微妙な19のお題 12>きみと共有するものは、空気とことばと、それともう一つ
「可愛いな。」
「あぁ。おれの娘だもん。」
アニシナの研究室で目一杯遊んできたからだろう。
お風呂に入って、食事をして、彼女に自室に着いた途端、
可愛い娘はゆっくりと夢の世界へと旅立ってしまった。
すやすやと眠るグレタの健康的な小麦色の頬にキスをすると、
何故だかむっとした表情のヴォルフがおれを睨んでいた。
な、なんだ?
まさか、『ぼくにも口づけは?』とか言い出すんじゃないだろうな?
おれの心配をよそに、当のヴォルフはというと。
「ふん!グレタはぼくの娘だからな!!」
今度はおれに対抗するように、グレタの額に小さなキスを落とした。
純血魔族と、純血人間と、魔族と人間のハーフと。
今のこの世界では、相容れない3つの種族の代表みたいなものだけど。
今、この部屋にあるのは、それとは正反対の穏やかな空気だけ。
それは、魔王になったおれが望む、世界の縮図だ。
純血魔族も、純血人間も、魔族と人間のハーフも、皆同じ、命を持ってる。
その尊さを、感じるこの瞬間。
それを、おれは、何にも変えがたいほど、幸せだと思っている。
愛しい婚約者。
君と共有するものは。
この世界、この空気、この想い。
そして、二人を繋ぐ『可愛い娘』と。
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