◎ 窓を厭わしく思う ◎
「ヴォルフ・・っ?!」
『さようなら』と。
彼はそう言って笑って。
窓辺を蹴った。
直前手に取ったおれの上着を肩にかけて。
窓の外に飛び出す彼を見て、おれは一瞬呆けた。
それはまるで、黒い翼を広げた天使の様にも見えたから____。
でも、彼は天使なんかじゃない。
だから空なんて飛べるはずなんか無くて。
「ヴォルフッッーーーーッ!!!!!」
彼を追いかけて、窓辺に走りよる。
黒い上着の下に、蜂蜜色の髪が流れる。
半分上を向いた見慣れた面差しが、未だ笑っているように見えて、
酷く動揺した。
なぜ彼はこんなことを?
なぜ彼は笑っているのだろう?
朝もやが当たりに広がり、新しい一日の始まりを告げる。
その朝日差す窓すら、厭わしくなる、今。
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