10万HIT有難うございます★

 

11.みぞれ(冬のユヴォ)

 

頬を打つ風が冷たくなったと思ったら、

空が少し暗くなっていた。

雨でも降るのかと思って空を見るぼくの呼気は、

白い湯気をたてて、視界までも白く染める。

また、びゅうと風が吹いた。

「さむい。」

目の中まで冷えて、瞳が勝手に潤んでくる。

頭上でぱらぱらと小さな音がした。

でもぼくは寒さで顔を挙げられず、

兄上がこの冬に合わせて贈って下さったマフラーに、

顔を埋めた。

ひゅうと音を立てて横を通り過ぎる風と、

それに乗る足音が聞こえる。

ユーリだ。

「ヴォルフ、お待たせ・・・うわぁ!」

「・・・なんだ?」

「お前の髪にきらきらついてる!」

ユーリがぼくの髪に触れる。

ユーリの手に填められた、

兄上が同じく贈ってくれた手袋の指先に、

絡め取られたそれは、

ぼくらの目の前でちゅるりと溶けて、きらりと光った。

 

それは、氷と雨の狭間。

 

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2007/7/23

季節外れですが・・・。


みぞれのティアラと潤んだ瞳。

陛下が羨ましい。  

 

12.(弱った三男、看病陛下)

 

ユーリがベットサイドで笑っている。

ぼくの額に乗ったタオルが熱く熱を持ったのを、

取り去るその指が頬に触れて、

その冷たさが心地よかった。

「ぁ〜・・・・」

「あんま無理して声出すなよ。すげーかすれてる。」

「ぅ、るさ、い・・・」

悪態をつこうとしても、

出てくるのはがらがらとした不快な音と、

上げるには重い頭がうっとうしくて

結局尻すぼみで終わってしまった。

「ヴォルフが風邪か。まぁ、あの寝相を見れば、

 いつかはこうなると思ってたけどね。」

心配していると言いつつもどこか嬉しそうなユーリを見ていると、

なんだか腹が立つのだが、掛け具を引き上げてくれたり、

冷たいタオルで額を拭ってくれたりする手つきが優しくて、

結局甘んじて受け入れてしまう。

「まぁ、最近こうやってゆっくりする時なかったし、

 眞王さまが『ゆっくり休め〜!』って

 言ってくれてんのかもしれないな。」

そんなわけあるか、と鼻をひと鳴らし。

でもそんなぼくの態度なんて意にもとめないで、

ユーリは掛け具の中のぼくに触れてまた笑った。

「汗かいてる。

 ほら、このまま冷えたらまた具合悪くするから。」

ゆっくりと、湿ったぼくの夜着と下着を取って、

固く絞った温タオルで拭ってくれる。

「ネグリジェよりこっちのがあったかいから、

 おれのだけど我慢して。」

見慣れた空色のユーリの寝巻きに包まれて、

ぼくは静かに眠りに落ちた。

 

 

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2007/7/25

看病半分、イタズラ半分。

萌えたっぷり。

 

13.(ロイヤルカップルを考察する大賢者様)

 

親友である渋谷有利と、

その婚約者であるフォンビーレフェルト卿を、

観察していると実に面白い。

彼らは些細なことで喧嘩をする。

お互いがお互いの生まれ育った倫理観でもって、

自分の中の正義を振りかざして喧嘩をする。

地球の正義と、眞魔国の正義と。

地球の常識と、眞魔国の常識と。

しっくりこないその状況を、

傍から見れば激しすぎるディスカッションでもって、

少しずつすり合わせていく。

喧嘩をして、周りが引くくらいの言い合いをしても、

夜には隣り合った席で食事をし、並んで褥で眠るのだから。

 

「君たちって似てるね。それでいて真逆なんだ。」

それはまるで鏡に映った一対の人影のように。

 

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2007/7/27

私の中で二人は鏡に映った人影のようにそっくりだと思っています。

違いを見つけることが出来ないくらいそっくりで、

でもそれでいて真逆。

 

