「ツェリさま!?」
「母上?!!」
その時ヴォルフラムは複雑な表情で、貴賓席を見上げていた。
++++戸惑い++++++
ツェリさまが優雅に手を振る横には見慣れない男性が一人。
きっとそれは、ツェリさまの新しい恋人なのだろう。
母親とその新しい恋人が睦まじく立っている姿。
それをヴォルフラムは酷く複雑な表情で見上げていた。
彼にしてみれば、それは幼い頃から、ある種見慣れた光景だったのかもしれない。
でもヴォルフを横で見ていたおれには、
彼の瞳がほんの一瞬悲しげに揺らめいた気がして堪らなくなった。
「ヴォルフラム…」
名前を呼ぶと、ヴォルフラムはふと現実に引き戻されたように一瞬瞳を見開いて、
それからおれをじっと見つめてきた。
「ユーリ?」
「ほ、ほら!ツェリさまのおかげで助かったんだし…」
彼の気持ちをどうにか変えたくて、必死に肯定的な会話で繋ぐ。
無意識に掌は彼を宥めようと、彼の背中を撫でていた。
そんなおれをマジマジと見つめていたヴォルフラムが何かに気付いて苦笑する。
「・・・ぼくは、平気だ。」
「えぇ?何だよ急に。」
お前の悲しそうな顔は見たくなかったんです、なんて素直に言えるわけも無く、
誤魔化そうとするおれはいつに無く挙動不審だったろうと思う。
でも、どうしようもなくて。
そんな俺を見ながら、微笑すら浮かべるヴォルフラムは、
もうあの淋しそうな瞳ではなかったけれど、
今度は別の理由でまともに見ていられなかった。
「ありがとう・・・」
「何?」
大切な一言を聞こえないふりをして誤魔化す。
「いや、なんでもない。」
もう一度、ヴォルフラムは眩しげに瞳を細めて貴賓席を見上げた。
試合はまだ続いていた。
そしてこれは、これから先に起こる、『最悪の再会』までの、
ほんの数十秒前の出来事。
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