10万HIT有難うございます★

 

31.あきらめましょう(壁を乗り越えたい陛下)

 

 ヴォルフが男だってことはよく理解してる。

 おれの倫理観に基づけば、

 彼との関係がありえないことだってことも、

 よくよく分かってるはずなんだ。

 だけど。

 『ゆーり・・・』

 寝ぼけた声でおれを呼ぶヴォルフの声。

 おれの名前を呼んだそのあとに、嬉しそうに、

 ほんの少し横に引かれた、その唇。

 「あーーーっ・・っもうっ、なんなんだよぉ〜・・・」

 愛しくて。

 どうしようもなくて。

 「もう・・・・いいや。あきらめたっ!!!!!」

 明日彼が目覚めたら、こう言おう。

 『ヴォルフ、おれと結婚してください!』

 

 

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 2007/9/2

 結局、この想いから逃げる術なんてない。

 あきらめましょう。

 

32.宝探し(ユヴォで甘々)

 

 「狭いだろ?まぁ、血盟城が広すぎるわけだから、

 日本の一般家屋と比べる対象としては間違ってる気はするけど。」

 絶対に無理だと思っていたヴォルフラムの地球訪問が実現した。

 はじめておれの家に、そして部屋に足を踏み入れたヴォルフは、

 目に映るものすべてを興味深そうにみていたが、

 その視線がなんとなく気恥ずかしくて思わずそういったおれに

 ヴォルフは大きな瞳に疑問の色を浮かべて、小首をかしげた。

 「そうか?ぼくは好きだぞ。」

 ひとしきり見回したヴォルフは、

 後ろから声をかけたおれを振り返ってそういった。

 「そうか?気ぃつかわなくっていいよ。

  元プリに対抗できるなんてはなから思ってねーし。」

 「なんでも広ければいいというものではないだろう?

  入ってみて思ったのだが、この広さなら目を合わせなくても、

  いつも家の中にいる家族の存在を感じることが出来るし、

 寂しく思ったり、用事があれば、少し大きな声で呼ばわれば、

 きっと誰かが気づいてくれるだろう?」

 「ヴォルフ・・・」

 それはきっとヴォルフが欲しいと思っていた、なにか。

 「ユーリ、部屋にいてくれ。ぼくは・・・」

 おれの返事を待たず、ヴォルフラムは部屋を飛び出す。

 ばたんと乱暴に閉められたドア音に続いて、

 パタパタと軽快に駆け下りる足音。

 それが止まると、数泊の沈黙が落ちて・・・

 『ユーリ・・・』

 ドア越し、階段下からおれを呼ぶ、声。

 「おー!」

 その声に返事をして、ノブを回せば。

 眼下には、幸せそうに笑う君がいた。

 

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  2007/9/4

 ごく当たり前な家族の形態。

 

33.秘密基地(ユヴォ)

 

 今日は朝からヴォルフがいない。

 彼がおれの側にいないなんて。

 視察の仕事でもなければ、おれを追い回すヴォルフが。

 ・・・まぁ、落ち着いて考えてみる。

 そういえば朝の訓練で今日はコンラッドの部隊と、

 剣の練習をすると昨夜は張り切っていたっけ??

 「じゃぁ、まずはコンラッドに聞き込みだ!」

 おれは魔王部屋の扉を両手で大きく開き、

 コンラッドを探しに駆け出した。

 