14.あなたのいなくなった日(ユヴォ前提ヴォルフ、次男を語る)

 

大好きだった兄を、兄と呼ばなくなったあの日。

悪態をつきながらも、

それでも本気で彼を捨てきれるわけはなくて。

やれ武勲を立てたと聞けば、

彼ならば当然だと内心思っていたし、

最前線に立たされると聞けば、

それを止める事すらできない自分の無力さに泣いた。

けれどもそのことは、おくびにも出さず、

心の奥底では彼を慕い続けながらも、

遠く距離を置いた毎日が流れていたある日。

彼は突然いなくなった。

その時。

とうとう、ぼくは大切な人を失ったのだと思って、

もう二度と、ぼくは彼に会えないのだと思って、

密やかに泣いたのだけれど。

今思えば。

あの日彼は、16年の後、

ぼくの最愛の人となる『彼』を育む地へ、

『彼女』の魂を抱いて、旅に出たのだろう。

 

今なら言える。

『ありがとう、ちっちゃい兄上。』

_______でも。

素直にそう言ってしまうのは、

なぜか悔しいから、彼には絶対言わない。

 

 

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2007/7/29

ちょうど、陛下の誕生日に、こんなのがきちゃいました(笑)

言葉にしなくても、大好きなお兄ちゃんへ。

ユーリに会えた幸せは、小さな涙から始まった。

 

15.意識という深い海(ほんわかユヴォ)

 

夢を見た。

『おい、ヴォルフ!・・まったく、おまえはねぼすけだなぁ。』

ユーリが笑ってぼくの頭を小突く。

切り揃えられたばかりのつめ先は、ほんの少し毛羽立っていて痛い。

その声とつつく指先に『聞こえている』と伝えるつもりで、

うぅんと唸れば、またくすりと笑う声がして、

今度は暖かな手で眉間に寄せた皺を伸ばすように触れてくる。

『ごめんごめん。お前はもう少し寝てな。

朝飯食う前に、もう一回起こしに来てやるから。』

 

夢を見た。

そうして、目を開けて知る、夢の終わり。

ユーリはまだここには戻っていない。

今はまだ地球にいるのだ。

それでも。

朝焼けが近づく時にぼくは、また夢を見る。

あの少し毛羽立ったつめ先の感触と優しい声を。

 

 

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2007/8/1

やさしい習慣のなかに、あの人を思い出す。

 

16.心音(ユヴォ)

 

「う・・・っん・・・んん〜・・おも・・・」

いつものごとく。

おれの安眠を妨げてくれるこの重たい物体。

暖かく、柔らかいそれは、本日いつもより多めにおれの体に乗りあげていた。

『今日はまた・・・おれの顔面に乗り上げやがって。』

ヴォルフラムは胸に抱くようにおれの頭を抱え込んで、

白い足をおれの胸にどかりと乗っけている。

『まったく・・・毎度毎度・・・』

よいしょと、ちょっと親父臭い掛声を発しながら、彼の体を転がした。

くてんと。

しなやかな動きで寝転がるヴォルフの乱れたネグリジェを整え、

その上から掛け布を掛けなおしてやる。

「今度はおとなしくしろよ〜?」

おれも同じ掛布に体を滑りこませ、その体をとんとんと優しくあやし、

動き出さないように抱きしめた。

腕の中で。

少し早くなった彼の鼓動に、気づかないフリをしながら。

 

 

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2007/8/2

なんというか・・・どっちも、確信犯。

 

17.朝焼け(ユヴォ)

 

いつもなら目覚めることのない、朝やけの時。

ふと目覚めた。

透けた赤に彩られた空に、昔見た、あの、

血溜まりを思い出す。

焼けた血肉と、鉄サビの香り。

脳裏に鮮明に浮かぶ、情景と香りに、

ぶるり、と。

反射的に身を震わせてしまう。

思い出したくないそれらの記憶に、

隣に転がる黒い塊に縋る様に手を伸ばして、

その胸に頬を合わせた。

とくんとくんと規則的に打つ、ユーリの鼓動。

その音をもっと深く聞きたくて、頬をすり寄せれば、

ぼくの思いを察してくれたかのように、

う〜ん・・と唸りながら、

寝返ったその腕が、ぼくの目を覆ってくれる。

また訪れた、深い闇。

消えた朝焼けに、ほぅっと吐息を吐き出すと、

体から力が抜けて、またゆっくりと眠りに落ちていく。

 

