† 祈り †

 

「眞王廟へ入る許可を頂きたい。」

「・・・毎日のお勤めご苦労様でございます、ヴォルフラム閣下。」

まだ年端のいかない若い巫女が傅くのを見下ろしながら、

ヴォルフラムは答える。

「お前たちも毎日ご苦労。・・・ときにウルリーケは?」

「言賜巫女さまは、朝のお勤めの後、朝餉のお時間にございます。」

「そうか・・・。ありがとう。」

凛と伸ばした美しい立ち姿を崩さぬままで、ヴォルフラムは託宣の間へと急ぐ。

『ウルリーケの戻る前に・・・』

 

託宣の間の中は、恐ろしいほど静まり返っている。

薄い水の幕が静かに落ちるその場所は、遥か昔、この世界を統べた眞王様の居わす場所。

ヴォルフラムは通い慣れたその場所にそっと跪いた。

両の手の指を固く組んで、祈りを込めてそっと額に押し当てる。

 

我らが敬愛する眞王陛下よ。

どうか、彼をお守りください。

今はまだ、異国の地にいる彼をお守りください。

彼こそ、貴方に選ばれた、この地を統べる我らが新王。

そしてぼくの愛すべき婚約者。

この世でたった一人、ぼくの全てを捧げる相手です。

どうか・・・どうか・・・。

・・・彼のための犠牲なら、この身も命も惜しくはありません。

お願いです、どうかユーリを・・・

 

静まり返った室内に、遠くで響く足音が微かに届いた。

ヴォルフラムは弾かれたように立ち上がると、そのまま扉を目指す。

ヴォルフラムの手が扉へ掛かるより一瞬早く、ドアが開いた。

「あら?ヴォルフラム閣下、おはようございます。」

「ウルリーケか・・・。朝早くから邪魔をした。」

銀の髪を長く垂らした言賜巫女の横を、表情を消してすり抜けた。

規則的な足音を響かせながら、ヴォルフラムは血盟城へ急ぐ。

 

自分の手の届かないところにいる彼に、できることは二つだけ。

一つは、彼の無事を祈ること。

そしてもう一つは。

 

「早く帰って来い、このへなちょこ。

 ぼくも、この世界も、お前を待っているというのに・・・。」

 

 

 2004/9/23

はいはい!!短編できました〜★

短くすっきりまとめるの苦手なんで、今回は頑張りましたよ(笑)

これは、「ユーリが眞魔国不在の時のヴォルフの日課」ですね。

はじめの巫女さんが「毎日〜・・」と言ってるのは、ヴォルフが毎朝通ってるから。

ん???低血圧のヴォルフに早起きは無理って???

それはユーリが側にいないと落ち着いて寝られないから早起き・・・なんですよ〜、多分。