 「え?ヴォルフですか?」

 剣の稽古を終え、庭先の花壇に剣を立てかけて、

 一休みをしているコンラッドの元へ駆けつけるなり、

 おれは挨拶もそこそこにまずは辺りを見回して、

 大好きな金髪を確認する。

 だけど残念ながら、そこにはヴォルフの姿はすでになかった。

 そこですぐさまおれは、コンラッドに彼の行方を問いただした。

 「そう。朝から姿が見えなくて。

 ただ、昨日の夜、コンラッドたちと訓練があるって言ってたから、

 何か知らないかなと思って。」

 そう聞いたおれに、コンラッドはほんの少し首をかしげ、

 それから思いついたようにこんなことを言った。

 「そういえば今日の訓練であいつと手合わせしたんですが・・・」

 「ヴォルフとコンラッドが?」

 「えぇ。それで、気を抜いていたつもりは無いんですが、

  あいつに一本取られかけまして・・・」

 「え?!ヴォルフに??!」

 本気で驚くおれにコンラッドは、ほんの少し照れくさそうに笑って、

 いつもとはまた違う優しいおにいちゃんの顔をしながら言った。

 「あいつにしては予想外の剣さばきで踏み込んできたので、

  一瞬予測できずに切り込まれたんですけどね。

 まぁ、勝負自体は引き分けに持ち込んだわけですが。」

 そう前置きしてから、コンラッドは訳知り顔で、

 こほんと咳払いをひとつ。

 あんな切り込み方、今までのあいつでは考えられない、

 そうしてコンラッドは爽やかに口角をあげて笑ってた。

 「陛下のおかげですかね。」

 「どうかなぁ?でも、夫婦は似るっておふくろも言ってたよ。」

 ようやく少しだけ照れずに言えるようになってきた、

 おれとヴォルフの関係。

 一部ではのろけのろけと冷やかされるけど、

 まぁそれも、幸せだと思えるからいいんだけどさ。

 無鉄砲なおれに似てきたのかもね〜なんて言って、

 片手を振ってコンラッドに別れを告げると、

 ヴォルフ探しを続けようとまた歩き出す。

 「さて。これからどうしたものか・・・」

 ヴォルフラムが拗ねたらクローゼットの中って相場は決まってる。

 恥ずかしがってるときと、おれに対して怒ってるときは、

 普段、使いもしていないヴォルフの部屋。

 悔しがってるときは、大概厩の影で拗ねているか、

 出なければ何かを吹っ切るように剣の練習場に居て、

 剣の訓練をしている。

 寂しいときには、おれの都合などお構いなしに、

 おれの利き腕・・・右の腕にかじりつく。

 では、機嫌がいい時は・・・・。

 ぐるぐると日々の出来事を脳内に巡らせていると、

 ぴんっと、一つのエピソードにたどり着いた。

 「あぁ、わかった。あそこか!」

 おれは見当をつけて歩き出す。

 

 がちゃりと、魔王部屋の扉が開く。

 行儀悪く、片足立ちの膝の上に二人分のティーセットを乗せたまま、

 扉を開いたヴォルフラムのびっくりした瞳が、

 嬉しそうに笑いながらお茶用のテーブルと、

 二脚のイスを準備していたおれの瞳にぶつかった。

 「やぁっぱりな!ヴォルフ、み〜つけた♪」

 「ユーリ、なにをしてるんだ?」

 「お前を探してたんだよ。」

 「探してた?ぼくの目にはこの部屋でお茶でもはじめるように

  見えるのだが?」

 「ここに帰る前に厨房に寄ったら、

 お前がお茶の準備したって聞いたから、ここで待ってたんだ。」

 なんとなく腑に落ちない顔のヴォルフを、お茶の席に誘導しながら、

 ちょっぴり肩をすくめて笑うと、おれだけしか気づいていないらしい、

 ヴォルフラムの癖を思い返し、話し出す。

 「別にこの部屋でなくても、お前をおびき寄せるには

 おれが居ればどこでもよかったんだけど・・・」

 「どういう意味だ?」

 

 おれは何でも知ってるんだ。

 ヴォルフが拗ねたらクローゼット。

 恥ずかしがってるときと、おれに対して怒ってるときは、

 使いもしていないヴォルフの部屋。

 悔しがってるときは、大概厩の影か、剣の練習場に居て、

 寂しいときには、おれの右横、腕にかじりつく。

 では、機嫌がいい時は・・・・。

 「お前が機嫌がいい時は、お茶を一人で準備して、

  絶対おれを探しに来るんだから。

  そうしてそのお茶を飲みながら、嬉しかった出来事を、

  一つ残らず話してくれるんだよな。」

 

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 2007/9/6

意味不明になってしまいましたが、

三男の秘密基地は、大概陛下の側。

 

 

 

34.平行線(ユ←ヴォ)

 

