________ 瞳 ______________
「ヴォルフラム閣下・・・お食事の時間ですよ。」
「あぁ、いつもすまない。ギーゼラ。」
光射す窓辺に、椅子を置いて座るハニーブロンドの少年が口を開いた。
「今日はとてもいい天気ですよ?」
「あぁ、感じる。手も、頬も、とても温かい。」
ギーゼラは食事を載せたプレートを近くのテーブルに載せると、
ヴォルフラムの手をとった。
「食事の前に、包帯を取り替えますか?」
「そうだな、頼む。」
一度彼の手を膝に戻し、そっと両の瞳を覆うように掛けられた包帯を解いてゆく。
白磁の瞼の下には煌めくようなエメラルドの瞳が、かつてはそこに在った。
けれど今はもう無い。
解かれた包帯の下からは、両の瞼の上を一文字に紅く引き攣れた傷が露わになる。
ギーゼラは一瞬泣き出しそうな顔をした。
けれどそれは、ヴォルフラムに伝わることは無い。
「ユーリは?」
「今は・・・まだ戻られません。」
「今は・・か?もう二度と、だろう?」
それは、かつてはあった瞳が最期に映した光景。
あれは最後の戦いだった。
燃える様な赤と、飲み込まれそうな黒と、火花の金の、色彩の中に彼ユーリが居た。
何かを叫んだように見えたが、爆音で何も聞こえなかった。
彼が振りかざしたのは魔剣。
飛び出した無数の光のうちの一つが自分に向かってくるのを、見た。
それからのことを、ぼくは何も知らない。
でも。
なぜか、これだけは分かった。
____________彼は、もう戻らない。
「ギーゼラ・・・」
「はい、ヴォルフラム閣下。」
「お前はぼくを、不幸だと思うか?」
「え?」
「皆がそう噂していることくらい知っている。」
「それは・・・。」
諮詢するギーゼラに、ヴォルフラムは笑った。
「閣下?」
「ぼくは本当にユーリが好きだった。」
「えぇ、知っています。」
ぼくは、ユーリが好きだった。
初めて会った時、怒りや憤慨に紛れて、随分心乱されたけれど。
でも、ユーリの決意に満ちた瞳を見た時。
優しさと強さとを宿した瞳を見た時。
ぼくは、ぼくの瞳にユーリを刻んだ。
ユーリと過ごした日々を、瞬きの数だけ。
だから例えもう二度と会えなくなっても・・・。
「ギーゼラ、ぼくは・・・」
手を伸ばして、幼なじみの手をとった。
「ぼくは幸せだ。」
「閣下・・・。」
「初めからこれは、瞬き一つで生まれた恋だ。
もう一度目を開けてしまったら、消えてしまうかもしれない。だから・・」
ぽたりと温かなものが、ヴォルフラムの手の甲に落ちた。
「この傷は、大切な、ユーリからの最後の贈り物だ。」
消えない映像が、永遠の恋の証。
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2004/12/10
「瞬き一つで生まれた恋だ・・」のフレーズを思いついたときに、
本当はユーリの置いて行かれて、壊れてしまったヴォルフが、
ユーリへの思いが消えないように、瞳を閉ざして過ごしてるお話を書こうとしたんですけどね。
ギーゼラに思い出をずっと語ってて、ギーゼラが泣いているという。それが何故かこんな方向に。
どんな状況下でも、きっとヴォルフはユーリを忘れたりしないんでしょうね。
例えばこんな風に。この〜・・・一途ちゃんめ!!
ちなみにユーリは多分、死んではいないと思います。多分ね。