ですら、

いつも心は傍らにあり、

そして私の支えになってくれた。

「ヴォルフ、私は今、夢を見ていたよ。」

そう、言えば、まだ男盛りの顔を綻ばせて、

彼は小さく頷いた。

「あれは、まだ私がお前への気持ちを整理できずにいた頃だ。

 あの頃は随分悲しい思いをさせたね。」

「・・・いや。今思えば、あれも良い思い出だ。

 気持ちを決めた後のお前は、それはそれは・・・さすがの私も、

恥ずかしいほど、存分に愛を伝えてくれたから。」

気に入りの木の下で二人寄り添って休んだ日のこと。

雪降る日に、金の睫に踊る輝きに目を奪われたこと。

病に倒れた日のこと。

喧嘩をしたこと。

泣いたこと。

笑ったこと。

そのすべてが、時計の上では、もうずっとずっと遠い日のことだのに、

脳裏に思い出すのはまるで、

昨日か、一昨日か。

もしくは、ほんの数刻前の出来事かと思えるほど、

それらはずっと鮮明に浮かぶ。

「あぁ・・・それは仕方のないことだ。

 だって、私は、お前を愛しているからね。」

あの時からずっと。

今でもずっと。

「あらあら・・・。

お父様たち二人にこんなことを言っても仕方がないことだし、

もう私もいくらも見慣れているけれど、

こんな時は、もう少し位私のことも思い出して頂戴ね。

ね、ユーリ?」

娘がその年輪を重ねた手で、私とヴォルフの手を取って笑った。

微笑む娘と目を合わせ笑う伴侶の顔。

新しい朝の光の中に、光り、滲んでいく。

「あぁ・・・さて、そろそろのようだ。」

父母を失い、数年前に兄を見送った自分だ。

置いてゆかれるものの悲しさや寂しさは十分理解できている。

けれど。

「私は二人の笑った顔が大好きだよ。

 出来たら笑って見送っておくれ。」

分かっているわと笑う娘の、けれども声は震えていた。

「眞魔国とグレタを頼む。」

あぁ、と短くヴォルフは言って、そうして凛とした声でこういった。

「ユーリ。」

「あぁ。」

「・・・・ありがとう。」

「あぁ。」

沈黙が落ちて。

私の大好きな、ヴォルフラムの金髪に、光が跳ねて。

その白い頬を、一筋。

光が、伝い降りた_________

「ヴォルフ・・・・ま、た、会・・・おう・・・な?」

 

 

*************************************

2008/12/30

年内に何とか終わることが出来ました。

応援してくださった皆様有難うございます!!!

一応、「(9)時計の針」に寄せたつもりなんですが。

本来なら「父母と兄を、そして娘を見送った・・・・」と、

グレタは完全に人間なのでユーリより先に逝ってしまったとしないと、

時節が合わなくなってしまうのですが、

ロイヤルファミリースキーなので、敢えてユーリを先にしました。

そこのところだけ、あらかじめ御了承ください(笑)

 

 

********************************************

 


.