微妙な19のお題
07>あともう少しだけおなじ夢を見たいな
「グレタが右〜!ヴォルフは左ね!そして・・・」
「もちろんユーリが真ん中だぞ!!」
パジャマ姿で部屋に入ったおれは、両腕を完全に拘束され、
大きな大きな王様ベットの中で苦笑いで転がっている。
何でこんなことになったかというと。
夕刻近くにスタツアしてきて、びしょ濡れの体を温め、
食事を摂って、ようやく人心地ついて部屋に帰ると、
こともあろうにおそろいの、愛らしいピンクのネグリジェ姿で出迎えてくれたのは、
目に入れても痛くない可愛い可愛い愛娘と、天使のごとき婚約者様で。
ソプラノとアルトの左右からステレオで、ぎゃぁぎゃぁと、
おれ不在の時の眞魔国での話を休む間もなく話しながら、
その間二人がどれだけ淋しかったのかを切々と語っていたのだけれど。
ただでさえ疲れていたところをスタツアに巻き込まれた為か、
疲れ果てて思わずうたた寝をはじめた俺を見て、
結局「今日は三人で寝よう!」とはじまりのような状況になってしまったというわけ。
今回は結構長い期間地球に行ったきりだったので、
二人ともよほど淋しかったのか、なんだか甘え方が激しい気がする。
完全に腕にはそれぞれがコアラのごとくに齧りついており、
まったく身動きが出来ない上に、相変わらず、
「あのね、ユーリ・・」「おいこら、へなちょこ!」と、まだ騒いでいる。
おれはというと、眠たいし、抱え込まれた腕が抜けそうでとても痛い。
「あ〜・・ヴォルフとグレタ。お願いがあるんだけど。」
「なんだ?へなちょこ!」
「腕、離して欲しいんだよね〜。」
「えぇ〜!嫌だぁ〜!今日はユーリをぎゅ〜っとして眠るの!」
「あ〜・・うん。気持ちは嬉しいけど、腕が・・」
「なんだ!この軟弱者っ!大体お前はこの国の王だというのに、
国も娘も、あまつさえ婚約者であるぼくも放っておいてからに・・・」
「あ〜〜〜っ!はいはい!おれが悪かったから!!!」
今日の二人はいつも以上に頑固なようだ。
でも、どうにか譲歩して頂かないとおれの腕が本当に危ない。
そこで、思いついたのは。
「よし!腕枕にしよう!!」
「うでまくら〜?なにそれ、おとこ〜?」
分かっているだろうに、グレタが嬉しそうに聞いてくる。
あぁ・・グレタ!お前、本当にヴォルフに似てきたなぁ。
「男じゃないよ、腕枕!ここを、こうしてさ・・・」
まぁ、腕枕だって結局は痺れてしまうんだろうけど、
身じろぎすら出来ない今よりは幾分マシだろう。
両腕を伸ばし、グレタとヴォルフの頭をそれぞれの腕に抱え込むようにして、
そっと撫でてやると、あれほどぎゃぁぎゃぁ騒いでいたのがぴたりと止んだ。
「ふふっ、ユーリにぎゅーってしてもらっちゃった!」
「・・・これも、悪くないな。」
二人とも、腕枕にご満足の様子。
二つ分の頭を両腕の中に収め、ゆっくり撫でていると、
くっつきあった三人分の温もりに、おれにもまた新たな眠気が襲ってくる。
欠伸をかみ殺して両肩に乗った二人を盗み見ると、
どうやら二人も同じらしく、朱茶の瞳も新緑の瞳も細かな瞬きを繰り返している。
「夢・・みたい〜・・・」
右からむにゃむにゃと可愛い寝言が響いてきた。
「夢・・なんて、いやだ・・」
左からはうぅ〜と小さくうめく声。
・・・この二人、変に息が合ってるな。
「夢、か。」
両肩の二人の頭を、もう一度撫でながら呟く。
もしこれが夢だとして。
このまま眠って、目覚めたら、地球に戻ってたりとかしたら?
きっとおれは目覚めたことを後悔するし、凄く淋しいと思うだろう。
だって、右手には愛娘、左手には婚約者。
二つの温かな命がおれを待っていてくれる世界の夢だから。
もちろんおれはこれを現実だと知っているけれど、
もし・・・これが夢だとしたら。
それはなんて幸せな夢だろう!
だから。
だから。
夢ならば覚めないで、と。
「あともう少しだけ、グレタとヴォルフと。おなじ夢を見ていたいな。」
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