視察から帰り、魔王部屋の扉を空けると温められた優しい空気が溢れてくる。
「ふぅ〜…暖かい!!ヴォルフ、グレタただいま〜!…ん?なんだあれ?!」
「おや…本当だ。」
踏み込んだこの部屋の主とその名付け親の視線の先、
窓べにはなにか得体の知れないものがぶら下がった木が立っていた。
確かに出掛けには無かったものだ。
不振に思いつつ2、3歩進んだとき、ユーリはその木の下に倒れる愛しい二人の姿に釘付けになった。
「ヴォルフ!?グレタ!!」
駆け寄って驚きに震える指で二人にそっと触れた。
「なに?なんで?なにがあったんだ??」
「あぁ、クリスマスの準備をしていたようですね。」
「・・・へ?」
「ほら、これを見てください。」
名付け親は至極冷静にその紙を主君の手に納めると、
今度は木の下で倒れ伏している二人に交互に触れ、『よく寝てる…。』とそれは優しく微笑んだ。
ユーリは渡された紙に視線を落とす。
「クリスマスツリー、木は先の尖った葉を持つ『モミの木』を用意。
各種飾りは、クリスマスブーツ、クッキーマン、ロウソク、リース…」
言われて可笑しな木を見上げてみれば、確かに色んな飾りがのっている。
実際の子供用の赤い靴…だろう物にお菓子が詰めてあったり、
クッキーマンなつもりか人型ではあるのだけど、
恰好が微妙に非常灯に描かれた逃げ出す人にそっくりだったり。
リースも細長い草を団子状に丸めた感じで、
リースというよりは砂漠をカサカサ転がっていそうな感じ。
ロウソクは使いさしのものを紐で括っているだけだし、
揚句赤いペンキでカラーリングされた喉笛一号までが
・・・まぁ差し当たりキャンデーステッキのつもりだろうが、ぶらんと掛かっているのだ。
「知らないものをそれらしく作るというのは、難しいことですよね。」
苦笑しながらブーツの中のお菓子をほんのひとつ摘みだし、笑う名付け親。
そして視線を落とせば木の下に転がり、寝息を立てる二人の手には赤と緑のリボンが握られていて。
確かにおおよそツリーとは呼べないそれは、でもほかのなにより優しい気持ちで彩られてる。
「大事なのは形じゃ無いんだって事、改めてよくわかった。
そしてさ、おれはやっぱり世界一の幸せ者なんだってそれも改めて・・・分かったよ。」
赤と緑の綺麗なリボンを握って、木の下に転がる『魔王さまへのプレゼント』!
本当ならクリスマス当日にあけるのがしきたりなんだろうけど、
一日早くリボンを解いてもサンタは怒らないでいてくれるだろうか?
そんなことを思いながらおれは二人の頬にキスをする。
感謝と愛を込めて。
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