微妙な19のお題(05)ねぇ。その痛みはやっぱり、くるしいですか?
わかってるんだ。
ぼくも同じだったから。
お前がこの世界で、最初に信じたあの男の事。
だって、その男はとても優しくて。
とても頼もしくて。
信頼に値する人物で。
だってそいつは。
ぼくもこの世界に生まれて、初めて信じた、男なのだから。
「コンラッド・・・っっ!どうして、帰ってこないんだ!!」
誰も側にいないのだろう、部屋の中から珍しくユーリが慟哭する声を聞いた。
ぼくは声をかけることも出来ずに、ドアの前で佇む。
ただ開けようと握ったままのノブから手を離すことも出来ずに。
瞳を閉じて、ユーリの言葉に耳を傾ける。
その声に、幼い頃に吐き出したぼくの声が重なる。
『あにうえ!どうして・・・どうしてっっ!?』
「なぜ、何も言ってくれないんだ?」
『どうしてぼくに、うそをついたの?』
「信じているのに!」
『しんじていたのに!!』
「お前はおれを信用できないのか?」
『ぼくをしんじられなかったの?』
「コンラッド!!!!」
『こんらーとあにうえ!!』
こんなに、好きなのに。信じていたのに。
_______裏切られたんだ、あいつに。
ねぇ、ユーリ。
その痛みはやっぱり、くるしいですか?
叫んでも。
どんなに、どんなに、強く叫んでも。
届かない、悲しさが。
そして、この、胸を刺すような痛みは。
ねぇ?ユーリの、痛みが。
ぼくには、少なからず、分かるんだ。
ねぇ、ユーリ?
ぼくはお前に出会ってから、兄のことをこう思えるようになったんだ。
『これだけの痛みを覚えたのは、それだけ彼を愛していたということ。』
だから今では、兄を、許せる気がしていたのに。
なのに。
「あの、馬鹿・・・。お前はまた、嘘をつくのか?」
そうして。
「あの日のぼくの悲しさを、ユーリにまで背負わせる気なのか?」
そんなこと。
「・・・・ぼくは、絶対に許さない。」
そして。
「捕まえてやる。そしてユーリの前に引きずり出してやる。」
あの日、ぼくが欲しかった、たった一つの言い訳でも。
あの日、ぼくが欲しかった、たった一つの謝罪の言葉でも。
少しでもユーリの痛みを和らげる事が出来るなら、なんだっていい。
でも本当はね。
「お前が元気に戻ってきさえすれば、いいんだぞ?コンラート・・・。」
|