魔法のお薬☆

 

 

最近ユーリの様子がおかしい。

何がって?

それは、ぼくはユーリの婚約者だからな。

些細な変化でも、気付いて当然なんだ。

 

第27代魔王陛下の婚約者である、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムはこう語る。

 

先週またまたスタツアって・・・と良くユーリが説明するが、

ようは彼のもう一つの世界である地球に戻ってしまったユーリだったが、

何故か珍しく数日後にはまた眞魔国に戻ってきた。

おかしい。

この時点で、まずおかしい。

今までは、待てど暮らせどなかなかやって来なかったというのに、

今回ばかりは何故こんなに早いのか・・・。

でも、まぁこの件は、またユーリと一緒にいられるという特典つきなので、

あえて目をつぶっておくとしよう。

 

でも、許せないのはその次だ。

『最近アニシナの研究室に入り浸っていること』!!

しかもぼくに何かと仕事を作っては、その隙にアニシナの元へといっている様なのだ。

非常に不愉快だ。

婚約者であるぼくを遠ざけて、一体何をしているんだ!!

まさか、前にシルクラウドでのアニシナからの叱咤を『求婚』と勘違いしているのか?

でもそれにしても、相手が悪すぎる。

アニシナは魔力も強く、博学で、学ぶところも多いのだが、すこぶる危険だ。

というか、生半可な人が近づけは確実に命はない。

現にあの誇り高きぼくの兄、グウェンダルの力をもってしても彼女の暴走はなかなか止まらない。

・・・というか、兄上が身を持って止めてくださっているからこそ、

あの程度の被害で済んでいるのだか。

魔王モードにならなければろくな魔術も使いこなせないユーリが、

彼女に近づくのは命知らずだとぼくは断言する。

というか、なぜ婚約者のぼくを放って置いてアニシナの研究室なんかに・・・。

全く、あのへなちょこめ!!

案の定ユーリは今日もぼくに、ユーリの命令でどこぞへ行方をくらましたギュンターへの、

くだらない伝達の仕事などを任せて行ったから、ギュンターの執務室でギュン汁の始末のために

床掃除に勤しんでいたダカスコスを締め上げて居場所を吐かせてやった。

なので、ユーリからの仕事は終了。

ふん!ユーリの浅知恵などぼくの手に掛かればこんなものだ。

・・・と言うわけで、無事仕事を終えて自由の身になったぼくは今、

アニシナの研究室の前にいる。

ドアにべったりと耳をつけて、中の話し声に耳を傾ける。

よし!聞こえるぞ。

「では、陛下使用法はご理解いただけましたか?」

「うん、わかった。飲ませる時間と飲みすぎにだけは注意するよ。」

時間?飲みすぎ??酒か?いや、ユーリは酒は飲まないからな。

ならばなんだ???ま、まさか、毒!?

時間が気になると言うことは、よもや暗殺とか考えてるのか?

でも一体誰を狙って・・・

「えぇ、効きはじめるのには時間が掛かりますから。その後の効果は立証済みですね。」

「有難う、アニシナさん。後はこれをヴォルフに・・・」

なにぃ!?なにやら妖しげな毒をぼくに使う気なのか??

一体、どうしてぼくを狙う??

はっ!?・・・まさか本当にアニシナと結婚する為に、ぼくを??

でも、ユーリに限って、そんな・・・。

でも・・・。

ショックでドアから体を離そうとした瞬間、ドアが内側に引き込まれ、

そのまま中から出てきた人物とぶつかってしまう。

「いてっ!!・・・って、ヴォルフ!??なんで、ここにいるの!?」

「ユーリ・・・」

弁解する気も、問いただす気も、薄れてしまった。

信じたくはないが、ユーリは、ぼくを・・・。

「あら、盗み聞きですか。これだから最近の男どもは・・・」

赤い悪魔が、きりっと引き締まった眉を跳ね上げた。

「ぼくは、べつに・・・」

「え?なに?盗み聞き??じゃぁ、全部ばれちゃったの?」

ぶつかって赤くなった額を擦りながら暢気にユーリが言っている。

お前にとって、ぼくに毒を盛ることはそんなに簡単なことなのか?!

ぼくはそう簡単になんて、死んでやらないからな!!

