幻の光
眞魔国は初夏の香り。
夏の風物詩といえば、花火にスイカに、後は蛍?と言ったおれに、
コンラッドが、こっちでも蛍に似たようなものが見れると教えてくれた。
それを聞いて、グレタとヴォルフとコンラッドと仲良く四人で出掛けたおれたちだったが、
ついた場所ではどう見見回しても、数匹が見えたり隠れたり。
「少ないな〜・・・。」
「今年は少し涼しいですから・・・。もしかしたら時期が遅れているのかも。」
数匹だって確かに綺麗なんだが、なんだか迫力にかけると言うか。
その時、昔親父に聞いた蛍の呼び寄せ方を思い出した。
「そうだ!ヴォルフ、魔術で炎を出してくれよ。」
「炎を?お前は森を燃やす気か?!」
「ちげーよっ!指先に灯る位の小さな火でいいんだよ。
それを見た虫達が仲間と間違えて集まってくる筈だから。」
成る程と呟くコンラッドと渋るヴォルフラムの間では愛娘が『見たい見たい!』と跳ね回る。
「頼むよ、ヴォルフ。このとおり!」
眼前でぱちんっと手を合わせたおれに、仕方ないなと言いつつもどこか嬉しそうに
ヴォルフは盟約を唱える。
白い指先に留まる赤。
それを緩やかに宙に円を書くように踊らせる。
「うわ〜!綺麗!!」
しなやかな動きで暗闇に燈る炎の美しさ。
思わず零れたグレタの感想に内心同意しながら、見守っていると…。
「ほら…凄い…」
感嘆の溜息と共に吐き出したコンラッドの言葉。
ヴォルフは蛍達を邪魔しないように炎を消したらしく辺りにはまた漆黒の舞台が広がる。
しん…と、響く静寂。
ヴォルフの炎に呼ばれた沢山の蛍たちが川面からそして周りの草影や樹木から、
無数に光りを放ち、緩やかに舞始める。
光っては消え、また光り。
碧いと表現するのが一番近いだろうか。
放たれる光はヴォルフの瞳の色に柔らかな白い光を混ぜたような、
そんな綺麗な色をしていた。
「もっと近くで見たいよ〜!」
「捕まえられるかな?」
グレタとコンラッドの楽しそうな声。
おれは空を埋める幻想的な風景を作る一端を担ってくれたヴォルフに、
お礼をと思ってあたりを見回した。
「ヴォルフ…あっ!」
薄暗がりにぼやけて見えるヴォルフの輪郭。
そこに向かって、碧い光がゆっくりと一筋登っていく。
腰の高さから頭へと緩やかに登った光が、ふと消えて。
「ヴォルフ…」
「なんだ?」
ヴォルフが声をあげたと同時に、ヴォルフのこめかみの少し上が淡い光を放った。
映し出された金の髪と澄んだ緑の瞳。
『綺麗』
素直に、そう思った。
だが突然の光に驚いたのか、蛍を咄嗟に振り払おうとしたヴォルフの手を止める。
「待って、ヴォルフ。」
「なんだ?!ユーリ!!」
「おれが取ってあげるから。」
ほわ・・ほわ・・と規則的に光る蛍を潰さないように、
そっと金糸に指を挿し入れ、掌に握りこむ。
握った拳を二人で覗き込みながら、ゆっくり指を解していくと、
中から光を放ちながら蛍がまた舞い飛んだ。
おれとヴォルフの間を飛び立ちながら、辺りを照らす淡い光。
その光に照らされたヴォルフの顔はとても綺麗な笑顔で、
光が消えてしまう瞬間まで、おれは見つめ続けていた。
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