61.ビタミンC(可愛いユヴォ)

 

 「ヴォルフってさぁ・・・」

 「なんだ?」

 「なんていうの?お肌のお手入れ、とかしてるの?」

 「・・・は?」

 身支度をしていると突然掛けられた意味不明の質問に、

 一旦思考が止まってしまう。

 「ぼくがそういう行為をしているかどうかなんて、

  共に暮らしているお前が一番知っているだろうが。」

 「いやいや、まぁそうだけど!  

 してるところ見たことも無いけどさ。」

 「だったら・・・」

 声音を強めたぼくに焦ったように弁解するユーリ。

 そんなユーリにたたみかけたぼくの頬を、

 ばっとだこの飛び出た指先が、つんとつついた。

 「ん〜・・・でもさぁ・・・・いつ触れても柔らかくて、  

 しっとりしてて。おれと行動共にしてるんだし、

 肌にかかるダメージは一緒だと思うのに、

  お前いつだってきれいだから。」

 「そういうお前だって十分綺麗だぞ?」

 「ん〜・・・そういう意味ではなくて・・・・」

 その様子を次の間から見ていたメイドの一人が、

 くすくすと笑いながらこういった。

 「お二人ともお綺麗ですよ。

  だって恋は人を綺麗にする力があるんですもの。」

  

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2007/11/6

 恋はビタミン・・・・80年代のアイドルの歌謡曲っぽい。

 

 

 

62.優しい体温(地球にて・・)

 

 地球にやってきたヴォルフラムを連れて、

 彼の見たいといった町へ行った。

 おれの名前と同じ町。

 歩けば、立てば、微笑めば。

 いや、例えば不機嫌に眉間に皺を寄せたり、

 拗ねて唇を尖らせたって、

 見るものすべてを惹きつける、天使のようなヴォルフ。

 甘いものが好きなのだって、

 彼だとさまになるから底の浅い財布と知りつつも、

 ついつい買い与えてしまうのだけど。

 

 「これ、食べたい。」

 指差した先にあったのは、甘そうなチョコバナナのクレープ。

 アイス大盛りにして手渡せば、ほんわか嬉しそうに笑うヴォルフ。

 美少年に似合わぬ大口で甘い甘いクレープを、

 パクパクと食べ進める彼は、

 食べることにやや夢中で歩くのがおぼつかない。

 『あぶねぇな・・・手を・・・あ・・・・!』

 ふと。

 眞魔国での癖で、ヴォルフの白い手を取って歩きそうになって。

 ここが、かの地ではなく、地球で。

 それは許されないのだと、理性が、それを押しとどめた。

 彼の手を取ろうと開いた手は行き場なく、

 結局、一度緩く広げ、そして強く拳に握り締めた。

 何事も無かったフリをして、しばらく、無言で歩く。

 行き先はおれの好きな場所。

 ヴォルフにも一度、見て欲しかった場所。

 本当なら心躍るはずなのに。

  

 

 

 「お袋に電話するな。」

 「あぁ・・・。」

 変な気まずさを振り切るように、

 おれはおふくろとの約束だった、『こまめな連絡』を果たすため、

 近頃見かけなくなった公衆電話を探した。

 携帯を持たないおれは、

 ようやく見つけた公衆電話のドアをギィと押し開ける。

 それは長いこと使われていなかったのか、錆びた音が酷く響いた。

 ドアが軋みながら閉まった瞬間、ほぅっ、とため息が零れる。

 気持ちを落ち着け、受話器をとった。

 押しなれたダイヤルを押す手元が、不意に翳る。

 鈍い光を遮ったものの正体を見たくて、横を盗み見れば。

 ほんの少し寂しげに、くすんだ電話ボックスの側面に

 外側から背を寄りかけたヴォルフの姿。

 片手ではぽつりぽつりとクレープを口に運びながら、

 もう片手はゆるやかに背中に回していて、

 硝子越しにはヴォルフの背中と硝子の間に、

 広げてぴたりとくっついている白い手の平が見える。

 それをみて。

 気づいていたのかもれない、とそう思った。

 ヴォルフは気づいていたのかもしれない。

 おれのあの瞬間の葛藤を。

 おぼつかない彼の足取りを、変わっておれが導こうとした、

 あの瞬間のことだ。

 そう考えたら、今こうしてヴォルフが

 窓越しに寄りかかっていることさえ、

 そんなほんの少し寂しい気持ちを紛らわすために、

 仕掛けていることなのかも、なんて思えた。

 眞魔国ではごく普通の出来事が、ここでは出来ないなんて、と。

 それを理解したうえでの意趣返しなのではないかと。

 

