微妙な19のお題 16>なかしたい。ないてほしい、ぼくだけのために
「ヴォルフラム閣下が帰還されました!!!」
連れて行った兵士は、できるだけ守ったつもりだった。
自分の身も、命も。
それが、ユーリとぼくとの唯一の約束だったから。
ようやく血盟城なんだと思った瞬間、
引きずるように動かしていた足から力が抜けて、
自然に体が地面へと吸い寄せられていった。
兵士の声が遠くに響き、ユーリのぼくを呼ぶ声を聞いた気がした。
「ま、ぶし、い・・・」
「ヴォルフ!?」
差し込んでくる光に、眠りから叩き起こされる。
ゆっくりと頭を動かして、声の主がユーリだと確認する。
重たい体はベットに沈んでいるが、ぼくの利き腕を支えるように、
ユーリの両手がぼくの手を包み込んでいる。
重なり合った掌に、淡い光が踊っていた。
「・・・お、まえ、が、治癒、を?」
「なんちゃって治癒で悪いけど。ギーゼラは兵士たちの治療で手一杯だったし。」
「い、や。すまない、手間、を、かけた。」
喉がひりついて上手く声が出ない。
礼を述べてせめてもと笑って見せたつもりだったが、
ユーリからかえってきたのはほんの少し安堵を混ぜたような苦笑いだった。
ユーリはぼくの手を包んでいた掌をゆっくり解き、片手でもう一度手を繋ぎなおし、
空いた掌で、ぼくの額にそっと触れた。
「心配、したんだぞ。」
「分かってる。」
一体どのくらい眠っていたのか分からないが、ユーリは随分長い間側にいてくれたようだ。
辺りを見回して、ぼくの額を何度も撫でるユーリを観察したら、
大好きな漆黒の瞳を彩る瞼が少し腫れぼったい。
「ゆー、り?」
腫れぼったい瞼にそっと手をさしのべると、ユーリはその手を取って、
指先にそっと口づけた。
「え・・・?」
「お前を、戦いにやらなきゃ良かった・・・。」
大好きな漆黒に瞳から、また一滴、涙が零れる。
何を馬鹿なことを言ってるんだと窘めなきゃいけないのに。
魔王の立場を、民の思いを考えろと、そう言わなきゃいけないのに。
ぼくの為に流れる、綺麗な一滴が、愛しくて嬉しくて。
もっと、と思う。
なかしたい。
ないてほしい、ぼくだけのために
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