◎ 暦上の境界線 ◎
翌年の花祭りは、ユーリの代になってから、
もっとも華やかな祭りになった。
まぁそれも仕方ないことだ。
なぜなら当代魔王の婚礼という、大きな大きな慶事だからだ。
「とはいっても・・・ぼくにとってはあまり変わり映えはしないがな。」
今日から夫婦だ、グレタの父親だといっても、それは暦の上の境界線で。
ぼくら二人の関係も、ぼくら親子の関係も、日々の生活も、
今までどおりなんら変わりは無いだろう。
先ほど呼び出され、ユーリが出て行ったドアを一瞥し、
二人そろって誂えた式服を翻し、ぼくは窓辺に向かう。
変わり映えしない毎日。
昨日に続く、今日という日。
だけどなぜか、窓辺に差し込む光は、
いつもよりずっと明るく、暖かく感じた。
気づけば。
毎年花祭りの日に見たあの悲しい雨はいつの間にか止んでいて。
涙と共に晴れ上がった空には、
見たことも無いくらい美しく力強い虹が見えた。
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