◎ 花の祭 ◎
今日は眞魔国の花祭りの日。
大昔、「花嫁選定」の儀式が盛んであった頃、
この花祭りは「結婚式」そのものだった。
昔はそれに惑わされて、
この時期はなんとなく憂鬱な気分だったことを思い出す。
手に入れられない彼のすべてに涙した。
町の華やぎから取り残された自分。
いつかその華やぎの中心で、
誰よりも美しい笑顔で笑いたいとずっと夢に見ながら、
それを雨粒の流れる窓のガラスに隠した。
今年の花祭りはユーリと二人。
今まではごく当たり前にグレタが一緒だったが、
出会った頃は10の年を数えるほどだったグレタも、
もう年頃の美しい娘に成長していたから、
祭りに出かけるのに父親と・・・という年ではないのかもしれない。
当たり前のように繰り返していた日々が、
小さくでも確実に歩みを進めるのを嫌でも感じてしまう瞬間だ。
「時は流れる、ということか。」
思わず零れ落ちた言葉。
小さかった娘が手元から離れようとしている現在、
それでもぼくの身姿は彼女と会った頃から殆ど変わらないのに。
「結婚しようか。」
「・・・は?」
思いを馳せていたぼくの耳を、ユーリの言葉が滑り、消えた。
聞きそびれたそれをもう一度取り戻そうとユーリの顔を覗き込む。
「グレタに言われたんだ。『私には誇れる二人のお父様が居るはずなのに、
いつだってヴォルフは一歩下がってしまう。
それはユーリがきちんと決着をつけてくれないからだわ。』って。」
意味が良く分からない。
ぼくが黙って見つめると、ユーリは先を促す了承と取ったのか、
続けて話し出す。
「そしてこうも言われた。
『私の結婚式にはユーリとヴォルフに手を取ってもらって
歩きたいのに、その前に二人が結婚して無かったなら
それもかなわないでしょ?
というか、娘に先を越されそうになってるって、
切なくならない?ユーリ?』」
答えはとり損ねた最初の一言が持っている。
でも、今のヒントで大方は分かってしまった。
けど、自信は無い。
「_______ぼくらは男同士だからな。」
「・・・・意地の悪い事言うなよ。」
それは今まで彼が使っていた逃げ口上。
いつの間にかそれを言い募ることは無くなっていったけれど、
だからといってその壁が消えたわけではないことは、ぼくが一番理解していた。
だから・・・あえてそういった。
「本気なのか?」
「冗談でこんなこと言えるほど、おれ、大人じゃないし。」
「ぼくをずいぶんと追い越してよく言う・・・」
「それは見た目の話だけ。おれ、相変わらずのへなちょこ、だからね。」
「まったくだ。」
「うん、だから・・・・」
『おれにはお前が必要なんだよ。』
返事は?と問われる。
愚問だ。
その答えは5年も前に、お前に明け渡しているというのに。
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