10万HIT有難うございます★

 

41.しせん(死にネタ ユヴォ)

 

 「フォンビーレフェルト卿っっ・・!!

  ヴォ、ルフラム閣下っ・・っ!!」

 部下の声が聞こえる。

 でも見えるのは白く、薄青い、靄だけ。

 「へ・・、ぃかに・・・、おつた、え、しろ・・・っ・・、

  たし、か、に・・ぃ・・きて、かぇ、った、と・・・・」

 この国を、そしてこの国が目指す平和への架け橋を、

 この身で守りきったのだと、そうユーリに伝えたかった。

 「陛下・・?!か、閣下!陛下です!

  陛下がこちらに来られています!!

  どうかっ・・どうかっ、お気を確かに!

  ヴォルフラム閣下っっ・・・っ!!!」

 足音が聞こえていた。

 とても急いでいる足音だ。

 一緒に聞こえていた部下の声が遠くなる。

 足音も同じ様に。

 でも、小さく頬に当たる風が止まったのだけ分かったから、

 思わず嬉しくて笑ってしまった。

 『ゅーり・・・・へなちょ、こ・・・』

 へなちょこゆーな、と。

 今はもう、真っ暗な視界に君の憮然とした顔が見えた気がした。

 『ゆーりの・・・瞳の、色・・・』

 最後に見る色が君の色で、それがまた嬉しくて、笑った。

 

 

 ぱたぱた、と頬に雨が降った。

 それは温かな、優しい雨だった。

 

 

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 2007/9/22

 しせん=視線=死線・・・ってことで。

 

42.カルネアデスの板(相棒ユヴォ)

 

 『貴方は海で溺れています。その時小さな板切れが流れてきました。

 貴方一人つかまってようよう浮くような板切れです。

 そこに別の人が来てその板につかまってきました。

 その時貴方はどうしますか?』

 「愚問だな。そんなもの、相手がユーリなら答えは一つだ。」

 「・・・聞かなくても分かる気はするけど。」

 「ぼくが手を離す。お前を守るのがぼくの役目で、誇りなのだから。」

 「そう言うと思った。でも・・・」

 手を腰に当て、得意の踏ん反りポーズで、

 おれを見ている緑色の瞳を見つめて、おれは宣言する。

 「もしもそのときお前が手を離したら、おれも板から手を離す。」

 「ユーリ・・・」

 「どっちかが生き残る、じゃなくてどっちも生き残れるように

 まずは足掻いてみなくちゃな!

  でなきゃどんな結果になってもきっと後悔する。」

 おれの言葉に呆れたようにため息をつくヴォルフ。

 でも・・・瞳と唇の端は薄く微笑んでいた。

 「・・・そう言うと思った。だったら・・・」

 ヴォルフは続ける。

 「足掻いて足掻いて、どんな結果になろうとも、

 ぼくはおまえと共にいこう。たとえどんな結果になろうとも。」

 

 

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 2007/9/24

 一緒に落ちてやる。

 

43.パンドラの箱(確信ユヴォ)

 

 男同士で結婚なんて、

 絶対無理だと心底そう思っていた。

 生まれて16年。

 色んな積み重ねてきた倫理観とか、

 そういうものを、

 一個一個取り外していったら結局、

 ものすごく単純で、ものすごく大切なものが、

 たった一つだけ残った。

 おれの心の箱の中。

 残ったそれは、ヴォルフのこと。

 彼は確かに男で、確かに異世界人で、

 確かに生きる年月が違って、

 生まれ育った倫理観も多少ずれてて、

 見た目なんかに至っては、

 多少ですまないくらい引き離されてるおれ。

 だけどさ。

 ヴォルフはもうずっと前から、

 自分の中にある心の箱の中を、

 全部ぶちまけて、唯一つ、『おれを信じる』と、

 そういって手を差し出してくれていた。

 突き刺さるほどまっすぐな、正直な気持ちは、

 嘘より親切で、暖かくて。

 揺れるおれの気持ちをいつでも支えてくれていたんだ。

 そう。

 それは、昔々のお話にあった「パンドラの箱」の底に残った、

 たった一つの希望と同じで。

 ヴォルフはおれのなかの、確かな勇気。

  

