あのひとにわたしのところへ来てと言って
「ヴォルフラムがユーリを呼んでたよ!」
愛娘にそう聞かされたのは確か朝の謁見を終えた頃だったと思う。
「どこにこいって言うのまでは聞かなかったんだな?」
「うん、ヴォルフにユーリを呼んできてって頼まれただけ。」
確かに朝食の席にはいたヴォルフラムが謁見のときには見当たらなくなっていたのだけど、
呼んでいた、という割にはどこにいるのか示してこないのが不思議だ。
仕方なく娘を連れて、まずは一番可能性の高いところに向かう。
「グウェン、ヴォルフ知らない?」
「しらなぁ〜い?」
娘と二人、グウェンの部屋に押しかける。
徹夜で仕事中なのか、目の下の隈を作りながら書類に向かっていたグウェンが、
不機嫌そうな声音で答えてくれた。
「・・・あれの姿は見なかったが?なんだ、何か用なのか?」
「用というか・・・ヴォルフが自分のところに来いって言ってきたんだけど、
どこにもいないから探してるんだ。」
「・・・あれが拗ねると厄介だ。早めに見つけてくれ。」
「分かった。なるべく早くがんばる。」
部屋からでていこうとするおれに、内心は仕事を進めてくれと思っているのだろうけど、
それを小さな非難のため息ひとつに変えてくれるグウェンダルって、
心底やさしいというか、なんというか。
それから、おれとグレタはヴォルフを探して血盟城のあちこちを探し回った。
図書館、宝物庫、ヴォルフの私室、厨房、厩舎、裏庭、ホール。
城の最奥に、塔の上、地下室までありとあらゆるところを渡り歩き、
人類にぶち当たるたびに『ねぇ、ヴォルフ知らない?』を繰り返すばかり。
「なかなか見つからないね・・ヴォルフ。」
「じゃぁ次は一番可能性の薄いとこだけど、行ってみようかな。」
とんとんと扉を叩く。
「はい・・あぁ、陛下。どうかされましたか?」
「陛下って呼ぶなよ、名付け親。どうかした・・というか、聞きたいことがあるんだけど。」
珍しく執務室での仕事中だったコンラッドにヴォルフに行方を聞いてみた。
「さぁ・・あの子がこの部屋に来るのは稀ですから。」
「だよな〜、それは分かってたんだけど。」
おれの言葉に苦笑しながら、コンラッドはふむと小首をかしげた。
「確かに今では、この部屋にあまり寄って来ないヴォルフですが、
あいつには分かりやすい癖が一杯ありますからねぇ。
たとえば大好きな人の気を引きたいときなんかは、
その人の一番身近な場所に隠れていて、探しに来るのを待っていたりとか・・・」
その言葉にハッとする。
調べていない場所、もう一つあるじゃないか。
「・・・おとうさまったら、コンラッドに負けてるぅ〜!」
足元では不機嫌に唇を尖らせたグレタが居て、
コンラッドは意味ありげにニコニコしている。
そんな名付け親の姿をみて、ほんの少し悔しいと思うけど、
でもおれはおれのペースでヴォルフに近づくんだと思い直して、笑って見せた。
「ヒントをありがと!今から行ってみるよ!」
クローゼットの中に隠れたおれの宝物。
扉を開けたらきっと『遅い!』と頬を膨らませ、唇を尖らせるだろう。
そうしたらその唇にくちづけてこう言ってやろう。
『仕方ないだろ、お前の居場所はいつでもおれの隣なんだから、
こんなクローゼットの中なんて思いつきもしなかったんだよ。』って。
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