「ヴォルフ、くりすますって知ってる?」
そう言って足元から見上げてくる愛娘の朱茶色の瞳をヴォルフは思わず見つめた。
「くりすます・・?」
確か以前に『地球の冬の行事』とやらにそんなものがあったなと脳内ではそんなことを考えながら。
『ユーリを驚かせてあげたいの。』
そう呟く可愛い愛娘に半分は絆されて、そして半分は愛しいユーリのために、
ヴォルフはグレタを連れて出かけることにした。
視察を兼ねての日帰り旅行に出かけたユーリが戻るまでの間に、
クリスマスを集めよう!とグレタが大賢者に描いて貰ったと言う絵を元に必要なものを集めていく。
クリスマスの主な飾りである「くりすますつりー」。
ふたり森に出かけてぼくの背丈より少し大きな「モミの木」とやらを切り出して城に運ぶ。
それから「おーなめんと」とやらを集める為に街に出た。
まずは「くりすますぶーつ」に「くっきーまん」、それから「ろうそく」に「りーす」!
それから飾りは「赤と緑」のリボンなんかもいいのだと聞いてそれも買い足してくる。
「いっぱいかざってユーリをびっくりさせようね!」
目の前で笑う娘の笑顔にぼくも幸せな気持ちになった。
モミの木を部屋の真ん中に立てて、集めてきた飾りを付けていく。
ぼくはぶーつもくっきーまんも紐を通してグレタに渡す。
グレタはちいさい手を伸ばして枝に掛け、「もう1個!」と掛け戻ってくる。
1個、1個とグレタに手渡し、下の方から丁寧に1個ずつ「おーなめんと」をつけていくと、
てっぺんの近くになってからグレタが急に「あ!」と声を上げた。
「どうしたグレタ!?」
モミの木がひっかかりでもしたのかと慌てて駆け寄るとグレタが泣きそうな顔でてっぺんを指差していた。
「無いの!」
「何?なにが無いと言うのだ?」
「モミの木のてっぺんには『星』がいるの。」
「星?」
大賢者の渡したと言う覚え書きを手にとってよくよく絵を見てみると、
確かにモミの木のてっぺんに星の絵が描いてあり、眞魔国語で一言「星」と書かれている。
「飾りではだめなのか?」
「わかんない・・・。でもね、他のところには『飾り』って書いてあるけどここには無いの。」
グレタに言われて確かめてみれば、モミの木の周りには『各種飾り』とあるのに、
星の部分には確かに『星』としか書かれていない。
「星・・・ユーリの国では空の星をどうやって集めてくるのだろう・・・?」
「長い網で掬ったり?アニシナの発明品みたいなので捕まえるのかもしれないよ?」
ユーリの国の習慣に合わせてやりたいと思うけれど、こちらで『星』を捕まえる方法なんて無いから、
グレタと2人で考える。
「・・・大賢者さまに方法をきいてくる?」
「そうしたいのは山々だがもうすぐユーリも帰ってくるし・・・。」
「そっか・・・でも、星が・・・」
悲しそうにモミの木を見上げるグレタを喜ばせてあげたくてぼくは必死で考えた。
「・・・!!そうだ!グレタ、この木を窓辺に運ぶんだ!」
「窓の横?」
2人で窓辺へモミの木を移動させる。
重たいそれを飾りも落とさないように慎重に運ぶのは骨が折れたが、それは愛しい人のためだ。
「よし、これで星の問題は解決だなっ!」
「??どうして?星なんて、乗ってないのに?」
いぶかしむグレタに視線を合わせてぼくはぼくの考えをゆっくりと示す。
「グレタ、ぼくには空の星を集める方法なんて及びもつかない。
だけれど、集める事は出来なくても呼ぶ事は出来るのではないかと思ったんだ。」
「星を、よぶの?」
「あぁ、今はまだ明るいが夜が更けば星が出る。星は空を巡るから、窓辺にこれを飾って置けば、
巡るたびに木のてっぺんに入れ替わり沢山の星が灯るだろう?」
まだ明るい空を指差し、グレタに笑いかけるとグレタも笑って頷いてくれた。
「では、続きを飾りつけようか!」
窓辺に移ってほんの少し冷えを感じる部屋の為、薪を多めに投げ入れてから、
つりーの下でふたり、赤と緑のリボンを結んでいくつもの飾りを作る。
愛しい人が戻るまであと少し。
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