 

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 2007/9/26

 どんな災厄もきみと一緒なら大丈夫。

 

45.永遠の愛-eternal love-(マニメ最終回以後設定っぽいユヴォ)

 

 創主との戦いを終えて、地球へと帰ったおれ。

 もう二度とは会えないと思っていたヴォルフ。

 だけど、流れる運命の輪の中で、もう一度出会えた。

 

 「創主のことを考えるとさ、今でもちょっと怖いんだ。」

 「なんだ?急に。」

 二人背中合わせに、休みなれた魔王ベットの上で座る。

 「創主ってさ、人の恨みや妬みが元になっているとしたら、

 いつか遠い未来に、また創主はきっと現れてしまう、だろ?」

 悲しいけれど、人というのはそういうものだ。

 向上心と言われるものと表裏一体で、

 妬みや恨みというものも持っている生き物だ。

 創主の元となったのは、そんな人間の暗い感情だとしたら、

 いつの日かまたあの戦いの日々がやってくるということになる。

 創主との戦いは、決して楽なものではなかった。

 それをいつか自分に連なる未来の人たちが、

 またあんな目に合うかと思うと、酷く心が痛んだ。

 「だけど人を恨んだり妬んだりするのもまた、

 人の業・・・というか、人を愛するのと同じ様に、

 消せないものだろう。」

 そんなおれの心の揺らぎを理解しているのか、

 ヴォルフは意外に冷静だ。

 「それはそうかもしれないけど・・・さ。  

 いつか遠い未来の人が、

 またおれたちみたいな思いをして欲しくないって、

 やっぱり考えてしまうよ。」

 落ち込んで思わず俯いたおれの背中に、

 合わせた相棒の背中が小さく笑って揺れたのを感じた。

 「大丈夫だ。」

 「なにが?」

 「そんなに不安ならば、お前の成した事を、一語一句違わず、  

  語り継ぐようにすれば言いだけだ。」

 まだおれの目の中に、なぜ?の疑問符が出ているのが分かるのだろう、

 自身有り気に振り向いた、翠色の瞳がゆっくりと細められて、

 ヴォルフはグレタに寝物語を語るように話し出す。

  

 

 昔々世界は創主というものに蝕まれ、崩壊の一途をたどっていました。

 けれどもそれを止めるため一人の男が立ち上がったのです。

 彼の名は眞王。彼は自らと同じ力あるものたちを率い、

 創主を打ち滅ぼそうと死力を尽くしました。

 けれど創主は強大でした。

 彼らは決死の覚悟で創主を捕らえ、

 この後創主がこの地に仇名すことがないよう、

 4つの箱に創主を分け、封印し、世界は平和になりました。

 けれどもそれから4000年ののち、箱の封印は解かれ、

 創主はまた世界を暗黒に染め上げようとしました。

 けれどもまたそれを良しとせず、勇敢に立ち向かった王が居ました。

 彼の名はシブヤユーリ。

 眞王から数えて27代目の王でした。

 王はその優しい気質そのままに、民を、そして世界を想い、

 不屈の精神と、皆を救うという強い心で創主に対峙し、

 彼らを打ち滅ぼすことが出来たのです。

  

 

