◎ ホチキス ◎
補習の課題だと渡されたらしい大量のプリントを持って、渋谷が家にやってきた。
日数の少ない冬休みに、これはまた随分なお土産だと思いつつ、
まぁ半分は野球三昧の日々の結果という面もあるので、
僕は一刻も早くそれを打破できるように手助けをする決意をした。
「まずはそれ、教科ごとに分けた方がやりやすくないかい?」
引き出しからホチキスを取り出し、渋谷に放る。
キャッチボールはお手の物の彼はそれを受け取ると、無言でぱちんぱちんと端を留めていく。
ぱちん、ぱちん、ぱちん、ぱちん、ぱちん・・・・。
随分と多岐にわたった補習の課目に思わず苦笑。
『まったく・・・永遠の高校性魔王なんて。締まらないぞ、渋谷〜・・。』
僕が留め置いた課題に目を通していると、
ふと、カチカチと妙な音を立ててホチキスを見つめる彼に気づく。
「ん?渋谷どうした?ホチキスの玉、無くなっちゃった?」
「いや・・・違うけど・・・」
「そうかい?それにしては、すっごく深刻そうな顔してるけど?」
微妙な間と、視線に妙な熱さを感じて僕はさらに渋谷に問いかけた。
「いや、ホチキスっていいよなぁって、ちょっと思っただけ。」
「は?どこが?」
ホチキスって、いいなぁ?一体ホチキスのどこが渋谷の琴線に触れたのか、
甚だ疑問で聞き返す僕にいたってまじめに渋谷は答える。
「だって・・・こう、使うたびに上と下が合わさってさ、
なんかこう・・・仕事の度に、キスしてる、みたいじゃないか。」
「はぁ・・・」
上下がくっつくということで、ホチキスは仕事を果たしているわけだから
こればっかりは仕方ないだろうと、内心ではそう思ったけれど、
僕がそう口にする前に渋谷はさらに言い募った。
「おれなんか、仕事中にヴォルフがいると書類書きが進まないからって、
いつも離れ離れにさせられてるのにさ。
文房具の癖にキスしまくりって、なんかずるいし。
おれだってなぁ、もし、書名一個につき一回ヴォルフのキスがついてくるんだったら、
ぜぇぇぇったい、もっと仕事はかどると思うんだよなぁ。」
「渋谷・・・君ってやつは・・・。」
唇を尖らせてぶーぶー文句を言う渋谷の姿に、目の前のこの課題の山を早急に終わらせるためには、
しばし愛しの婚約者の下で欲求不満解消するのが、実は一番の近道かもしれない・・と、
抱えた頭の中でそう思ってしまった僕だった。
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