旅先で
「あのっ!私と踊ってくださいませんこと?」
久しぶりにシマロン方面に旅に出ることになり、随分慣れた豪華客船の夜会で、
おれ、渋谷ユーリはしっかり逆ナンされていた。
相手は小柄だがスタイルのいい、可愛らしいお嬢さん。
相当勇気を出して声を掛けてくれたらしく、丸いつぶらな瞳が潤み、
頬は僅かに上気していて、殊のほか愛らしい。
以前の俺なら、嬉しさや物珍しさも手伝って1も2もなくお手を拝借、となっていたろうが。
でも、今はもう。
「すまない、裏切れない相手がいるんでね。」
眞魔国夜の帝王の異名を持つコンラートの・・・まぁ本人は否定するけどね。
おれは妙に確信している、彼直伝のお断りの文句も、昔は聞くだけで背筋が寒くなったと言うのに、
今ではほら!
こんなにあっさり使ってる。
理由は簡単。
この台詞が「真実」だからなんだけど。
「ユーリ!」
グラスを2つ握り締めて帰って来た、愛しいヴォルフラム。
お嬢さんとおれとを見比べながら、微妙な表情で突っ立っている彼の手からグラスを取り上げると、
聡い瞳をしたお嬢さんに目配せを一つ。
それから愛しい人に、こう呟いた。
「ヴォルフ、踊ろう?」
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