わたしの恋人を誘惑したひとは
「おいっ!そこになおれ!!」
完全にキレた状態のヴォルフが、コンラート、村田、ギュンター、
それにあまつさえも敬愛する長兄、グウェンダルまでもを、仲良く一列に床に正座させ、
ぎらぎらした目で剣を振りかざしながら叫んでいる。
「ヴォルフ、皆を集めて・・・一体どうしたんだい?」
優しい口調で問う次男に、鈍く光る切っ先を向けてヴォルフは鼻息荒く話し始めた。
「・・・・最近、ユーリの様子がおかしいっ!」
「おかしいって一口に言われてもねぇ?一体どんな感じなのさ?」
のんびりと村田も疑問をかえす。
「・・・ぼんやりとして、溜息をつく事が多くなったし。いつもなら玉遊びに興じ、城下に出て、
外に出たがるユーリなのに、暇さえあれば部屋に帰ってなにやらごそごそと・・・。」
「成る程。では、おそらくアレのせいだな・・・」
グウェンダルの言葉に合点が言ったとばかりに頷くギュンターと、
半ば呆れて立ち上がるグウェンダルにヴォルフラムは更に詰め寄った。
「兄上!アレとはなんです?何かご存知なのですか??」
グウェンダルはしばし考える素振りを見せたが、隣の王佐で事は足りるだろうと、
視線でギュンターに聞かせてやれとばかりに合図をした。
「陛下のアレのことでしたら・・・」
「なにっ!?ギュンターまで知っているのか?!」
「知っているも何も魔王の部屋の一番奥の間を調べてみればわかる事で・・・」
「おのれっ、あの尻軽め!浮気相手をぼくらの寝所に引き込むとは・・・!許すまじっ!」
握り締めた剣を鞘にも収めずに魔王部屋へと走り去ってしまった末の弟の背中を眺めながら、
苦笑交じりに次兄が呟く。
「よもや自分の恋人を誘惑した人が、陛下がコッソリと毎月画家に頼んで描いてもらっている
ヴォルフの肖像画の、最新版の絵だとは思いもしないんだろうけどね。」
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