 ユーリに尋ねた。

 ぼくの容姿で気に入らないところはないかと。

 そうしたらユーリは答えた。

 「え?お前の容姿?お前は天使もびっくりの美少年だからな。

  お前ほどの容姿に文句なんてあるわけ無いだろ?」

 そこでまたユーリに尋ねた。

 ぼくの性格で気に入らないところがあるのではないかと。

 そうしたらユーリは答えた。

 「確かに我侭なところはあるとおもうけど、

  それもヴォルフらしいっていうか。  

 いいことも悪いこともまっすぐで、おれは好きだぜ?」

 そこでぼくはユーリに尋ねた。

 ではぼくの生まれが気に入らないのだろうと。

 階級社会の嫌いなお前にとって、

 貴族などという立場で生まれたことは、

 嫌悪の一つではないのかと。

 そうしたらユーリは答えた。

 「どこでどんな環境に生まれるかなんて、

  生まれてくる子供に選べるもんじゃないし、そんなの関係ないよ。

  それに今のお前があったからこそ、おれたち出会えたんじゃないか。」

 笑うユーリにぼくは尋ねた。

 では、ぼくのことは嫌いではないのかと。

 「あたりまえだろ、おれはヴォルフのこと好きだし、

  大事に思ってる。」

 驚いた顔をしてそう呟いたユーリは、今度はぼくに尋ねる。

 「っていうか、いきなりどうしたんだよ?」

 「聞きたかったんだ。」

 「・・・なにを?」

 「お前がぼくと決着をつけてくれないのは、

  なぜなんだろうと思って。」

 容姿や性格に問題があるのなら、出来る限り直そうと思った。

 ぼくの生まれが気に入らないのなら、

 すべて捨ててしまおうと思った。

 でも、ユーリは今のぼくを好きだという。

 大事だという。

 では一体なにがいけないんだろう、そう思った刹那。

 ユーリが笑って答えた。

 「だぁって・・・・おれたちは男同士だからなぁ。」

 

 

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 2007/9/8

 変えることの出来ない出来事で否定されるのは、

 どうすることも出来なくて、きついね。

 

35.そぅっと覗いてみてごらん(ユヴォと兄二人+大賢者)

 

 「あっれぇ〜?フォンヴォルテール卿、ウェラー卿?

  二人してドアの前で何してるのさ?」

 「「しー・・・大きな声を出さないでください。」」

 魔王部屋のドアの前。

 隙間に顔を近づけて、さながら生トーテムポールの状態で、

 長身を丸めた二人がまったく同じ仕草で僕の言葉をさえぎった。

 「・・・い、一体全体その部屋では何が・・?」

 その余りに異様な光景に、そらおそろしさと好奇心を刺激されて、

 僕は思わず二人に聞き返す。

 「陛下とヴォルフラムのことなんですがね・・・」

 「あぁ、やっぱり?なんとなくそんな気はした・・・」

 この二人がこんなに熱っぽく関心を持つものなど、

 現魔王とその婚約者がらみを置いてほかに思いつかない。

 「ちょっと僕にも覗かせてよ・・・どれどれ?」

 フォンヴォルテール卿とウェラー卿の下に潜り込み、

 僕もトーテムポールの仲間入りをしながら部屋を覗いた。

 中ではいくらふかふかで気持ちがいいとはいえ、

 魔王部屋の絨毯の上、窓から差し込む日の下に寝転がり、

 惰眠を貪る当代魔王陛下とその婚約者の姿があった。

 「まるでちいさなちいさなこねこたんみたいだな。」

 うっとりとした目で見ているフォンヴォルテール卿が正直怖い。

 「じゃれあっていた二人が、陽だまりの中で眠ってしまったんです。

 本当なら掛け布だけでも掛けてやりたいんですが・・・あ、ほら!」

 肌寒かったのか、ぶるりと身を一つ震わせ、

 うぅんと唸って渋谷は横に転がる暖かさを逃すまいと

 フォンビーレフェルト卿の体を抱きしめる。

 と、今度は重なってきた温もりにフォンビーレフェルト卿は

 身を摺り寄せ、渋谷の腕の中にもぐりこんでしまった。

 「グウェン!掛け布は掛けなくて正解だったな!」

 笑顔で兄に話しかける大きいほうの弟に、

 親指を立て笑い返す兄の頬にいつもの威厳はなく、

 ほんのり染めた頬に、僕は見てはいけないものをみた気がしていた。

 「・・・眞魔国にカメラやビデオがまだ出来ていてなくて良かったって、

  今本気でそう思うよ。」

  

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 2007/9/10

 マニア垂涎のワンシーン。

36.わたがし

 

