通り雨
「あ〜・・やられた。折角、こっちにとっていい流れだったのに。」
駆け込む簡易のベンチでメンバーの一人が雨粒を払いながら、ぼそりと呟く。
夏特有の通り雨に、我がダンディライオンズの練習試合は水を差された。
試合開始時点では、晴れ上がった空に入道雲。
ぎんぎらぎんと光るお天道様が憎らしいくらいの夏日だったのに。
いい流れで試合を運んでいたら、突然やってきた黒雲。
ごろごろと不穏な音を立て始めたかと思ったら、
あっという間にこの雨だ。
雨宿りに逃げ込んだおれたちを見ていたかのように、
最後の一人が駆け込んだところで、ぴしりと空が光る。
天から割くような光・・・・雷だ。
「この感じからして、かなり近いねぇ。」
のんびりとした村田の声。
「あ〜、落ちなきゃ良いけど。」
皆深いため息を一つ。
不規則な、ごろごろぴしゃりの繰り返しをみるともなしに見る。
『通り雨って・・・なんだか・・・』
空を見上げておれはふと思う。
『まるでヴォルフみたいだ』
何気ない日常のひとコマで、ごろごろと黒雲を呼ぶヴォルフラム。
『このっ、尻軽!浮気者!』と罵る声は、まるで雷鳴のよう。
おれの前でも、ましてや人前では絶対涙を見せないヴォルフだけど、
実は結構涙腺は弱いほうなんだと最近知った。
そう思うとまるでこの通り雨すら、地球で野球に現を抜かすおれに腹を立てたヴォルフの、
怒声の一つのようにすら思えるから・・・不思議だ。
『おいこらへなちょこっ!お前はまたやきゅうなのか?!』
『そうだよ、だっておれの趣味だもん。』
『そうやって、ぼくをないがしろにするならこちらにも考えがあるからなっ!』
・・・それであのいい流れを遮っての雨なのか?ヴォルフ?
そんなことを考えていたら、形のいい唇を尖らせ、頬を膨らませ、
そっぽを向く彼の姿を見た気がして、思わず小さく笑ってしまった。
「これ、止むかな?」
空を見上げて、疲れた声でまた誰かが呟いた。
「まぁ、通り雨だろうし。」
おれがその呟きにした返事を最後に皆空を見上げて、無言になった。
おれもそれに倣って空を見上げる。
でもおれは、最高の笑顔で。
『ないがしろになんてしてないよ。だっておれ、おまえのこと大好きだから。』
『・・・っ!?う、う、う、う、うるさいっ!!へなちょこの癖にっっ・・!』
『ほんとだって。そんでもって、おまえが笑った顔はもっと好きだぜ?』
『なっ・・っっ!!・・・このっ、卑怯者っ!』
こんなにスポーツマンシップ溢れたおれに、卑怯者はあんまりだぞと、
ぶつくさ言いながらでもおれが笑えば、あいつも一緒に笑うって、決まってるんだ。
だから。
魔王様が保障するよ。
「・・・すぐに止むさ。この雨は。」
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