<少年とみつばち>
それは、磁石のSとNが引き合うように。
それは、林檎が地面に落ちるように。
それは、バナナがおやつに入るかどうかが永遠の疑問であるように。
そして、蜜蜂が花に誘われるように。
それはとても自然な事。
蜜蜂の針は生涯に一度しか使えないと聞いた事がある。
まさに命を賭した戦いだ。
そして今、おれ、渋谷有利も一世一代の戦いに挑もうとしている。
相手はおれの公認婚約者で、超絶美少年のヴォルフラム。
おれは今から彼にプロポーズを挑もうとしているのだ。
あぁ、これでフラれたらホントこれから・・・生きていけないかもしれない。
でも、そんな事を言ってうじうじもしていられない。
おれは今まで随分濁してきたのだから今決めておかないと、
この天使を傍から横取りされたって文句は言えない。
『でも、そんなの嫌だし。』
お茶の時間のため、隣に座り、優雅にお茶をすすっている婚約者を見つめて、意を決した一言を。
「ヴォルフラム、結婚しよう!」
いつものアプローチの激しさからいけば、
小躍りして喜んでくれるだろうと実はほんの少し期待していたんですが。
当のヴォルフラムは表情一つ変えないで、静かにカップをソーサーにもどした。
「・・・今日は春の第4月の1日目ではないぞ?確かお前の育った国では、
えいぷりるふーる、と言ったか・・・」
「エイプリルフール・・って、ちがーうっ!!!」
「では、大方大賢者辺りと賭けでもしてきたか?
まぁ、お前たちの浅知恵が見抜けぬぼくではないが。」
「嘘でも賭けでもねーよっ!!」
「では・・・」
違うと訴えているのに、性懲りも無くまだまだ続けようと言うのか!!この、鈍感っ!!
「大体なんで、普通の求婚だと思わないわけよ?!」
憤慨して怒鳴るおれに、ヴォルフからは意外な一言が飛び出した。
「なぜって・・・ぼくたちは、男同士だからな。」
いままで自分が彼に突きつけてきた言葉を、至極簡単に吐かれて傷ついているおれ。
頭には『なんだよそれ〜、お前はおれの婚約者だろ?』と反撃の言葉も浮かんでいたのだが、
それすら日々彼が投げかけてきた言葉だったと気付いて、思わず口を噤んだ。
「でも・・・ほんとに好きなんだよ。」
どうにか吐き出せた言葉に、ヴォルフが目を丸くした。
「本気か?ユーリ。」
「嘘や冗談でこんな事が言える様な、おれじゃありません〜。」
「・・・そうか。」
そういってほんの一瞬目を伏せて、でも次の瞬間に見せたヴォルフの天使の笑顔。
「嬉しい。」
立ち上がりゆっくりおれに向かって手を伸ばすヴォルフを受け止め、抱きしめてから、
おれはなんて幸せ者なんだとつくづく思った。
だから。
相手も蜜蜂で。
一世一代の針で俺の胸に、渾身の一撃を食らわしてるってことに気付いたのは、
まだずっと先のこと。
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