 突然眞日の記者がやってきた。

 本当ならさっくりと断って去ってしまいたかったのだけれど、

 「たった一言だけ答えて欲しい」と余りにしつこく粘られて、

 結局断りきれずに、ぼくは立ち止まった。

 「では、お聞きしますが・・・ユーリ陛下との日々は、

   たとえるならば、閣下にとって一体どのような毎日ですか?」

 思わぬ質問に思わず目を見張る。

 驚きと戸惑いで口をついたのは、自分でも驚くような一言だった。

 「ユーリとの日々は・・・綿菓子のようだ。」

 その言葉をそのままに受け取った記者は、

 ほぅっと小さなため息に加え、頬を僅かに染めて、

 『運命的な出会いをなさったお二人らしい、素晴らしい毎日なのですね。』

 そう呟きながら、手持ちの紙に覚書をしている。

 書き終えると記者は深々と礼を取り、ぼくの前から去って行った。

 きっと明日のシンニチの見出しはこの言葉だろう。

 その背中を見送りながら、ぼくは思う。

 だけど・・・甘く柔らかな日々。

 御伽噺のような、安穏とした暖かな毎日。

 だけど、現実は物語とは違う。

 そう簡単には行かないのだ。

 それはまるで綿飴のように。

 甘く、柔らかな印象と同じく、けれど些細な出来事で

 それは溶けて消えてしまって、そうなればあとには、

 ただべたべたとした、存在の残骸が残るだけ。

 そこにあったという、存在の証が残るだけ。

 「ユーリが、もう地球からもどらなかったしたら・・・・」

 重ねていく幸せな日々もいつかは、消せない存在の残骸になって、

 結局ぼくはそれを抱えて、生きていく、のだろう。

 「ユーリとの日々は、綿飴のようだ。」

 ・・・でもできたらそれは、いつでも作り立てで、

 いつもふわふわと柔らかな、それであればいいのにと思った。

 

 

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  2007/9/12

 儚い綿飴のような、幸せと不安。

 

 

37.見えないもの 見えないはずのもの(マニメネタややばれ、シリアスユヴォ)

 

 お前があの日、「あっちで幸せになれ」といったから。

 おれはあの日、地球を選んだのに。

 「なぁ・・なんで、今なんだよ?

  どうしてもっと早くに来なかったんだ?」

 そうすれば、あと一人くらいは傷つけずに、

 済んだかもしれないのに_____

 

 

 「ねぇ、有利?に、似合う、かな?」

 純白のドレスを身に纏い、ふわりとその裾を翻した花嫁。

 「橋本・・・」

 呼ばれた彼女は、ぷっと吹き出す。

 「やだ、有利ったら・・。未だに私を呼ぶときそれなんだもん。

  今日から私も『渋谷』になるのに、

  一体いつまでそう呼ぶつもりなの?」

 「あぁ・・・、そう、だよな。ごめん。」

 いたずらっぽく頬を膨らます彼女を、

 それでもおれは・・・名前で呼べなかった。

 「し〜ぶ〜や〜?準備できたら一回出てこいよ〜?

  チームの皆が、七五三張りにかしこまったキャプテンと

  写真撮りたいらしーよ?」

 ノックもなしにドアが開いて、暢気な声が響く。

 村田だ。

 「あぁ・・今、行く。」

 じゃぁいくから、と乞われるままに出て行こうとすると、

 彼女は肩をすくめて、また小さなため息を落とした。

 そのため息は、おれの背中と心にちくりと突き刺さって、

 おれもまた同じく、小さなため息を落とす。

 そういえば・・・彼女の笑い顔、思い出せないや。

  

 呼び出されて外に出てみれば、

 自分たちも着慣れぬ正装で現れた仲間たちに取り囲まれて、

 いきなりの胴上げ。

 めでたいめでたいと叫ぶ我がチームの花形ピッチャーは、

 すでに頬を薄紅に染めて、ほろ酔い状態だ。

 「わ〜、お前ら!式が始まる前から出来上がっちゃってるじゃん。」

 わいのわいのと騒ぐ集団から、もがき出るようにして逃げ出すと、

 大笑いの彼らの声がからかうように追ってくる。

 「まったくも〜、酔っ払いってやつは・・・」

 逃げ出した先、式場裏の庭には噴水があった。

 さらさらと心地よい水音を響かせるそれは、

 酷く見慣れた色調、彫刻の、大きな噴水。

 まるで・・・血盟城の庭園にあったもののような。

 それの端に腰掛けて、仲間たちと他愛ない話をしたり、

 待ち合わせをしたりした・・・・あの・・・。

 「あ〜、いたいた、渋谷!主役が逃げるなって・・・ん?  