 がしゃんと、小銭が落ちる音がして。

 ぷるると呼び出していた電話口から聞きなれた声が響く。

 「あ、おふくろ?おれだけど。」

 『ママでしょ、ゆーちゃん!』という

 聞きなれたぼやきを耳に入れながら、

 おれは硝子越し、背中合わせにヴォルフとくっついた。

 この世界では繋げなかった手のぬくもりを探すように、

 彼の手の輪郭に合わせてそっと。

 「おれたち、帰るの少し遅くなるけど心配しなくていいから。

  あ、でも飯は家で食うから。うん。じゃぁ。」

 話が終わって電話が切れて。

 ツーツーと途切れた音を出す受話器は肩口に乗せたまま。

 そして、押し当てた手もそのまま。

 手の平を当てた硝子は少しずつぬくもりを増していく。

 それは挟んだその硝子の存在なんか忘れさせて、

 すぐ側にヴォルフがいてくれるような気さえして。

 まるで、何者にも邪魔されることなく触れ合っているかのようで。

  

 だから。

 硝子越しに、いつまでも、ヴォルフを感じていた。

 

 

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2007/11/8

 『優しい体温』という単語のイメージが、

 薄絹のようなものを挟んで、それがゆっくりと熱を持って、

 相手に伝わるイメージだったんですが、いかがでしょう?

 若干、CDドラマのネタバレっぽくありますが、

 その辺はお好きなようにイメージしていただけたらと思います。

 (地球デートの時の格好好きなんで書き手はそれをイメージして書きましたが。)

 

63.新しい世界(出来立てユヴォ)

 

 知らなかったんだ。 

 世界がこんなに光に満ちていたなんて。

 

 男同士だということに気を取られて、

 おれはお前が側にいてくれる幸せを、ずっと軽く感じていた。

 それは、でも、まぁお前も悪いって思うんだ。

 なんでそんなに深く真っ直ぐな思いを、

 見返りも、欲得もなく、ケチることも無く、

 すべてをおれに注ぐことが出来るなんて。

 そんなこと、できるだなんて。

  

 「おまえ、本当に綺麗だなぁ。」

 「ぼくは昨日と変わらないぞ。」

 そういって不敵に笑ってヴォルフは答えた。

 「唯一つ違うことといえば、

  お前がぼくを見る目が違うということだけだな。」

 

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2007/11/11

 なんだか陛下が妊婦さんのような心境になってますが(笑)

 結局変わらない日々も、気持ちの持ちようで、

 お天気にも、雨模様にも感じられるということなのです。

 

 

64.気づかないふり(甘ユヴォ)

 

 待ち合わせは血盟城の裏庭、大きな楡の木の下。

 「やべ〜、仕事遅くなっちゃった。」

 行儀悪く、城の廊下を駆け、

 階段を跳ねるように下りていく。

 約束の時間より、一刻はすぎている。

 ヴォルフは呆れて待ち合わせ場所から

 居なくなってたりしないかな?

 それとも、痺れを切らして

 おれを探しに行ってしまったりして、

 すれ違ったりしないだろうか?

 激しい運動と、そんな不安で胸が

 早鐘のように鳴っている。

 「ヴォルフ、ごめん・・!」

 庭に飛び出し、木陰の下を見てみれば。

 「・・・うっわぁ〜・・・それ、反則。」

 待つ間の手持ち無沙汰解消のためによんでいたのだろう、

 ヴォルフのおなかの上には広げられた本が載っている。

 寄りかかった背中は、ほんの少し右に傾いでいて、

 その流れに沿うように俯いた彼の頬に流れる金の髪。

 形の良い唇から、すぅすぅと小さく漏れる寝息は極上のもので。

 「遅れたついでに、もう少し眺めとこう。」

  

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2007/11/12

 お題から少しズレてるような気がしなくも無いですが、

 遅れてるって分かってるのにじっくり見たい陛下。

 時間なんて気づかないふり。

 

 

65.回復する傷(数年後のロイヤルファミリー)

 

 いつだって側にいてくれたおかあさま。

 あの柔らかな手を離してしまってから、

 わたしの手の平はいつも冷たかった。

 さみしかった。

 いつだって孤独で寂しかった。

 冷たい手にどんなに息を吹きつけても、

 ちっともあったかくならなくて。

 だから必死で考えて、一世一代の悪行でもいいから、

 またあのぬくもりを取り戻したかった。

 そんな間違ったことをしたわたしの手をとってくれた人。

 大好きなユーリがとってくれたわたしの手は、

 あの日から冷えることはなかった。

 例えユーリが異世界に行ってしまって側にいなくても、

 必ず誰かがわたしの手を取ってくれた。

 あの日からずっと、すっと、温かかったわたしの手。

 でも。

 でも今日はその手を一時離すとき。

  

