37.見えないもの
見えないはずのもの(マニメネタややばれ、シリアスユヴォ)
お前があの日、「あっちで幸せになれ」といったから。
おれはあの日、地球を選んだのに。
「なぁ・・なんで、今なんだよ?
どうしてもっと早くに来なかったんだ?」
そうすれば、あと一人くらいは傷つけずに、
済んだかもしれないのに_____
「ねぇ、有利?に、似合う、かな?」
純白のドレスを身に纏い、ふわりとその裾を翻した花嫁。
「橋本・・・」
呼ばれた彼女は、ぷっと吹き出す。
「やだ、有利ったら・・。未だに私を呼ぶときそれなんだもん。
今日から私も『渋谷』になるのに、
一体いつまでそう呼ぶつもりなの?」
「あぁ・・・、そう、だよな。ごめん。」
いたずらっぽく頬を膨らます彼女を、
それでもおれは・・・名前で呼べなかった。
「し〜ぶ〜や〜?準備できたら一回出てこいよ〜?
チームの皆が、七五三張りにかしこまったキャプテンと
写真撮りたいらしーよ?」
ノックもなしにドアが開いて、暢気な声が響く。
村田だ。
「あぁ・・今、行く。」
じゃぁいくから、と乞われるままに出て行こうとすると、
彼女は肩をすくめて、また小さなため息を落とした。
そのため息は、おれの背中と心にちくりと突き刺さって、
おれもまた同じく、小さなため息を落とす。
そういえば・・・彼女の笑い顔、思い出せないや。
呼び出されて外に出てみれば、
自分たちも着慣れぬ正装で現れた仲間たちに取り囲まれて、
いきなりの胴上げ。
めでたいめでたいと叫ぶ我がチームの花形ピッチャーは、
すでに頬を薄紅に染めて、ほろ酔い状態だ。
「わ〜、お前ら!式が始まる前から出来上がっちゃってるじゃん。」
わいのわいのと騒ぐ集団から、もがき出るようにして逃げ出すと、
大笑いの彼らの声がからかうように追ってくる。
「まったくも〜、酔っ払いってやつは・・・」
逃げ出した先、式場裏の庭には噴水があった。
さらさらと心地よい水音を響かせるそれは、
酷く見慣れた色調、彫刻の、大きな噴水。
まるで・・・血盟城の庭園にあったもののような。
それの端に腰掛けて、仲間たちと他愛ない話をしたり、
待ち合わせをしたりした・・・・あの・・・。
「あ〜、いたいた、渋谷!主役が逃げるなって・・・ん?
なに?どうかした?」
追ってきた村田の声が遠くに聞こえる。
おれは引き寄せられるように、その水面に近づいた。
透き通った水。
それが降り注ぐ水のしぶきと風に揺れている。
「懐かしいな、村田。おれたちこんなところからでも、
あの国へ冒険に行ってたんだよな。」
「あぁ・・・そうだね。もう随分昔のことに思えるけど。」
見るからに涼を湛えたその水に、指先を浸したその瞬間・・
『へなちょこっ!!!』
「ぃてっ・・!」
びりっとした刺激の後、耳を襲った音に、おれは耳を疑った。
「ヴォル、フ?」
おそるおそる、もう一度指先を浸す。
『へな、ちょこ・・・うわき・・もの・・・』
きらきらと揺れる水面に映る、見慣れた金髪と白い頬。
水面が揺れるたび、歪む白皙の面が、まるで、泣いているように、見えて。
それは、まるで。
『行けよっ、言ってしまえ!』
_______そう叫んでおきながら。
『ユーリッ・・ッ・・!!』
________別れの瞬間に吐き出した、あの、涙を含んだ声を。
おれに何度も思い出させた。
「なんでだよ?なんでなんだよ・・・。」
ぱたぱたと、水面に零れた涙。
せっかくまた見ることができたヴォルフの顔が、さらに揺らぎ、
それを酷く口惜しく感じた。
「今頃・・きてさ。おれに・・発信機、つけてあるんだろ?
だったら・・もっと早くくればさ・・・」
「渋谷?」
どんなに伏せて、拭っても、涙が止まらなかった。
生き慣れた16年をなぞる様に、
日々を過ごそうと頑張ってきたけれど、
結局あの国を、あの空を、あの土地を、
あの、愛しい人たちを、忘れたことなんて一日だって無かったから。
「ごめん・・・ごめん・・っ、でもっ、おれ・・・」
彼の国に帰れなくなった日から、こっそり何度も試した。
でも、どうしても、あの道は開かなかった。
それでも、戻りたいと願った。
一目でいい、もう一目でもいいから、彼に会いたかった。
別れのあの日、おれは振り向かなかった。
だけど、気づいていた。
最後におれの名を呼んだ、あの誇り高い婚約者の声が、
泣き濡れて、震えていたことに。
だから。
あの国に行くことが出来たら・・・。
おれは・・・・ヴォルフを・・・。
「泣かないで」といって、白磁の頬を伝う涙を拭い。
「大丈夫だから」といって、この両腕でぎゅっと抱きしめて。
「側に居るよ」と笑って、二人、転がりなれたベットの上で眠る。
そんな、叶わぬ夢を、もう何年も見続けて。
あきらめようと思えば思うほど、消せなくて。
だから。
でも・・・どうして、今・・・。
今になって・・・。
「渋谷・・・やっぱり、君は・・・・」
村田の暖かな手が、おれの肩にかかる。
それがまた、落ち込んだおれを慰め、励ます、
あの白磁の手を思い出させて、涙がこぼれた。
「村田・・やっぱり・・・おれ、・・・・」
___________あいつに会いたいよ。
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2007/9/14
if。もし、最終回最後から10分くらいの間に、
村田さんのメガネが光らなかったとしたら?
・・・の、ユヴォルッぽいEDヴァージョン。
陛下がちょっと酷い人(笑)
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