優しい時間
「ねぇ、ヴォルフ!もっとお話、読んでよ。」
魔王ベットに行儀悪く寝転んで、足をバタバタさせながらグレタがお願いする。
その横には足を投げ出した格好で、ヴォルフラムが子供向けの童話のページを捲る。
おれは、というと。
そんな二人を見ながら、優しい時間を感じている。
「まったく、仕方がないな。」
あれだけ先を急かしていたくせに、読み進めていくうちに眠りの虜になってしまったらしいグレタを、
ほんの一瞬、呆れた顔で見てヴォルフラムは羽織っていた上着を脱いで、
眠ってしまったグレタの可愛らしい背中を覆った。
温かく、優しい香りを吸い込むようにグレタが一息、呼気を吸い込み吐き出すのを見て、
ユーリは思わず笑った。
『グレタは無意識だろうけど。それはおれもよくやるな〜。』
出会った頃は何人も眠れるほど広いベットにいて、
おれに引っ付いて廻るヴォルフをうっとおしく思うこともあった。
だけど、それがいつの日か横へすり寄ってくるヴォルフラムを、
自分のほうからきつく抱きしめて、
彼の白いうなじや線は細いがしっかりとした背中に鼻先をうずめ、
ヴォルフラム特有の甘い香りに心まで癒されていた。
「親子って・・本当に似るんだな。」
おれがいつの間にか癖にしていたその行為を、
グレタの姿に見ておもわずそう口に出したおれを見て、ヴォルフも呟く。
「なに?なにが感慨深かったのか知らないが、実際お前とグレタはよく似てるぞ?」
「たとえば?」
「そうだな。」
「妙に正義感が強くて、熱血漢なところとか。
加えて結構無鉄砲なところとか。」
「それはお前も一緒だろ?」
「・・・確かに。そうかもしれない。」
くるくると元気よく跳ねるグレタの髪を、指先で梳きながらヴォルフラムが笑う。
親子も夫婦も、お互いが似てくるのは、良い事も悪いことも曝け出して一番近くにいるからだ。
もしかしたら誰よりもそっくりな夫婦の間に、誰よりもそっくりな娘が一人。
「グレタは、眞王陛下の下さったぼくらの宝だ。」
その言葉に頷きながらおれは、うーん・・と小さく唸るグレタの額に、そっと手を当てた。
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