 まっすぐに伸びた絨毯を、

 ユーリとヴォルフに手をとられて歩く。

 この日のためにとしつらえられた豪奢なドレスは、

 重くて歩きづらいけれど、

 綺麗だ綺麗だと皆が喜んでくれるから、

 今日は特別と思って歩いた。

 ゆっくりゆっくり進むその先には、

 わたしがこれから共に歩くと決めた大切な人が、

 そこにいた。

 わたしを渡すそのときになって、

 初めてユーリとヴォルフが泣いているのに気づいた。

 「なんで泣くの?」

 「・・・嬉しいから。でも、悔しくて、

  寂しくて、いたたまれないから。」

  そういったきり、ユーリは俯いて何も言ってくれなくなった。

 ちょっぴり不安になってヴォルフを見れば、

 やっぱり同じ様に泣きながら、でも笑ってくれた。

 「気にするな、グレタ。

  今こうして寂しい、悲しいと泣いているぼくらの涙は、

  お前がこれからの道行きで幸せになってくれさえすれば、

  これは嬉し涙になるんだからな。」

 そういってなかなか手を離そうとしないユーリをたしなめて、

 わたしの手をそっと離した。

 「どうかしあわせに。何かあれば、母上のように、

  ぼくらのもとに戻ってくればいい。」

 離れた手の平がひやりとしたけれど、

 わたしはこの手がまた新しいぬくもりに

 繋がる事を知っているから。

 「まぁ!そうね、それもいいかもしれないけれど、

  出来たらわたしはユーリとヴォルフみたいに、

  いつまでもこの人と、足並みを揃えて歩いていきたいわ。」

  

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2007/11/14

 グレタの結婚式のふたり。

 新しい幸せの前に、いままでの幸せを一時手を離すのって

 ちょっと勇気要りますよね?

 

 

66.ミルクティー(男の子三男)

 

 「あれ?これ、ヴォルフのティーカップ?」

 本人不在のカップを指差して、渋谷が僕に聞いてきた。

 「あぁ、そうだよ。ほんの今さっきまでここに居て、

  お茶を飲んでいたからね。」

 僕の答えを聞きつつ、目の前のカップを手に取った渋谷は、

 不思議そうに小首をかしげた。

 「でも・・・これ、ヤギ乳か牛乳入ってるよな?

  前にミルクティー勧めたとき、すっげー嫌がってたのに。」

 「あぁ、それでか!」

 「ん?どうかしたのか、村田?」

 渋谷のその一言で合点が言った僕は、

 先ほど見た光景をそのまま渋谷に伝えることにした。

 「さっき君の婚約者がやってきて僕に聞くんだ。  

 『ヤギ乳を飲んだら背が伸びるのか?』って。」

 「うん、それで?」

 「『のびるよ。』って答えたら、無言で紅茶にヤギ乳ぶち込んで、

  飲み干したんだけど・・・」

 「けど?」

 「相当口に合わなかったんだろうね〜。  

 まるで地上で船酔いでもしたみたいに、

 すっごい顔色で、口元押さえて出ていっちゃったよ?」

 

 

 

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2007/11/16

♪ハイリ ハイリフロ ハイリフロ〜・・・おおきくなれよ〜。

(このCMをご存知の方は管理人と同世代でしょうね/ 笑)

 

 

 

67.夢見心地(甘えんぼ陛下)

 

 身長を諦めて初めて飲んだ酒は、

 甘くて苦かった。

 なんだか分からないけど、全身ほやほや熱くって、

 歩き出せばふかふかの布団の上で歩き回ってるみたいな、

 そんな妙な感覚で笑えてくる。

 「ぶわっはははははは!おもしれ〜・・・」

 「まったく!ユーリときたら・・・!」

 仏頂面でコップを差し出すヴォルフラム。

 であった頃よりほんの少しだけ大人びたと

 思っていた彼の表情は、

 相変わらずよく変わって、面白い。

 「おまえは、変わんねぇなぁ!」

 「ユーリ・・・それをおまえがいうのか?

  いい年をした大人が酒量も弁えず、

  こんなに酔っ払って・・・。

  このっ、へなちょこが!!!!」

 響くお小言は、もう手放せない大切な呪文だから。

 「あ〜・・・ねみぃ。眠くなってきたから・・・ヴォルフ!

