10.火の騎士
夢を見た。
そこは戦場だった。
青いはずの空が、赤く、黒く、重く燃えている。
燻る香りに、鉄の匂いが混じる。
おれはその真ん中に立ち、呆然と世界を見ている。
夢を見た。
そこは戦場だった。
緑の草の絨毯は、赤く、黒く、隙間なく死体で埋め尽くされている。
立ち上る煙には、耐えがたい死肉の香り。
ぼくはその歪む世界の真ん中に立ちすくむ、彼の姿を見た。
ふと、視線を移すと、足元は火の海で。
炎に包まれた彼がおれを見つめて『ユーリ』とおれの名を呼ぶのを見た。
ふと、彼の視線がぼくを捕らえて。
今にも泣き出しそうな瞳で彼が『ヴォルフ』とぼくの名を呼ぶのを聞いた。
驚いて目を覚ます。
胸の鼓動が早鐘の様に鳴っている。
横に瞳を移せば、静かに眠る『彼』がいる。
その姿に、ホッとした。
身を寄せて温もりを感じながら思わず呟いた。
「どこにもいくな、おまえだけは。」
ふいにぬくもりを感じて、瞳を開ければ、
目の前には見慣れた青い、ユーリの夜着が目に入る。
僕は今、彼に抱きしめられているのだろう。
抱き込まれ、押し付ける形になった額に、
常の彼より早い鼓動が打つのを感じた。
「生きてる・・・ユーリ。」
その鼓動は命の証。
恐ろしい夢を忘れる子守唄。
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