微妙な19のお題 01>> ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間
ばちーんっ!!!
あの日、小気味いい音を立てて、放ったおれの右手が君の左頬を打った。
よもやそれが、君への愛の証になろうとは。
「おい!ユーリ!!!」
「お、ヴォルフか〜。なに?なんか用事?」
息が上がっているのか、2・3度深く深呼吸した後、
おれの返事に多少気分を害したのか、柳眉を寄せておれの横に腰を下ろした。
「お前は、執務も放り出してこんなところで何をやってるんだ?」
「ん〜・・心の休息。」
血盟城の庭に座って、ただただ物思いにふけっていたのだが、
気詰まりな執務から逃げているのは事実なのであながち間違いではないだろう。
隣にいる、金髪の呆れ顔の美少年にぽつりと呟く。
「全く。兄上に執務の殆どを任せているというのに休息などとは・・・」
「はいはい。」
「はい、は1回!!」
「はいはいはいは〜〜〜〜〜〜い!!!今すぐ仕事に戻りますよ!!」
いつもの小言をかわしながら、立ち上がる。
「なんだその、いい加減な態度はっ!!いつまでたっても、王しての威厳に欠けた奴め!」
怒りで頬を赤く染めたヴォルフは噛み付くように、言い放つ。
こっちはこっちで、『いつまでたっても血の気が多いというか、厳しいというか・・』などと、
溜息交じりで脳裏に浮かべていたのだけれど。
「これだからユーリにはぼくがついててやらなくちゃいけないんだ!!」
呟くようにして吐き出された一言に、先を歩いていたおれの足が止まる。
振り向いたおれの目に飛び込んできたのは、
きょとんとおれを見据える緑の双眸に、いつもの軍服。
でも、よく見てみたら。
きちんとした彼にしては珍しく・・・ベルトが、無い。
よほど慌てていたのだろう。
でもなんで?
昨日おれの明日の予定が終日執務だと知って、
自分は一日部屋でのんびりしていようなんて言っていたはずなのに。
そんな彼が、この場にいる理由を想像してみて、おもわず、笑いが零れた。
あの日。
この右手が、君の頬を打った。
でも。
ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間。
選んでいたのが君でよかった、と。
今、そう強く感じている。
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