なに?どうかした?」

 追ってきた村田の声が遠くに聞こえる。

 おれは引き寄せられるように、その水面に近づいた。

 透き通った水。

 それが降り注ぐ水のしぶきと風に揺れている。

 「懐かしいな、村田。おれたちこんなところからでも、

  あの国へ冒険に行ってたんだよな。」

 「あぁ・・・そうだね。もう随分昔のことに思えるけど。」

 見るからに涼を湛えたその水に、指先を浸したその瞬間・・

 『へなちょこっ!!!』

 「ぃてっ・・!」

 びりっとした刺激の後、耳を襲った音に、おれは耳を疑った。

 「ヴォル、フ?」

 おそるおそる、もう一度指先を浸す。

 『へな、ちょこ・・・うわき・・もの・・・』

 きらきらと揺れる水面に映る、見慣れた金髪と白い頬。

 水面が揺れるたび、歪む白皙の面が、まるで、泣いているように、見えて。

 それは、まるで。

 『行けよっ、言ってしまえ!』

  _______そう叫んでおきながら。

 『ユーリッ・・ッ・・!!』

  ________別れの瞬間に吐き出した、あの、涙を含んだ声を。

 おれに何度も思い出させた。

 「なんでだよ?なんでなんだよ・・・。」

 ぱたぱたと、水面に零れた涙。

 せっかくまた見ることができたヴォルフの顔が、さらに揺らぎ、

 それを酷く口惜しく感じた。

 「今頃・・きてさ。おれに・・発信機、つけてあるんだろ?

  だったら・・もっと早くくればさ・・・」

 「渋谷?」

 どんなに伏せて、拭っても、涙が止まらなかった。

 生き慣れた16年をなぞる様に、

 日々を過ごそうと頑張ってきたけれど、

 結局あの国を、あの空を、あの土地を、

 あの、愛しい人たちを、忘れたことなんて一日だって無かったから。

 「ごめん・・・ごめん・・っ、でもっ、おれ・・・」

 彼の国に帰れなくなった日から、こっそり何度も試した。

 でも、どうしても、あの道は開かなかった。

 それでも、戻りたいと願った。

 一目でいい、もう一目でもいいから、彼に会いたかった。

 別れのあの日、おれは振り向かなかった。

 だけど、気づいていた。

 最後におれの名を呼んだ、あの誇り高い婚約者の声が、

 泣き濡れて、震えていたことに。

 だから。

 あの国に行くことが出来たら・・・。

 おれは・・・・ヴォルフを・・・。

 「泣かないで」といって、白磁の頬を伝う涙を拭い。

 「大丈夫だから」といって、この両腕でぎゅっと抱きしめて。

 「側に居るよ」と笑って、二人、転がりなれたベットの上で眠る。

 そんな、叶わぬ夢を、もう何年も見続けて。

 あきらめようと思えば思うほど、消せなくて。

 だから。

 でも・・・どうして、今・・・。

 今になって・・・。

 「渋谷・・・やっぱり、君は・・・・」

 村田の暖かな手が、おれの肩にかかる。

 それがまた、落ち込んだおれを慰め、励ます、

 あの白磁の手を思い出させて、涙がこぼれた。

 「村田・・やっぱり・・・おれ、・・・・」

 

___________あいつに会いたいよ。

 

 

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 2007/9/14

 if。もし、最終回最後から10分くらいの間に、

 村田さんのメガネが光らなかったとしたら?

 ・・・の、ユヴォルッぽいEDヴァージョン。

 陛下がちょっと酷い人(笑)

 

 

38.本能に従え(甘いユヴォ)

 

 ある晴れた日の執務室で。

 木漏れ日が窓から差し、彼の緑色の瞳を焼いた。

 彼はその日の光から逃げるようにふと目を細めて、小首をかしげる。

 閉じられかけた瞳と、上向きかけた唇が、おれを呼ぶ。

 『触れたい・・・』

 想いが言葉として脳裏に映る前に、

 おれはその唇をそっと啄ばんだ。

 

 

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 2007/9/16

 理性VS煩悩は、ほぼ10割の勝率で煩悩の勝ち。

 

39.ダブルベッド(ユヴォと次男)

 

 魔王部屋のベットは随分長い間使ったからと、

 新調してもらえることになった。

 陛下はどんなのがお好みですかと聞かれて、

 考えることしばし。

 「じゃぁ、サイズをダブルベットくらいにして。」

 「おや?いいんですか?」

 純粋に驚いているらしい、名付け親に聞き返す。

 「なにが?」

 「そのサイズでヴォルフと二人寝るのは窮屈では?

 というか、俺は二人の関係が良好なものとばかり

 思っていたのですが・・・」

 さりげなく聞いてくるのは親心か、はたまた兄心か。

 「ちゃんと二人で話し合った結果だから、

  ヴォルフは怒ったりしないよ。」

 その言葉におれの名付け親はさらに驚いたような表情を見せた。

 「ほぅ。またそれは一体どんな風の吹き回しかな?」

 「簡単だよ。ヴォルフは寝相悪いだろ?

