再会の為の別れ

 

眞魔国を抜け出し、馬を走らせる。

なんとなく海を見たかったから。

もちろん一人ではなく、不機嫌なわがままぷーを連れて。

 

澄んだ海水には不思議な魔力があるらしく、どうにも足を浸けたくなってしまう。

「よし、ちょっと入ってみよう!」

靴と靴下を脱ぎ捨て、裾を捲り上げると冷たい水に足を入れた。

足の裏を、指の間を、さらさらと流れる砂粒。

くすぐったいが不思議な感覚は笑いさえ運んでくる。

「お前はいつまでも子供だな。」

おれが水と戯れる姿をヴォルフは腕組みのポーズで黙って見ていた。

「ヴォルフも来いよ。スゲー気持ち良いぞ?」

「…ぼくとお前を一緒にするな。」

「今日はまた偉く不機嫌だな。おれなんかした?」

水音を立てて砂浜に上がる。

見つめた深緑の瞳が反らされ、溜息をつかれた。

「海を見るのは好きだ。だが…水場は嫌いだ。」

彼の言いたいことが分かった。

ささやかだが確かな愛を彼はくれる。

それは初めての決闘の後からずっとだ。

そしておれはというと、惜しみない愛を受け取り、

随分長い時をかけてこんな時の彼の扱い方をマスターした。

「あ〜あ、せっかくヴォルフと浜辺でデートだったのに。一緒に波打ち際を歩くの、夢だったのに。」

おれの一言でヴォルフはあからさまに表情を変えた。

「でーと?」

「そう。ヴォルフとだからそういうことしたかったのに。」

眉間に長兄譲りのシワを寄せる。

ヴォルフが悩んでいるのが良く分かるからそれ以上は何も言わず、わざと黙って待つ。

「本当に、ぼくだからか?」

「あぁ、もちろん!」

「本当に本当に、ぼくだけか?」

「当たり前だろ?」

ヴォルフは無言でブーツに手を掛け、それを脱ぎ捨てると、

ズボンの裾を折り、ゆっくり、俺の元へと歩いてきた。

差し伸べられる白磁の手をとって、波打ち際を歩く。

 

 

抜けるように白いヴォルフの脚に、

跳ねる水が光の粒を含んで、纏わりつく。

手を引くおれの手にかかる、僅かに遅れて歩くヴォルフの重さ。

おれたちの周りには、もう波の音しかない。

 

 

 

波うち際を歩く。

振り向けばそこにヴォルフがいる気配があって。

こうしてしっかり繋がっているのに、足元に転がるのは別れの恐怖。

でも、なんだろう。

おれはその恐怖を酷く穏やかな気持ちで受け入れている。

 

それはきっと、片手に掛かる温かさのせいだろう。

 

 

 

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2006/8/13

「夏になったらUPしよう!」と思って、こってりと寝かせておいた代物です。

浜辺でデート・・・しかも、静かなデート・・・うふ。