隠棲
「も〜いいかい?」
「ま〜だだよ!」
グレタとヴォルフと三人でのかくれんぼ。
鬼になった可愛いグレタの声に返事をしながら、隠れ場所に指定された数部屋の中から、
住み慣れた魔王部屋に入り、手頃な場所を探す。
「お!ここならいいだろ。」
目に入ったのはクローゼット。
扉を開けてクローゼットに飛び込みながら、グレタに向かって、
「もーいいよっ!!」
と叫ぶ事も忘れない。
暗く狭いクローゼットに腰を落ち着け、グレタの足音に耳を澄ましていると、
真横に何かの気配を感じた。
「何!?なんかいる・・っもがっっ!?」
「しーーっ!!馬鹿っ!大きな声を出したらグレタに見つかってしまうだろうが!」
「その声は・・ヴォルフ?」
どうやら同じ場所に逃げ込んでしまったらしい。
後から入ったおれが場所を変えるほうがいいのかもしれないが
『もういいよ』といった手前、動く事も出来ないし・・・。
「ごめんな。まさかいるとは思わなくて。」
「別にぼくは構わないが・・・」
クローゼットの中で息を顰めて、二人肩を並べて隠れていると最初の旅を思い出させた。
「ヴォルフ、なんだか海賊に襲われた時のこと、思い出さない?」
「あぁ、初めての船旅でもこうしてクローゼットに隠れたな。」
そういうとヴォルフが探るようにして、手を重ねてくる。
温かな感触に、あの時も随分救われたと思い出した。
「そして海賊がやってきて・・・」
「お前はぼくに剣を捨てろと。」
初めて命令なんて言葉、使ったのもあの日。
そして初めて君もそれに従った。
「でも、今になれば、いい思い出だ。」
「そうだな。」
暖かな手を握り合って思う。
「あ!そういえば・・・」
「なんだ?」
「あの時、新婚さんって言われたんだった。」
「なんだ、そのことか。」
暗闇でもちゃんとわかる。
きっとヴォルフの綺麗な瞳は細められて、白い頬は少し朱に染まってる。
その証拠にほんの少し熱を帯びてきたヴォルフの手を、
一度だけぎゅっと握っておれは耳元に呟いた。
「それが今では、ホントの新婚さんだけどね。」
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