次に目覚めるまでに見たのは、

明るい陽だまりで跳ねる愛娘と愛する人の姿。

 

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2007/8/4

軍人も人。

守るべきもののために強くなれるけれど、

守るべきものが出来るといろんなことが怖くなるよね。

 

 

18.私の欠片(哀愁ユヴォ)

 

『これをもっていて。

せめて、側にいられない間は。』

 

引き出しの中に眠る、金の翼。

それはヴォルフからおれに忠誠をと、

初めて贈られた物。

あちらに戻れない日々が続いて、

でも彼に会いたくて、

ぬくもりを探すようにそれを掌に載せた。

これをくれたときのヴォルフの顔とか、声とか。

『へなちょこ』と今すぐにでも

耳元に聞こえてきそうな気すらする。

「ヴォルフも・・・こんな気持ちでいるのかなぁ。」

例えば、おれの残してきた服とか。

グラブや、ボールや、愛馬や、空いた玉座の中に。

おれの姿を、探しているだろうか。

 

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2007/8/6

いていかれた寂しさは、どちらも同じ。
会えた喜びも、また同じ。

 

 

19.手負いの獣(ヴォ→ユ)

 

「もうっ・・っ、限界だっ・・ッッ!!」

使い慣れた魔王ベットの上で、

おれはヴォルフラムに押し倒されていた。

深い緑色の瞳を、もっと深い色に染めた、ヴォルフラムに。

「なぜなんだ・・っ!何故ぼくを見てくれない?!」

「な、にっ、いって・・?」

「いやなんだっ・・っ!ユーリ!ぼくは、もうっ・・・!」

「言ってる意味が、わっかんねーよっ!」

「ぼくをっ・・っ、みてくれ!!!」

華奢な腕からは思いつけないような、

ものすごい力でおれの腕をつかむヴォルフラム。

かじりつく様に首筋に額を押し当て、叫ぶ声。

「好きになってほしいなんて・・っ、っ、言わないからっ・・!」

 

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2007/8/8

伝わらない想いってつらい。

まには爆発してもいい。

その方が三男らしいのかも?

 

20.耳を欹てて

 

「いい加減にして欲しいものだな。」

兄上の執務室の扉を叩こうとして、

中から零れてきた不機嫌な声音に、

思わず手を止め、耳をそばだてた。

「分かってるよ、おれの我侭に

 ヴォルフを振り回してるんだってことくらい。」

「だったら、はっきりしてもらおうか。

 ふり回されるあれを思うと、不憫でならない。」

「おれ・・・おれは・・・」

真剣な声音に思わず息を呑んだ。

想像したくはないが、この声音、この内容からして、

まさか婚約解消の相談なのかと

ぼくの鼓動は早鐘のように激しくなる。

言いよどんでいるのか僅かな間が流れ、

続いてユーリの叫ぶような声が響いた。

「そりゃ、普段のピンクのネグも可愛いけど、

 たまには清楚な白、爽やかな空色、柔らかな黄色、

 それから、ムーディーなスケネグだって捨てがたいけどさ!

 でもっ・・でもさっ・・!おれはっ・・・・!!!!

 でっかいパジャマ着せて、

 いわゆる萌え袖ってやつが見てみたいんだよっ!」

だから新作ネグは作らせなくていいから、

今回はグウェンダルのパジャマ貸してくれ・・!

そう叫ぶユーリの声は、

ドアの前崩れ落ちたぼくの耳に酷くむなしく響いた。

 

 

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2007/8/10

男のロマンは、兄の威厳を、そして不屈の愛をも、

へこませることがある・・・。

 

 

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