84.なかったことにして(ユヴォ)
夏休みの宿題に追われながら、
頭を抱えて書き込んでは消して、
また書き込んでは消して、ため息交じりで、
消しカスの山を作る渋谷。
その渋谷が、頭の削れた消しゴムを眺めて、
ポツリポツリと呟いた。
「過去が消せる消しゴムがあればいいなって、
思うときがあるよ。」
「そんな消しゴムが合ったら、君はどう使うんだい?渋谷。」
う〜っと唸って、眞魔国での色んな事件を思い返している。
消したいこと消したいことをと頭をひねる渋谷。
「でも・・それはまぁ、そんだけ悩んでも出ないんだったらさ、
終わりよければ・・・じゃないの?」
「まぁ、そうだな。うん、まぁどれも一応解決してるか。
あ!」
一つだけ思い当たった、と渋谷は呟く。
「ヴォルフのこと、弾みでひっぱたいた、
あの日を消したいな。」
その言葉に、僕は思わず目を見開いた。
「後悔、してるの?」
「うん・・・まぁ、半分だけ。」
僕から見ればその偶然は、渋谷とフォンビーレフェルト卿、
それと眞魔国にとって良い方に転んでいると思っていた。
驚きで一瞬声を失った僕に渋谷は続けた。
「あのきっかけのおかげで、今があるってよく分かってる。
でもさ、ヴォルフのこと、本当に好きになった今、
あんな形の求婚になってしまったのって
やっぱりなんだか悔しいんだ。」
だから・・・できたら半分だけ、消せたらいいのにと。
真顔の渋谷に僕は言う。
「馬鹿だなぁ〜、渋谷。君たちに必要なのはこっちだろ?」
渋谷の、使用感の薄いペンケースを漁って、僕はペンを取り出した。
「マジック?」
頭をひねった渋谷をつついて、
僕はほんの少し意地わるく笑っていった。
『君らはさ、消せないペンで未来を書けばいいんだよ。』
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2008/4/9
いまは消せるボールペンがあるらしいですが。
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