その日のぼくら
「ほらヴォルフ!も〜朝だぞ!!」
おれは目覚めてから朝のロードワークまで終えて帰って来たにもかかわらず、相変らずまだヴォルフが寝ている。
「今日はグレタが帰ってくる日だから一緒に港まで迎えに行くんだろ?」
ゆっさゆっさと眠っているヴォルフを揺すると、彼はうんうん唸りながらようやく上半身を起こした。
・・・ただし、まだ目は閉じたままで。
「ほら早く着替えるぞ!!」
目をつぶったままで、ふらふらとクローゼットに向かおうとするヴォルフに思わず苦笑。
おれも汗で汚れた服を着替えたかったから、危なっかしい足取りの彼の手を取ってクローゼットに向かう。
ちょっと・・・ヴォルフラムには甘いおれ。
「ほら、ちょっとまってろよ。今服、とってやるから。」
「うん・・・」
クローゼットに手を突っ込んで、見慣れた濃紺の軍服を取り出すと彼に手渡す。
するとヴォルフラムはそれはそれは器用に、目をつぶったままで着替えていく。
ボタンも飾りも、目も開けずによくもまぁあんなにきちんと着られるものだと感心する心の端っこで、
ほんの少し沸いた意地悪心・・・いや、良く言えば好奇心もあって、おれは一つ実験してみる事にした。
「ヴォルフ、はい。ベルトも・・。」
「うん・・・」
けれど彼の白磁の手に渡したのは、『おれのベルト』
使い慣れたものは目をつぶっても着替えられるのだから、
普段使っていないおれのベルトだったらどうなるんだろうという、単純な好奇心だ。
おれはヴォルフラムの観察を開始した。
ベルトを手にしたヴォルフは当たり前のように羽織った上着に手をかけて、
器用にするすると通し、ベルト穴に金具をかけ・・・ようとしたところでおれは思わず声を上げた
「げっ!?マジで??」
そのときおれの目に飛び込んできたのは、5つあるベルト穴の一番内側の、
つまり一番締まる穴の更に横の空き部分、そう、穴の無いところに金具を刺そうとしているヴォルフラムの姿。
「お、おまっ・・っ!腰、細っっ!!」
「んぁ?」
間抜けな返事と半眼すらどうでも良くなるほど、本気でおれは驚いていた。
おれはベルト穴の内側から二つ目を使ってるから、ヴォルフはおれよりもずっと腰が細いというわけで・・。
おれの驚きの声で僅かに開いた目でヴォルフラムはベルトを確認して寝ぼけ声で訴える。
「ゆーり・・べりゅと・・ちがうじょ・・・」
「あ、あぁ、ごめん。お前のはおれが通してやるよ。」
「うん・・・」
さりげなくヴォルフの腰に触れてその細さにまた驚く。
なんだ・・なんだこいつの細腰は!!!
こんな女の子みたいに細い腰で・・・そんなん・・・反則だ!!
前のベルトを外し、背中側から腕をまわしてベルトをつけようとするおれを、
疑いもせずに身を任せるヴォルフに・・・・何故かごくっと、生唾を飲んでしまった。
理由は考えない。
考えたら、絶対に何かが変わってしまう気がするから。
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