1.
四月の黄蝶
魔王の仕事の一つ。
書類へのサインの仕事に疲れ、一休み。
おれの手伝いで、仕分け作業をしてくれていたヴォルフに声をかけ、窓辺に出た。
眼下には綺麗に咲く花壇があって、丁度グレタがギーゼラと共に花の植え替えをしているところだった。
ちょこまかと動き回るグレタの愛らしさに、骨抜きなお父様二人。
「本当に可愛いな、グレタは。」
初めて出会った頃より随分大きくなったグレタを見て、ヴォルフがぽつりとそう言った。
「そりゃ、おれたちの自慢の娘だから。」
「本当に・・・大きくなった。まるで、幼虫が蛹に、そして蝶へと変わっていくように・・・」
言い切らずに消えた言葉達を、あえて拾わずにおれは笑う。
「グレタがチョウチョだったら何色の羽だろうな?ピンク?黄色?」
「ぼくは・・何色でも、構わない・・」
「ヴォルフ。」
ヴォルフが何を考えているのか、分かっていたけど。
口にするのは怖くて。
それに気付いたのか、ヴォルフは少し笑って続けた。
「グレタが自分の羽で飛び出す世界がこの花壇のように、花の咲き乱れる美しい場所ならいいな。」
「じゃ!それはおれたちの役目だな!」
まだ自分たちが幼く未熟なおれたち。
でも、その背に預けられたものは大きく重い。
だけど、グレタが、そしてあの子に連なるたくさんの子供たちが笑顔でいられる世界を・・・。
「よし!仕事頑張るぞ〜っ!!」
「お前はへなちょこだしな!ぼくも手伝うから今日こそは夕餉に間に合わせてくれ。」
「・・・了解。」
与えられた運命の重さとやりがいを噛み締めた午後。
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