 くすぐったいような言葉で綴られた、

 一連の事件の思い出。

 一息に語ったヴォルフラムの瞳は変わらず柔らかいままで、

 おれをじっと見つめていた。

 「大丈夫だ。」

 「何が?」

 暖かな手がおれの手を包む。

 「不可能だと思えるようなことを、お前はやり遂げた。  

 そしてその事実は後に続くものたちに、

 こうしてぼくが語ったように、一つづつ渡されていく。」

 続く言葉を想像し、無意識に力が入り、

 重ねられた白い指先をきつく握ってしまう。

 「もしまた創主が現れて、人々が混乱と暗黒に覆われそうになっても、  

  ユーリ、お前が残したこの物語の中に人々はきっと、

 屈しない勇気と強い心を受け取って、また創主を打ち倒すだろう。

 わかるか?ユーリ。

 お前の成した事はそれほど価値あることなんだ。

 お前は今、この世界を直面する脅威から守り、

 そして、これから、100年、

 そして1000年先の未来の世界も守っていくんだ。」

 「ヴォルフ・・・」

 暖かく優しい声が胸に染みて、

 抱えていた恐怖が溶けていくような気がした。

 鼻の奥をつんと突く、痛み。

 その結果が涙としてあふれ出そうとするのを抑えるおれの頬に、

 空いた手をやったヴォルフが笑ってこういった。

 「まったく!そうかんがえると、  

 お前は本当に根っからの浮気者だなっ!

 これから永遠に世界中の人々に

 愛想を振りまくというのだからな。」

 

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2007/9/30

千年後の世界でも、優しい王様とそれを支える伴侶の、

優しい物語が響きますように。

 

46.何事も言葉で暴く必要はない(意識し始めた陛下)

 

 たとえばコンラッドが、ヴォルフの頭を必要以上に撫でたりとか。

 たとえば村田が、おれを出汁に地球の知識を教えるといってヴォルフを

 眞王廟に連れ出してしまったりとか。

 たとえばギュンターがしつけのし直しとばかりに、

 ヴォルフラムと個人勉強をしたりとか。

 グウェンダルの城に遊びに行ったきり帰ってこないとか。

 今日は軍の仕事で、夜が遅くなるとか。

 そんなことを言われて、つい。

 不機嫌になっちゃったり、食事が咽喉を通らなかったり、

 仕事を放棄してヴォルフの様子を見に行ったりとか。

 反対にヴォルフが帰ってきたら妙に嬉しかったりとか。

 こういう気持ちって・・・・友情、なんだ、よ、ね?

  

 

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2007/10/2

 恋の始まりは、いつでもふいに、足元に転がっているもの。

 

 

47.青空教室(ユヴォとお邪魔村田)

 

 『というわけで、野球というのは〜・・・』

 『ふむ。なるほど・・』

 血盟城の奥、脳筋族のおれには最も縁の薄い場所、

 王室図書館。

 その重厚な扉の隙間から聞こえる声は、

 どうやらおれの親友と婚約者の声らしい。

 「まぁた、あの二人は・・・」

 村田のことを余り好んでいない風を見せるヴォルフだけど、

 たまに自ら近づいていくことがある。

 原因は大体おれのこと。

 おれの生まれた地球のことを、知りたい時が大半だ。

 聞きたければおれに聞けばいいのにとおもうけれど、

 そこはそれ、あらかじめ『知っている』というのが重要らしい。

 まぁ、その気持ち、分からなくは無いけれど。

 だけど。

 「まぁったく!こんないい天気の日に二人して、  

 埃っぽい所に篭ってるなよ〜。」

 「ユーリ?」

 「お!渋谷、今日は兵士の皆さんに野球教えるんじゃないの?」

 重い扉を開けてみれば、暢気に振り向いた親友と、

 びくっと一瞬身をすくめた婚約者と。

 やましいことは何もないだろうとそう分かってはいるのに、

 そんな態度をとられてしまうと、なんだか少しむっとして。

 「二人で何してんの?」  

 「なにって・・・。浮気?」

 にっこり笑って小首を傾げた村田に、

 掴みかからんばかりの勢いでヴォルフラムが叫ぶ。

 「ばっ!?そんなわけがあるかっ!!