というか、万が一死んだってユーリの婚約者はこのぼく一人だ!!!!

むっとしてせめて何か言い返してやろうと口を開きかけた時、

ユーリが困ったように笑ってポケットから小さな瓶を取り出した。

「しょ−がないか!はい、これ。お前にやるよ。」

「なんだこれ?もしかしてこれがさっき言っていた毒!?」

手の中の押し付けられた瓶の中には、白い粒がゴロゴロしていた。

なんだ、バレたから薬を盛るのは止めて直に渡す作戦か?

でもぼくは絶対飲まないぞ!!死んでも絶対飲まないっ!!

「毒!?ち、違うって。なんか勘違いしてるんじゃない?ヴォルフ。」

急に慌てたように弁解を始めたユーリをねめつけながら、

手の中で瓶を転がしていると、溜息を一つ吐いてユーリはこう言った。

「ヴォルフ、どうしても船旅が苦手だろ。毎回毎回船に乗るたびに具合を悪くしてんの、

 ずっと気になってたんだ。だからスタツアした時に薬局に行って酔い止め買ったんだけど。

でも、良く考えたらそれって地球の薬だし、魔族のお前にちゃんと効くか分からなかったから

アニシナさんに頼んで、魔族用に改良してもらってたんだ。」

ホントは隠しといて驚かせるつもりだったんだけどなぁ〜、といつものように笑うユーリに、

今までの自分の行動が恥ずかしくて、申し訳なくて、たまらない気持ちになった。

前にコンラートが言ってた。

『もっと陛下を信じて差し上げなければ』と。

今になってその言葉が、いやというほど身に染みた。

他国のこと、敵国のこと、小さな子供や民たちに心を砕くユーリの優しさを、

ぼく自身が一番良く知っているというのに。

だけど、何時の間にか集まった野次馬たちの視線が痛くて、なかなかお礼の言葉が出ない。

どうにかお礼と詫びを口にしようと思ったのだけど、

やっと口から飛び出したのは、やっぱりいつもの悪態で。

「ふんっ!こんな妖しげなものがなくても、ぼくは船酔いくらいなんともないっ!!」

「なんだよ!いっつもヘロヘロで、リバースしまくりのくせにっ!」

「うるさいっ!!この、へなちょこっ!!」

「へなちょこゆーな!!つーか、この場合、俺のへなちょこはかんけーないだろっ!!」

結局、お互い明後日の方向を向いて、いつもの口喧嘩でその場は収めてしまった。

でも・・・ぼくは決意した。

今晩は、とっておきの寝間着に香を振って、ユーリの部屋に行こう。

二人っきりになったら、きっと、この薬のお礼を言おう。

そして今日あった出来事を、思ったことを、包み隠さず話すんだ。

ユーリはきっと笑うだろうし、からかわれるかもしれないけれど。

そして、次に船に乗るような事があったなら、アニシナ作で不安ではあるが、

迷わず試してみることにしよう。

なんといっても、これはユーリがぼくのために作らせた特別の薬だからな!!!

 

 

 

 

ちなみにこれは後日聞いた話だが。

ぼくがユーリからの伝達を伝えに行った際、ギュンターに発信機をつけられていたらしい。

しかもその発信機でぼくと同じく部屋での会話を盗み聞きしていたギュンターは、

ユーリがぼくの為に作ってもらっていた薬を『媚薬』の類と間違えたらしく、

「とうとう、陛下が・・・!!私の、清らかな、陛下がぁ〜〜つ!!」と叫んで、

一週間ほど寝込んだらしい。

・・・・まったく、いつの間にユーリはお前のものになったと言うんだ!!!

今度あいつにはきつく言っておかなければならないな!!

   

 

 2004/10/24

短編第二弾〜★

これは「ちょっとズレたヴォルフ」を書きたくて書き始めていたら、

この間のマニメ放送でアニシナさんがユーリを引っ叩くという世にも悲しい事件が起こったため、

お話にも変動が起こりました・・・。

あそこは胸倉掴んで叱咤する、位にしていて欲しかった・・・。

あれじゃ後のヴォルフの「求婚返し」のパワーが薄れちゃうじゃないのよっっ!!

N○Kさん・・・ヴォルフ、お嫌いですかぁ〜???(涙)