  ひざまくら〜!!」

 ぐいと引き寄せて、普段はしないような甘え方を、

 恥ずかしげもなくやってのける。

 まったく、おまえときたら・・と、頭上から降るお小言を、

 くっつきつつある瞼の下で聞いていた。

  

 

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2007/11/18

 酔っ払い陛下。

 甘えんぼ陛下。

 

68.じゃんけん(日常ユヴォ)

 

 「うちの家族は、じゃんけんに似ています。」

 そんな書き出しから始まった、グレタの作文。

 「ユーリが地球の遊び、じゃんけんを教えてくれました。  

 じゃんけんというのは片手を3つの決まった形に出して、

 それぞれの優劣で勝敗を決めるという遊びです。

 これは遊びだけじゃなくて『勝ったやつが次のリーダー』とか

 決めるときにも使うんだぜと、ユーリはいっていました。」

 かさり、と。

 ページを繰る音だけが響く。

 「じゃんけんのグーとパーとチョキはどれが一番強いのって

 ユーリに聞きました。

 そうしたら『どれもおんなじだよ。グーもパーもチョキも、

 強いところも弱いところもある。』って言われました。

 グーはパーには弱いけど、チョキより強いし、

 パーはチョキには弱いけど、グーより強いし、

 チョキはグーには弱いけど、パーより強いからだそうです。

 それを聞いてグレタは思いました。

 ユーリとヴォルフとグレタはじゃんけんに似てるなぁって。

 だからグレタにはユーリとヴォルフとどっちが一番、

 なんて決められません。

 だってどちらも同じ様に大切だから。だから____」

 ユーリは読み終えた紙を広げたままで、ヴォルフラムに渡した。

 「早く仲直りしてね、お父様たち・・・か。」

 ヴォルフが読み上げた最後の一文を、ユーリも心でかみ締めた。

 「おれたち的にはそこまでの喧嘩じゃなかったけど、

  グレタの前でやるんじゃなかったなぁ〜・・・」

 「こんなに心配させたままで、留学先に送ってしまうことになるとはな。

  可哀想なことをした。早々に手紙でも書いておくろう。」

 「そうしよう。」

 

 

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2007/11/20

 ちょっとしめが微妙ですが・・・。

 

69.サンドイッチ(ロイヤルファミリー)

 

 サンドイッチを見て、

 パンに挟まれた具は羨ましいなと思っていたら、

 「なに?パンにまで焼いてんの?」と、

 ユーリが話しかけてきた。

 「そんなことはない!」といいつつも、

 内心はそんなことあるんだって、

 たぶん顔に出ているのだろう。

 ユーリは困ったように笑いながら、グレタを呼んだ。

 ユーリの余裕のある態度が気に喰わなくて、

 頬を膨らませて視線をそらしたけど、

 その時には愛娘の小さな体はぼくの腕の中に飛び込んで、

 温かい腕はぼくの腰に巻きついた。

 そうしてぼくの背後にはユーリがぴたりと身を寄せて、

 ぼくを挟んでグレタまでをぎゅうと強く抱きしめる。

 「はい!眞魔国スペシャルサンド!」

 悔しいけれどとてもとても嬉しかったんだ。

 

 

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2007/11/22

 傍から見たら馬鹿なことでも、

 触れ合った三人には大事な大事なコミニュケーション。

 

70.チェス(策士な三男)

 

 義母上の見立てた愛らしい服を着て、

 買い物のお供をした。

 義父上にはお好きだという酒を贈り、

 それを共に酌み交わし、話に花を咲かせた。

 義兄上・・・と呼ぶよりも、

 ショーリと呼んでいるのだが、彼たっての希望により、

 ショーリの好きな小間使いの格好をして、

 「あきはばら」というところにいって、歌って踊ってきた。

 つまり、ぼくも渋谷家の一員となれるよう、

 常々努力してきたわけだが、それ以上に、

 ユーリの家族は皆暖かくて、ぼくを受け入れてくれる。

 地球では男同士は駄目だとユーリは言い続けているけれど、

 それをまるきり感じさせないほどに。

 

 「〜♪」

 「なんだ?ヴォルフ機嫌いいなぁ。鼻歌なんか歌っちゃって。」

 地球の、自室のベットに転がって、

 気に入りの野球雑誌とやらを読んでいたユーリが、

 ジェニファー母上から手渡された本を抱えて

 入ってきたぼくに声を掛けてきた。

 「あぁ。今日ジェニファー母上がこんな本を下さって・・・。」

 「ん?これって・・・け、けっこんじょうほうし・・・?」

 「ぼくらの婚約も随分長いのだからそろそろ考えてみたらどうかと。

  母上もご心配の様子だったぞ。」

 覗き込んだまま固まったユーリを尻目に、  

 ぼくはベットに寄りかかるようにしながら雑誌をめくる。

 そしてユーリには見えないようにそっとほくそえんだ。

 『ようやく、外堀は埋まったぞ。

  さぁ・・・チェックメイトだ、ユーリ。』

 

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2007/11/24

 ここまでしっかり手を回すことが出来る力があれば、

 結婚もすぐだと思うんですけどね(笑)

 次男かダイケンジャーさまくらいの腹の黒さがあれば・・・きっと!

 
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