  嘘を言うなっ、大賢者!」

 「あっはっはっ!そりゃぁ〜、そうだよねぇ。

  渋谷のために野球のことを勉強してるのに、

  浮気疑われたら困るかぁ〜!」

 うぐっと一息と共に言葉を飲み込んだヴォルフの頬が、

 みるみる真っ赤に染まる。

 こんなに可愛い反応ばかりするから、

 村田にからかわれるんだって、

 何度説明してもちっとも分かってないんだな、きっと。

 だけどこのままほおっておいても、村田の思う壺だ。

 村田の魔の手から救い出そうと、手を差し出しながら呼びかける。

 「だいたいさぁ!こんなところで顔を突き合わせていても、

  野球のことはわかんないって!」

 「ぼ、ぼくは別にっ、野球に興味など!!」

 頬を染めてそっぽを向く、ヴォルフの手を引いて、

 図書館から引っ張り出した。

 ドアを閉める前、その隙間から覗いていた親友の瞳が、

 意味ありげに笑うから、また恥ずかしくて、

 握る手に力を込めた。

 「もー!今日は反論は無しっ!」

 「ユーリ?」

 足を止めないおれの、少しキツ目の語調に、

 不安そうな声でおれの名を呼ぶヴォルフに

 おれは笑う。

 「村田に聞かなくってもさ、おれが教えてやるよ。

  お前が聞きたいことは何でも。」

  

 この、青空の下。

 君の望む限り、すべてを。

 

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2007/10/4

 陛下もヴォルフも、青空の似合う子ですよねVv

 

48.僕はこの目で嘘をつく(ユ←ヴォ)

 

 ぼくはその日ギーゼラに貰った手紙と贈り物の束を、

 誰に目にも触れないうちに、

 消してしまおうと、裏庭に出ていた。

 毎度のことだ。

 ユーリと婚約関係になって、

 以前より目立った行為で迫ってくることは無いが、

 こうしてたまに誰かを通じて手紙などを送りつけてくるのだ。

 迷惑な話。

 ぼくにこんな話が上がっていると知れば、

 あのユーリのことだ、注がれる気持ちを無碍にするなと、

 きっとそういうんだ。

 自分のことは棚に上げておいて。

 そして、ぼくは、それらに答えることなど、ありえないのに。

 ユーリに見つかる前に、炎を飛ばし、

 灰に変え、風に紛らわせる。

 「あれ?ヴォルフ?なにしてるの〜?」

 「・・・ユーリ。」

 笑顔の君を見て、ぼくも笑う。

 届かない思いなど、何もなかったように。

  

 

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2007/10/6

 隠すときはきっとこんな風なんじゃないかと。

 求婚者だけではなく、反対派の勢力とか。

 

 

 

49.私をあげる(日常ユヴォ)

 

 ぽとん。

 小さな音がして、

 林檎が一個、ソファに落ちた。

 「重力発見・・・ではなくて・・・」

 残念ながらこちらの世界でも重力は

 すでに発見されてるし。

 林檎に近づけば、それが伝言付きなのを知る。

 『糖分補給。はやく仕事を終わらせろ。へなちょこめ。』

 ヴォルフだ。

 時間が空いたら城下に出ようと、確かに約束はしたけど。

 仕事の進み具合が、いつも以上に遅いのもほんとだけど。

 メッセージ付き林檎を手にとって。

 執務机に戻りながら、

 おれは隠れているつもりの侵入者に聞こえるように、

 少し大きめの独り言を呟く。

 「確かにリンゴでも糖分補給は出来そうだけど。

  誰かさんが、今すぐここに来て、

  キスの一つでもしてくれれば、

  速度UP間違いなしなんだけどなぁ!」

  

 

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2007/10/8

 同じお題で違う話って、なかなか思いつかなくて困ります(笑)

 「禁断の果実」はこの話のヴォルフバージョンです

 

50.禁断の果実(日常ユヴォ)

 

 ユーリの仕事は重要だ。

 一日一個でも進めておかないと、困るのは民だ。

 だけど。

 一日のうちの一刻だけでも、

 ぼくだけのユーリでいる時間を作って欲しい、なんて、

 そんなことをつい考えてしまう。

 「厨房係の娘に林檎を貰ったのだが・・・」

 美味そうな果実だが、一人で食べる気にはとてもならず、

 かといって捨ててしまう気にも・・・。

 「そうだ!今ユーリは執務室だ。

  先の間は書類運びの間は開けてあるから、  

 今なら忍び込んでこっそり置いてくることも・・・」

 

 赤く光る林檎。

 その実に思いを託して。

 君に届けよう。

 

 

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2007/10/10

 ソファーの陰で頭隠して尻隠さすで、

 隠れてる三男を知ってて突っ込む陛下は、

 一つ前のお題の陛下。

 

 
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