52.そのままの君(似たものユヴォ)
城下をうろつくのが好きなユーリは、
よく連れを連れて町に出る。
今まではコンラートやヨザックが相手として多かったが、
最近ではぼくをよく誘ってくれるようになって嬉しい。
そしてその日も、二人で城下に出かけた。
町は活気があって、賑わっていた。
出店の中からは、呼び込みの声が響く。
変装もせず、二人で並んで歩くぼくらに、
一人の若い女が駆け寄ってきた。
「ユーリ陛下!ヴォルフラム閣下!」
「ん?」
頬をほんの少し染めてやってきたその女の腕の中には、
柔らかそうな布で包まれた小さな塊が合った。
「陛下、閣下、視察の途中に申し訳ありません。
あのっ、この子にどうぞ、祝福を頂けませんか?」
覗き込めばその塊は、もぞもぞと動いて布の中から
小さな手をひょっこりと出した。
「わぁ!赤ちゃんだ!かわいいなぁ〜。」
子供好きのユーリのこと。
まるくきらきら光る子供の瞳に、微笑むユーリと、
それを覗き込むぼくが映っていた。
「祝福かぁ。でも、そういうのっておれより
村田の方の仕事だと思うんだけど。」
そう言いつつも満更でもない顔で、
柔らかそうな子供の頬を指先でつついている。
「こういうのは気持ちの問題だ。
それにお前は尊い双黒だからな。
その光明にあやかりたく・・・いたっ・・っ!」
伸ばした小さな手が、ぼくの髪をつかむ。
とっさに外そうとするが、それは存外強い力でなかなか外れない。
焦るぼくとは裏腹に、赤ん坊はなぜかとても楽しそうに、
ぶんぶんと腕を振り回す。
「あ〜・・あ〜・・・」
「いた・・っ・・・いたい・・っ!」
「わわっ!ヴォルフ、大丈夫か?!
でもなんか分かるなぁ〜、
ヴォルフの髪、触りたくなるのって。」
ユーリが小さな手を解いていくと、
その手が今度はユーリの指を掴む。
そしてまたしばらく、ちっちゃいなぁ、
可愛いなぁと、繰り返したユーリが、
子供とその母親に祝福の言葉を添えると、
母親はとても嬉しそうに、
そして何度も何度も礼を述べて去って行った。
引っ張られた髪を撫で付けながら、
ユーリに目をやれば。
赤ん坊に触れた手を、なにかを思い出すように
開いたり閉じたりしていた。
子供が好きなユーリ。
赤ん坊に触れている間、とても嬉しそうな顔をしていたっけ。
そう思い返してしまうと、ふいに申し訳ない気持ちが溢れてしまう。
ぼくとの結婚をユーリが決めた今、
ぼくらの血を受け継ぐ子を、この手に抱くことはないだろう。
どこかで子でも生して来れば話は別だが、あのユーリの性格上、
ユーリと血のつながった子供を抱くことは、ほぼ、ない。
ユーリはそういうやつだから。
「ヴォルフ、ごめん・・・」
「ユーリ、すまな・・・え?」
思いのままに侘びを口にしようとしたぼくより一瞬早く、
ユーリがぼくに声をかけた。
「ユーリ・・・。なにを・・あやまってるんだ?」
「ん?あぁ・・・赤ちゃん見てたらさ・・・」
ぼくを見上げたユーリの瞳は、ほんの少し寂しそうで。
「おまえ、おれと結婚するってきめたろ。そうしたら、さ。
お前と血のつながった子供、
抱くことってないんだなぁって思ってさ。」
お前に似た子なら、きっときらきらの金髪に、
宝石みたいな瞳を揺らして、花が綻ぶ様に笑うんだろうなぁ・・・
そういうと、また自分の手の平に視線を戻してしまう。
「ユーリ・・・」
今度はやけに笑いがこみ上げる。
同じものを思いに持って、ぼくらはここに居るのだと、
そんな風に思えたから。
「馬鹿だな、お前は。」
「ヴォルフ・・・。」
「ぼくはおまえと共に歩くと決めた今を
後悔したことなど無いぞ。
子のことなら、おまえと結婚することで
グレタを得ることが出来る。それに・・・」
______ぼくは、いまのユーリを愛しているから。
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2007/10/14
「でも、もしお前似の娘が生まれたら、
どんな子だろ?って考えちゃうなぁ。やっぱり。」
「ぼく似の娘か・・・。ぼくは母上にそっくりだからな。
ぼくに似ているというだけでいいのなら、
母上の幼少の頃の絵姿を見せていただくと、
少しは想像できるかもな。」
「そうか!城に帰ったら探してみようっと!」
「とはいっても、ユーリ、お前の子供は見てみたいな。」
「え〜、おれ?おれは、どっちかって言うとおふくろ似だから・・」
「では、今度地球にいったら、
ジェニファー母上の幼少のみぎりの絵姿を見せていただこう!」
「は?お袋の子供の頃の写真?!そんなの、おれもみたことねぇよ!」
・・・・なんて、話してたら楽しいなぁ。
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