旅先で

 

「あのっ!私と踊ってくださいませんこと?」

久しぶりにシマロン方面に旅に出ることになり、随分慣れた豪華客船の夜会で、

おれ、渋谷ユーリはしっかり逆ナンされていた。

相手は小柄だがスタイルのいい、可愛らしいお嬢さん。

相当勇気を出して声を掛けてくれたらしく、丸いつぶらな瞳が潤み、

頬は僅かに上気していて、殊のほか愛らしい。

以前の俺なら、嬉しさや物珍しさも手伝って1も2もなくお手を拝借、となっていたろうが。

でも、今はもう。

「すまない、裏切れない相手がいるんでね。」

眞魔国夜の帝王の異名を持つコンラートの・・・まぁ本人は否定するけどね。

おれは妙に確信している、彼直伝のお断りの文句も、昔は聞くだけで背筋が寒くなったと言うのに、

今ではほら!

こんなにあっさり使ってる。

理由は簡単。

この台詞が「真実」だからなんだけど。

「ユーリ!」

グラスを2つ握り締めて帰って来た、愛しいヴォルフラム。

お嬢さんとおれとを見比べながら、微妙な表情で突っ立っている彼の手からグラスを取り上げると、

聡い瞳をしたお嬢さんに目配せを一つ。

それから愛しい人に、こう呟いた。

「ヴォルフ、踊ろう?」

 

 

 

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2005/10/14

ちょっとだけ、大人になった二人。

そしてちょっとだけ、壁を乗り越えたふたり。

 

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