 でも最初からおれがホールドしてる日は、

 そこまで大荒れに荒れないんだ。

 だから抱きしめて寝るとなると今ほどベット、

 大きくなくても良いんだよね〜。」

 

 

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 2007/9/18

 狭いほうが獲物を捕らえやすいんだ、陛下。

 

40.あやかし(ユヴォとおにいちゃんズ)

 

 「まったく!ユーリときたら、本当に子供なんだからな!」

 『蒸し暑い夏の夜には怪談話だ!!』と騒ぐユーリに、

 血盟城の七不思議、と呼ばれる

 この城にまつわる伝説のなかでも、

 自分がもっとも面白いと思った

 「夜中に逢瀬をする、金便器と銀便器」の話を

 聞かせてやったのだけど。

 「怖いっていうか、気味が悪いにもほどがあるよっ!

  そんな便器の恋物語なんて!!!」

 そう叫んで布団の中にもぐりこんでしまった。

 「お前は本当にへなちょこだなっ!

  例え便器が逢瀬していたとしても、

  いつもの手洗いに一つ多めに便器が

  座っているというだけのことだろう!

  そんなもののいったいどこが恐ろしいというんだ!」

 腹立ち紛れに、布団越しのユーリの頭を

 ぽかりと叩いてぼくは立ち上がった。

 

 ちょうどその時、82とはいえまだまだ可愛い弟に

 頼まれた寝酒を届けに来たコンラートは、

 開けたドアから見えた最初の光景を見て、

 ぷっと吹き出した。

 その音を聞きつけたのは我が弟。

 気の強そうなその眦を吊り上げて、食って掛かってきた。

 「何がおかしい!?ウェラー卿!!!」

 怖い話を聞きたいというユーリの希望に沿い、

 喜んでくれると思って話をしたのに、予想外に怖がられて、

 布団に篭城されてご立腹の三男坊の頭を、

 優しく撫でながら、コンラートはいった。

 「そういえばお前が小さい頃、血盟城の七不思議の一つ、

 夜な夜な髪の伸びる大賢者様の肖像画の伝説を

 聞かせてやったら、相当怖かったのか、

 俺に齧りついたまま離れなくってね。

  結局夜中3回も手洗いにつき合わされて、

  眠るときも俺の腹の上にしがみついたままで、

 寝返りもうてずに次の日は筋肉痛、ということが  

 昔あったんだが・・・・」

 「そ、そ、そ、そ、そんなことは無いじゃりっ!!!

  それは何かの間違いじゃリーーーーー!!!」

 どうやら覚えてはいたのだろう。

 みるみるうちに真っ赤に染まる弟が、

 恥ずかしさで動転つつ、自分を追い出す姿に、

 まだまだ可愛いなぁと、

 胸いっぱいになったコンラートだった。

  

 追い出された次男はやれやれと、

 微笑ましい気分で閉ざされたドアを見た。

 とその時、残務を片付け、警備の様子を見回っていた

 自分のすぐ上の兄、グウェンダルに出会った。

 「コンラート。なにかいいことでもあったのか?」

 「えぇ、ちょっと心温まる出来事が。」

 そういって今見てきた光景をグウェンダルに話す。

 「・・・というわけで、俺は追い出されたわけです。」

 やっぱり弟は可愛いもんですね、と兄に微笑むと、

 「そうやってお前も暢気に笑っているが・・・。」

 「え?」

 「昔、母上から離れ、一晩ヴォルテールで

  過ごしたことがあったろう?

  あの晩、幼いお前を喜ばせようと、

  城中探して見つけた絵本がちょうど怪談話でな。

  宝物庫に隠されていると言われる眞王陛下の  

 光る下着の伝説をお前に聞かせたら、

 私の膝の上に乗ったまま、

  粗相をしたのを忘れたわけではあるまい?」

 その一言に、ひくりと頬を引きつらせたコンラートは、

 普段の彼からは想像できない位目を泳がせて否定する。

 「い、いやだなぁ〜・・・おにいちゃん。

  そんな古い話を・・・」

 思い出したくなかった過去を振り切るように、

 すぐ上の弟がぎこちなく走り去るのを

 見送るグウェンダルの背後には、

 日記の執筆の合間に夜半の散歩を楽しんでいた

 王佐が近づいていた・・・。

 

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 2007/9/20

 幼い頃の色々は大きくなっては聞きたくないものが

 結構あったりしませんか(笑)

 
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